| 感傷旅行 (ポプラ文庫) [ 田辺聖子 ]
561円
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旅は家に帰ってくるまでが旅で、旅の想い出はまたとない想い出。
そういえば旅ってこういう性質のものだったな〜と改めて思った一冊。
著者の田辺聖子さんは1960年代から2000年代始め頃まで恋愛小説を書き続けた偉大な女性作家で、「感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)」でで第50回芥川賞を受賞した。
数年前から60年代〜70年代の作品が新装版として書店に出ているので、2年くらい前からこつこつ田辺聖子作品を集め、じっくり読むのが最近の楽しみだ。
本書は表題作「感傷旅行」のほか、旅にまつわる3編の物語が収録された短編集。
表題作「感傷旅行」は大阪で放送作家として活躍する有以子の戦友・男友達のヒロシの視点から恋愛の浮き沈みが描かれている。
有以子は恋人が絶えない奔放な性格だが、ついに結婚を決める相手を見つけた!というヒロシへの報告から物語は始まる。
放送作家という職業柄、有以子の交友関係は幅広いが、今度の相手はなんと共産党員で線路工夫をしている青年だと言う。
有以子の新恋人のケイは党員らしい理屈っぽさもありながら朴訥な性格の好青年だ。ケイには朴訥さに隠れた秘密がありそうだが、有以子はどうやら本気らしい。
しばらく微笑ましく見守るヒロシだったが、ある日有以子はケイに手酷い別れ方をされたと泣きついてきて…。
恋の終わりを旅の終わりになぞらえていて、タイトルの「感傷旅行」に合点した。
恋人に夢中な時期のどこか軽率で周りが見えない感じがよくあらわれていて、感情がころころ変わるのに振り回されるいやな感じが無いのはヒロシが有以子をちょっと好きだと思っているのと、有以子が「阪神間の高級住宅地で使われる、関西ふうな柔らかみを帯びた標準語」(122頁)を話すからだろう。
旅の終わりに寂しくなってセンチメンタルな気分になるとき、走馬灯のように想い出が走り抜けていく感じは誰もが経験したことがあるだろう。
ラストで夜の大阪(キタ)のネオンきらめく街並みが描かれるが、それがセンチメンタルな気分をより駆り立てていた。
表題作のほかに「恋の棺」「いま何時?」「田舎の薔薇」の3編があり、どの短編にも共通するのが旅の想い出を日常に"持ち越さない"ところだった。
「恋の棺」では主人公・宇禰のバカンスにくっついてきた甥の有二との一夜限りの触れ合い、「いま何時?」では旅先で時間を訪ねて仲良くなった初対面の男女、「田舎の薔薇」は日常にくたびれて急遽一人旅を決行する町医者の「私」の旅先での特別なひとときが描かれ、どれもがまたとない「想い出」に変わっていく。
表題作の「感傷旅行」だけが実際に旅に出ていないけれど、恋の終わりがまたとない「想い出」に変わっていくのは3編と同じだ。
同じところで同じ人と同じことを繰り返しても、最初と同じ感情は二度と起こらない。それっきりだから旅って楽しいのよね。
そういう意味で恋も同じなんじゃないかしらん?と言っているように感じた一冊だった。
