| Red (中公文庫) [ 島本理生 ] 842円 楽天 |
魅力的な女性にならなきゃ。
妻として、夫に尽くしてあげなきゃ。
母親なんだから、子どもを立派に育てなきゃ。
呪いの言葉に息がつまる。
島本理生『Red』は、主人公・塔子が複数人の男性に翻弄される不倫小説である。
複数人の男性とは、絶縁したはずの元愛人・鞍田と、会社の同僚・小鷹と、夫の真だ。
塔子は大手企業のSEとしてバリバリ働いていたが、真との結婚・妊娠をきっかけに仕事を辞め、現在は2歳の娘・翠を育てる専業主婦である。
塔子は復職希望だったが、真の両親と二世帯で暮らしているため保育園の預け先がなかなか決まらず、義母に頼りきりになるわけにもいかず、仕事を辞めざるを得なかった。
まだまだ手のかかる娘の世話と夫と義母からの「こういう妻であれ、母親であれ」というプレッシャーの日々は塔子をじりじりと追い詰めていた。
追い詰められた日々は、不倫の引き金を簡単に引いてしまうのかもしれない。
ある日塔子は友人の結婚式で元愛人・鞍田に再会してしまい、10年以上の歳月が経ったにもかかわらず塔子は鞍田と再び求め合うようになってしまう…。
一夜限りで終わるはずだった鞍田との出会いは、塔子の実生活をも変える。鞍田の紹介で再就職先が決まり、同時期に翠の預け先も奇跡的に決まったのだ。
再び働くことへの喜びと鞍田との関係に対する罪悪感と不安は同じ分量で塔子を襲う。
しかし再就職先では鞍田だけでなく、仕事はできるがキャバクラ狂いの軽薄な男・小鷹に目をつけられるのだった…。
この物語に共感ではなく嫌悪感を抱いている自分に安堵した。
まだまだ男社会が色濃く残る日本企業、亭主関白・マザコン夫の愚鈍さとプライドの高さ、鞍田の理性の無さと狡猾さ、小鷹の軽薄さ…すべてに嫌悪した。
そして鞍田の久しぶりの求愛を拒めなかった、拒まなかった塔子の愚かさと優柔不断さに憤怒した。
とは言え塔子はしたたかな女性である。家事育児を完璧にこなし、義母とも良好な関係を保つ。夫にイラっとすることはあってもきちんと夫を立ててふるまう。
鞍田の求愛を拒まなかったのは、本能なのか、戦略なのか。物語上では鞍田を求めてしまう塔子の罪悪感が延々と語られるが、塔子の不倫は夫には全くバレないのだ。
罪悪感を感じながら、バレないようにきっちり嘘をつく。日常にも全く影響させない塔子の無意識なふるまいに、男性は惹かれるのだろうか。
はじめは男性たちに翻弄されていたが、次第に自分の芯を曲げない塔子の恐ろしいまでの我慢強さがあらわれてきて、塔子の潜在的な怒りとしたたかさを強く感じた。
そして、鞍田との関係はどうなってしまうのか、夫との関係は破綻してしまうのか…塔子の行く末が気になり、最後まで一気に読んだ。
単行本で400頁超の大作だが、深夜の勢いで読み切ることができた。一気読みじゃなければ嫌悪と憤怒を抱えきれずに途中で投げ出していたかもしれない。
島本理生『Red』は追い詰められた女性の不倫への沈み方と働く女性にまとわりつく数々の呪いを描き切った物語だ。
塔子の行動を擁護する気はないが、頑張ることに疲れた女性の侘しさを感じ取ってしまい、はっきりと断罪しきれない。
「どんなに高尚な本を読んだり複雑なシステムについて学んでも、一番身近なコンビニの棚は、愛されだのモテだの婚活だの不妊治療だのの文字で埋め尽くされていて、仕事の悩み特集は大半が白黒ページで、外見も所作も内面もすべて美しくなってモテたり結婚したりするためのカラーページの影なのだ。
愛とは見返りを求めないこと、純粋に与える愛情こそ美しい。そんな文句は、あくまで国の象徴のように生かしながら、その実、結局は「愛する」だけじゃだめで、「愛され」なきゃ意味がない、と堂々と主張している。そんな世論を嫌悪しながらも、反発しながらも、その通りだと思った。」
(322頁)
もし、わたしの身の周りで不幸なことが重なって、本当にまいってしまった時に、悪魔的な手を振り払えるだろうか。想像するだに恐ろしい。
数年後わたしがどう思うだろうか。
今はいくつかの呪いの言葉が消えてなくなれ、みんな聡明な人間になれ、と強く思うばかりだ。
特に予定のない夜、お風呂に入ってパックして歯を磨いて寝る準備万端になったところで、あっなんか今日は本が読みたい気分かも。となる時はないでしょうか。
そんな時におすすめの一冊です。読み終わったら深夜2時になっていました。夜ふかし注意。
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