本書は「いなか、の、すとーかー」と「ウォーク・イン・クローゼット」の二編収録。

「いなか、の、すとーかー」は陶芸家として成功しつつある青年・透が故郷の小椚村(こぬぎむら)に工房を建てて制作に耽るなかで東京から追いかけてきたストーカーに悩まされる物語。

「灼熱列島」というドキュメンタリー番組に出演したことで透の知名度は上がるなか、ストーカーの行動がエスカレートしていく様が緻密に描かれていて、ホラー映画を見ているようなスリルを味わえる。


「鼻歌を歌いながら、デニムのポケットから鍵を取り出し、ドアの鍵穴に差し込む。ドアを開けるとき、いつも誇らしい気持ちになる。この工房はおれが仕事のために建てた、おれだけの城だ。
中へ入ると、見知らぬ女がろくろを回していた。
だれだ!?
血の気が引く。
濡らし過ぎた土が泥になって飛び散るなか、回り続ける電動ろくろの中心で、女の手が支えている、麦わら帽子みたいにやたら口の広がった器の端がゆがみ、へにゃへにゃになって、塊ごと床へ落ちた。女がゆっくりと顔を上げた。
だれだ!? なんでおれの工房にいる!?」(27頁)

「気にしなければ、適当にあしらえば普通の生活は送れる程度の被害のはずなのに、些細な嫌がらせから日常が瓦解していく。やはりおれのメンタルが豆腐なせいなのか。
いろんな考えが浮かんでは壊れて消えて、はかないシャボン玉の思考が頭からはみ出て部屋中を埋め尽くし、気がつけば片づけたガラスの破片をくるんだ新聞紙を手に持ったまま、小一時間部屋をただ右往左往していた。
ああ、だから犯罪なんだな。はたからみれば、少し滑稽な痴情のもつれみたいに見えるかもしれないけど、もとの生活が取り戻せなくなるほど、ストーカーは破壊力のある行為なんだ。これは、された人にしか分からないだろう。(中略)
もう、声にならない。おれは今夜も見張られている。震える手で携帯を掴み、すうすけに電話するが、寝てて電源を切っているのか、何回かけてもつながらない。ああ、ほかにだれにかけたらいいだろう。親にかけたら、こちらも応答がない。」(55頁)


主人公の疲労が日に日に増していく様子や、ストーカーの恐怖が事細かに描かれている。
ある日、透は夜中にストーカーの気配を察知し、思い切って捕まえて懲らしめようとする。しかし、そこにいたのは工房に忍び込んだ女ではなく、意外な人物だった…。
ホラー要素があるなか、透の友人・すうすけの呑気な様子が物語の雰囲気を中和しているようで、適度なスリルを味わうことができた。


「ウォーク・イン・クローゼット」は28歳OL・独身の主人公・早希が不器用ながらも彼氏を見つけようと奮闘する物語。洋服が大好きな早希だが、男性と食事をする時のモテ服・いまの流行の服・TPOに合わせた服ばかりで「素の自分」をあらわすような洋服が無い。周りに合わせてばかりだから良い男に巡り合えないのか…と思いつつ、一度振られた男友達・ユーヤと会うときはやはりモテ服を選んでしまう。

早希には幼なじみのだりあがいる。だりあは芸能事務所に所属し、最近ワイドショーにコメンテーターとして出演するようになった売り出し中のタレントだ。早希はユーヤやだりあに人生相談をしながら彼氏を作ろうと奮闘するがなかなか上手くいかない。


「迷うなら、いっそ会う人にどう思われるか考えずに、本当に自分の好きなカッコをしてみたら?
自分に提案してみるけど、こうしてクローゼットの中の服たちをベッドの上に出したら、本当に着たい服なんて一枚も無い。そもそも私の本当に着たい服ってどんなだろう? 選ぶ段階で主観ではなく他人の視点で店頭に並ぶ服を見ているから、どんな服に出会っても、ときめきより先に"これ着てたら○○さんにほめられそう"が先にくる。で、実際買う服はどれも会う人に、TPOに、いまの流行に合わせただけの個性のない服。でもやっぱりそういう服にかぎってみんなの目に留まって褒められたりするから、狙いは外してない。」(169頁)

「クローゼットを開き、街歩き用と決めていたアンゴラのふわふわニットワンピースを取り出すが、ぶりっこすぎて着る気になれない。隆史くんはさりげなくおしゃれだから、いかにもなモテ服だと舞い上がっている気持ちを見抜かれてしまいそうだ。」(220頁)


クローゼットの前で逡巡する主人公の姿に共感することしきりである。
なかなか成果のあがらない早希の生活だが、ある日だりあが真夜中に訪問し、とんでもない事実を早希に告白する…。

表題の通りファッションの描写が多いのだが、早希とだりあの友情物語もあり、恋のときめきもあり、読むだけで女子力が上がりそうな物語だった。

早希とだりあの会話が、カワイイものを取り上げつつも皮肉を込めて語る感じがいかにも「ガールズトーク」だなぁ、と思った。

最初にスリルを感じ、最後にはときめきを与えてくれる、とてもお得な一冊。



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