独りぼっちの老猫


長毛のミケ猫さんは

古い集合住宅で高齢のおばあさんと、もう1匹の若い猫と3人でつつましくも平和に暮らしていた。

ある日、おばあさんが施設に入る事になった。

引越しの日、親戚が数名でやってきて、忙しそうにおばあさんを車に乗せると、猫の事等気にも留めずに施設へと引越しをしてしまった。

2匹の猫は置き去りになり、飼い主も居なくなり、そして…ホームレスとなった。


家に入ろうとしても、戸は開かない…。

ミケ猫は、長い時間戸の前に座っていた。

「おばあちゃん、戸をあけて…私、ここで待っているのに…。暖かいお部屋に入れて…」

雨の日も、晴れの日も、ミケ猫と若い猫は戸が開くのを待ち続けた。

しかし、何日たっても、その戸が開くことは無かった。


そして、一緒に暮らしていたもう1匹の若い猫も、食べ物を求め、いつしか、どこかへ出かけ、帰って来なくなった


「私…独りぼっちになっちゃった…」

仕方なく、ミケ猫は、フラフラと食べ物を求めて歩き出した

「お腹が空いた…。おばあちゃん、どうして私を家に入れてくれないの?私の事が嫌いになったの?」


ミケ猫は高齢だった

目は見えにくく、鼻も効きにくい。

足の動く方に進むしか出来る事は何も無かった。


とぼとぼ歩く高齢の猫に、通り過ぎる人間は誰一人気に留める者は居ない。


暫くして、ミケ猫は、美味しそうな匂いをかぎ付けた。

どこからか漂ってくる、鰹節の出汁の匂いか…


空腹に耐えかね、ミケ猫は必死に匂いを辿った。

「美味しい匂い…お腹が空いた…」

効き難い鼻に神経を集中させた。そして、フラフラと匂いに釣られ歩き続けた…。


「野良猫ッ!出て行け!汚らしい!」

男性の怒鳴り声で、ハッと我に返った。


どうやら、匂いに釣られて、コンビニエンスストアーに入り込んでしまったようだ。

店内に漂うおでんの出汁の香り、暖かい店内…

ミケ猫は、どうにも我慢が出来ず、追い出されても追い出されても、ドアが開くたびに自動ドアから何度も店内に入ってしまった。

しかし、猫が大嫌いな店長は、その都度 大声で怒鳴りミケ猫を乱暴に足で蹴りだした。


「お腹が空いて…どうか御飯を下さい。お願いします」

ミケ猫は何度も頼んでみた。


しかし、店長は何度もミケ猫を蹴りだした。


一人のお客さんが、フラフラと店内に入り込む猫を見て

「あら~、食品を扱っているのに、猫が居るわ 不衛生ね」と顔を曇らせた。


来客の一声に、店長は…

「すみません!野良猫なんですよ。何度追い出しても入ってきてしまって。今追い出します!」

そういうと

「二度と入ってくるな!」そう叫び、ミケ猫の顎の辺りを思いっきり蹴り上げた!


「ギャン!」

ミケ猫は、大きく弧を描いて宙を舞い、ドサッと地面に叩きつけられた。


そして、逃げる力も体力も無く、ただ力なくその場に蹲った。


更に、ミケ猫は、「二度と入って来るなよ!野良猫め!死んでしまえ!」と、罵声を浴びた。


数時間後、偶然近所に住む猫好きの女性が通りかかった。

「あらっ?いつもコンビニの前に居た猫さん。どうしたの?」

その女性は、ミケ猫がコンビニの前で独りぼっちで長時間座っている姿を何回か見かけ、飼い猫なのか迷い猫なのか?一体どうしたのだろうと心配していた。


そのミケ猫が、今目の前で蹲っている。

日頃の心配が現実になったのか?女性は心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。

そして、ミケ猫の顔を見て、女性は言葉を失った。

顎から大量の血が流れ出し、猫の顔は血まみれだった。

女性は、震える手で急いでミケ猫を抱き上げ、

「どうしたの??一体どうしてこんな事に…」そういうと、急いで獣医さんへ運び込んだ。


診察の結果は、ミケ猫の下の顎は砕け、下の牙が上あごに突き刺さっていた。

先生は「蹴り上げ等の下からの強い力で衝撃を受けたのでしょう。高齢の猫さんですが、良く耐えましたよね。急いで手術しましょう。大丈夫、助けますよ」


女性は、先生の言葉に暖かいものを感じながら、ただ一言震える声で「お願いします」と言った。



女性の手厚い看護でミケ猫は、数ヶ月後にはすっかり回復した。

捨てられ、独りぼっちになり、彷徨、猫嫌いの店長に蹴り殺される所を、猫好きの女性に救われた。


今、高齢のミケ猫は、助けてくれた女性の家で、ゆったりと暮らしている。

「ミケちゃん、もう何処へも行かなくて良いのよ。ずっと一緒に暮らしましょうね」

もう、空腹で彷徨事は無い。人間に蹴られる事も無い。優しい手で撫でられながら、暖かいベッドでゆったりとした時間を過ごしている。

そして…もう独りぼっちではない。

優しい家族がいる。決して、自分を捨てない家族がいる。


「ミケちゃん、ブラッシングしてから、御飯にしましょう」

暖かい声がミケ猫を包み込む。


ゴロゴロ ゴロゴロ 自然と喉が鳴る。

高齢のミケ猫は独りぼっちではない幸せを体中で感じている…。


ミケ猫は時々思い出し、考える。

「一緒に暮らしていたあの子、どうしているかしら」

三毛猫と一緒に暮らしていた、もう1匹の若い猫の行方は…、未だに分からない。


終わり

(by多国籍)


このお話は、実在の猫をモデルに書きました。

モデルになったノルゥエージャンフォレストキャットのミケ猫さんは、高齢の方が飼っていたのですが、家を失い、遠方のコンビにたどり着き、人が入るたびに店内に入ってしまっては、猫嫌いの店長に追い出されていました。

ある日、顎に大怪我をしている所を、ねこけんメンバーのKさんに保護されました。

今では、怪我も癒えて、Kさん宅で大切にされています。


様々な理由で捨てられる命達。その中には、ご高齢の方が飼われている猫が、様々な理由で遺棄されたり、センターに持ち込まれたりしている現実があります。

家族が大切にしていたペットも家族です。

家族を、どうか捨てないで下さい。

あなたの母親や父親が、家族として愛していたペットを、簡単に捨てないで下さい。

同じように愛して下さい

その命もまた、大切な家族なのですから