桐野夏生『グロテスク』(文春文庫)


都内の名門私立女子校が舞台。とある少女の悲劇と不条理な現実が描かれている。
またこの物語は「東電OL殺人事件」という90年代に実際にあった事件をモチーフとしているが、当時のことを知らなくても充分に引き込まれる。


「自立心」を教育のモットーとしたことで奇しくも現実の厳しさと不条理が露わになり、まるで実社会の縮図のような環境になってしまったのが、舞台となる名門・Q女子高等学校。

名門私立ということもあり、Q女子高には相当の学力と経済力が無ければ入学不可能。そんな学校に念願叶い入学する女子生徒たちは鼻高々な気分で校舎に入っていくが、そこは実社会よりもある意味で厳しい"階級社会"が普及していた。

女子の争いは目に見えた暴力こそ無いが、心の中では血みどろの殴り合いをしていることがある。

初等部から大学まであるエスカレーター式のQ女子高は「入学が早い順」に序列が決まり、初等部組が最上級、高等部から入学組が底辺という階級社会が揺らぐことなく存在していた。

物語は高等部から入学した女子学生の視点から語られるが、高等部組はその図式にすっぽりとはめ込まれるしかなく、高等部組は入学して数週間で高々な鼻っ柱をへし折られる。

高等部組は悔しさの余り、時間は取り戻せないのであれば学力で優位に立つしかないと躍起になるも、学力では中等部からの入学組という中位層に歯が立たず、高等部組はここでプライドを滅多打ちにされてしまう…。

ここまで読んで相当ダメージが来るのだが、Q女子高にはさらに女子学生のプライドをへし折る"特例"があり、飛び抜けて容姿が美しい人は特別に高等部組でも学内ヒエラルキーで上位層になれるのだ。自分磨きの時間を削って一生懸命勉強し、やっとの思いでQ女子高に入学した女子学生のプライドはここでズタボロにされるのである。

物語設定だけでも惹きつけられるポイントがいくつかあるが、この物語には怪物のように美しい少女・ユリコが登場する。

Q女子高に入学し、周囲の人間を悪魔的に翻弄するという物語は想定されるだろうが、わたしはその後の言葉通りの「グロテスク」な展開に圧倒されてしまった。

前述した「東電OL殺人事件」とどのようにリンクしていくのかはぜひ本書を読んで確かめて欲しい。

頭の中で想像することは出来るが、絶対に実行してはならないこと。実行したくないこと。もろもろ想像していただきたいのだが、とにかく他者に"堕ちた"と言われないように、人はみないろんな努力をして頭の中の地獄(なのか、悪魔なのか)を打ち消しているんだろうと思う。

作中には頭の中の地獄、あるいは悪魔が暴走して振り切ってしまった、一線を越えてしまった女性の見るに堪えない悲劇が描かれている。

わたしは彼女の悲劇に対して、正直自分も「怪物」になる潜在要素があると感じて戦慄した。

自分に自信が無い人にはある意味ショック療法かもしれないが、「怪物」にならないためにもぜひこの一冊をお勧めしたい。