気疲れ。
それは、平和や調和を重んじる日本人特有のものなのかもしれない。
 
アメリカからの帰国子女・隆大と付き合いだした樹理恵は、アメリカナイズされた恋人の思考についていけなかった。
隆大は突如自分の家に元カノ・アキヨを一時的に住まわすと宣言したからだ。
 
アキヨは隆大とアメリカで7年付き合っていて、隆大の帰国に一緒についてきたのだった。帰国後破局したがアキヨは生活が困窮してしまい、アキヨを振った負い目もあってか隆大はアキヨを「助ける」ことに決めたのだ。
 
隆大は樹理恵が変わらず一番好きで、困窮したアキヨを見かねて一時的に住まわすだけだと言い、さらに納得できないなら別れるのもやむを得ないとまで言い、樹理恵はしぶしぶ了承する。
樹理恵はアメリカでは部屋を貸すことはよくあることだ、それを日本で実践しているだけだ、隣人愛的思考なのだと自分に言い聞かせるものの、やはり隆大とアキヨの生活に納得がいかない…。
 
このあらすじを読んだだけで怒りがこみ上げてくる。
隆大の宣言と言い分は自己都合でしかないのだが、恋は盲目、好きフィルターがかかっている樹理恵は彼の意見を吞み込もうと懸命に努力するのである…。
 
樹理恵は池袋の大手百貨店で洋服の販売員として働く28歳。経済的に自立した社会人ならではの冷静で理知的な性格の持ち主だが、健気で律儀なところがあった。
対する元カノのアキヨは住所不定・求職中でギリギリの生活を送る30歳。よく言えば可憐で天真爛漫、悪く言えばおぼこくて傲慢な彼女は隆大の「守ってあげなきゃ」欲をくすぐるのだった。
 
この2人は樹理恵による突撃!隆大のお宅訪問にて面会を果たす。樹理恵はアキヨに出て行けと言うために突撃したのだが、アキヨに昼食(うな重のごはん抜き)をふるまわれ、現在の困窮している状況を聞くうちに戦意をなくしてしまう…。
 
嫉妬の炎が燃え盛っているのに自制的な行動をとってしまう樹理恵の姿に胸が痛む。樹理恵はアメリカから来た身寄りのない彼女を「かわいそう」と同情してしまうのだ。
 
結局、樹理恵の「かわいそう」は恋人に良く思われたいがための虚勢にすぎなかった。
隆大とアキヨの関係は黒に近いグレーであることがわかり、樹理恵はこれまで抑え込んできた怒りを爆発させるのだった…。
 
樹理恵のブチギレ加減は本書で確かめてほしい。コテコテの関西弁でブチギレる樹理恵の姿に、修羅場のはずなのに笑ってしまった。
 
社会人たるもの、イライラしたときの処世術はいくつか持っているだろう。
しかし、通勤途中に鳩フンをかけられたり、昼食のプチトマトの汁が白いズボンについちゃったりして予期せぬ不幸が重なってどうにもむしゃくしゃしてしまうときがある。
 
そんな時に「かわいそうだね?」でブチギレした樹理恵の姿を思い浮かべてニヤニヤすれば、少しは気が晴れる。
コテコテの関西弁を久しぶりに聞いて(読んで)かなりスカッとした。
 
綿矢りさ『かわいそうだね?』には表題作の他に「亜美ちゃんは美人」という短編が収録されている。精巧につくられた人形のような美しさの少女・亜美ちゃんの親友・さかきちゃんのねじれた友情と自意識の物語だ。どちらにも嫉妬と自己嫌悪が描かれていて、自分の荒んだ心が慰められた気分になった。
 
ユニクロのアンクルパンツ(白)についたトマトの染みが全然落ちなくてさっきまでむしゃくしゃしていたわたしは、この本に助けられたばかりである。
 
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うなぎはごはんと一緒に食べるもんやぁ!