| 雪国改版 (角川文庫) [ 川端康成 ] 390円 楽天 |
こんな日にこんな物語を読むんじゃなかった。
最近とにかく寒い。冷たい。
有名な冒頭「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」(5頁)から気温がぐっと下がっていく様子を感じてひとり震える。
「雪国」は無為徒食の日々を過ごす男・島村が雪国の温泉宿に長逗留する物語だ。
一年に一度、島村はここでふたりの女の「熱」に惹かれる。財産があり、なんでも手に入る東京の暮らしに慣れてしまったことで、どこか冷めた目を持つ島村は女の健気で清潔な「熱」に圧倒されるのだ。
ひとりは駒子という芸者。彼女は島村が初めて訪れた頃から親しくなり、宿へ訪れるたびに職や住まいが変わっていった。病床の許嫁のために療育費を稼ぐ働き者で、日記を欠かさず書く几帳面な性格だった。
島村は駒子の健気に働く様子に「徒労だね。」(40頁)と冷めた調子でつぶやくが、島村は駒子の健気さのなかにある熱と清潔感にどうしても惹かれるのだった。
もうひとりは葉子という女。雪国へ向かう汽車に乗り合わせた女で、病人の男の看病を甲斐甲斐しくやっていたのが印象に残っていた。その病人は駒子の許嫁で、葉子と病人の関係はわからないが、葉子は駒子を「憎んでいる」という。島村は葉子の世話を焼く様子や病人の死後もお墓参りに日毎行っている様子にただならぬものを感じ取り、葉子の「熱」にも惹かれていく…。
女たちの「熱」が上がれば上がるほど島村は冷めていくように感じた。駒子と島村とは親密な関係になるが、東京に細君のいる暮らしを持つ島村はそれ以上を望まない。
なんて奴だ…!と腹わたが煮え繰り返るが、その冷めた目が駒子の「徒労」や葉子のまめまめしさを際立たせるのだ。
最終部では温泉街に火事が起こるが、彼らの「熱」と「冷」がさらに際立つ。島村は圧倒されるばかりで、どうしても「熱」の側には行けないのだった。
「水を浴びて黒い焼屑が落ち散らばったなかに、駒子は芸者の長い裾を曳いてよろけた。葉子を胸に抱えて戻ろうとした。その必死に踏ん張った顔の下に、葉子の昇天しそうにうつろな顔が垂れていた。駒子は自分の犠牲か刑罰かを抱いているように見えた。(中略)
「この子、気がちがうわ。気がちがうわ。」
そう言う声が物狂わしい駒子に近づこうとして、葉子を駒子から抱き取ろうとする男達に押されてよろめいた。踏みこたえて目を上げた途端、さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった。」(173頁)
島村の目には「徒労」に見えても、駒子や葉子にはそうでなく映っている。そうでないものの正体がわからなかった島村は、ふたりの女との間に境界をただ感じるだけなのだ…。
最近は、寒さをしのぐためにとにかく「身体を温める」ことを意識している。お風呂に入ったり、運動したりして身体の内側を温めるようにしている。暖房ももちろんつけるけれど、暖房の風は乾燥するしどこか物足りない。身体を温めないと風邪をひきやすいということも最近わかってきた。
島村は熱を自家発電できなさそうなタイプだ。女たちをカイロだと思っているんじゃないかと思うと再び腹わたが煮えくりかえる。
冷めた目でしかいられない島村はふたりの女が羨ましかったのだろうか。そう思うと島村を少し気の毒に感じた。
雪の寒さと熱とむなしさがとくに際立つ物語だった。
