最近、諦めることは決して悪いことじゃない、と思えるようになった。

◯◯高校に行きたい! と思って挫折した中学時代。

◯◯大学に行きたい! と思って挫折した高校時代。

出版社の編集者として働きたい! と思って見事に玉砕した大学時代。

なんとか入った会社でバリバリ活躍する! と思って全く上手くいかなかった20代前半。

 

振り返ると挫折ばかりの人生。笑

世の中って、わたしが思っていた以上にややこしくて難解で上手くいかないものなのね! ということをいまさら実感している。

 

人生が上手くいかないのはわたしの人生観が甘すぎたのが原因だと分析している。

小さい頃から人の道に外れずにまじめに生きていれば自動的に自分の思った通りの人生を歩めるはずという根拠のない自信があって、あんまり現実を見ようとしていなかった。

ひとりっ子だったことも大きい。

ひとりっ子はとにかくやかされる親が自分のことをいつまでも見てくれると信じて疑わない。だからわたしは安心してひとりの世界に没頭して、現実の社会とピントがどんどんずれていっちゃったんだと思う。

 

でも人生は「挫折したー! えーん!」なんて言ったってだれも助けてくれない。自分のできることをやるしかない。自分で立ち上がるしかない。

ということを社会人になってようやく悟る自分の現実を受け入れながら、自分の目標を少しずつ軌道修正させることを最近になってやっと覚えた

 

窪美澄『じっと手を見る』は、上手くいかない現実を眼前につきつけられる物語だ

富士山に近くて海のないところで生まれ育ち、地元の特別養護老人ホームで介護士として働く20代の若者とその周辺の人々が描かれる

北海道や九州ほど東京が遠いわけでもないが、遊びに行こうとは思わない。上京する理由も夢もない。家もそんな余裕ないし、生活していくためにできそうなことと言ったら介護士くらいだと思って……。彼らはそんな理由で日々淡々と仕事をこなし、堅実にたくましく生きる。

 

『じっと手を見る』は連作短編集になっていて、登場人物それぞれの視点で物語が進む。

20代にもかかわらず、家族全員を亡くしてしまった日奈。

父親が自殺未遂をて以降、不安定な家族を支え続ける海斗。

性に奔放で、職場を転々としながら割り切って介護士の仕事を続ける真弓。

日奈が狂おしいほど好きになってしまった、東京から来た謎の多い男・宮澤。

日奈と海斗は元恋人同士で、海斗はいまだに日奈のことを忘れられない。真弓はバツイチ子持ちで海斗と関係を持ち、宮澤は既婚者だ。登場人物の生い立ちだけでも「現実のうまくいかなさ」が如実に表れているのに、そこに輪をかけて人間関係のうまくいかなさが描かれる。

 

読んでいて悲しくなる。介護士は絶対に必要とされる職業だけれど、かなりのハードワークだ。癒しといえば車でショッピングモールへ行くか、湖へ行くか、くらいしかない。地味で平凡な日々。外の世界へ……なんて夢物語を語っている場合じゃないから仕方がない。

物語全体に漂うのは「諦め」の空気なのだ。

 

日奈と海斗の恋愛模様も読んでいて胸が痛む。

宮澤は東京から来たデザイン会社の人間で、広報誌の撮影とインタビューのために施設を訪れ、日奈と海斗と知り合う。

宮澤ひょんなことから日奈と関係を持つようになり、そのままずるずると関係を続けてしまう……。

 

なんだよ、もうお先真っ暗じゃん……と思うのだが、なぜかページをめくる手を止められない。彼らに感情移入しまくり、あまりの「上手くいかなさ」にどうなってしまうのか気になって仕方なかったからだ


物語の結末決してハッピーなものじゃない。

ガソリン切れのに乗ってしまったときを想像した。しばらくは大丈夫なのだがそのうち少しずつスピードが落ちていく。ガソリンスタンドを探すのだがなかなか見つからない。そしてとうとう止まりそうになったときに「もうこの車は止ま、仕方ないな」と納得させられる。止まったときにはあーあ、と思いつつも、切り替えて何かしらの行動を起こす。

登場人物はゆるやかに現実を受け入れ、納得きった状態で「諦める」のだ。

 

「諦める」シーンを読んでいて悪い気がしなかった。

諦められるということは、その対象に対して自分が全力を尽くしたことの裏返し、もしくはそんなに熱中するほどのものじゃなかったと納得できたからだと思う

 

あらゆる手を尽くしたけれど、もうどうにもならない。

どうして? なぜ? としばらくもがき苦しむけれど、少しずつ気持ちが落ち着き、それから諦めることができるようになる。

鉛のように重かった気持ちが、少し悲しいけれどまぁ仕方ないよね、と言えるくらい軽くなって気持ちの移り変わりが丁寧に描かれていて、「諦め」を飲み込めたときの軽やかさを心地よく感じたのだ。

 

読み終わってこの物語に自分の人生を照らし合わせてみる。

徐々に軌道修正をかけているわたしの目標も、いつかまるきり諦める時が来るかもしれない……。でも、それでも良いと思えるときは、すごくスカッとした気分になっている気がする。感じてみたいと思うけれど、往生際の悪いわたしはまだまだその境地には至れない。

諦めがつくまで熱中できるものを見つけられること自体、めちゃくちゃ幸せなことだなと改めて実感した一冊だった。