「消えない家族」

かなり前の話だが、俺は小さい小さい仔猫で産まれた。
余りに小さいから、母親は俺の事をおちびんさんと呼んでいた程だ。

こじんまりとしたブリーダーの家で産まれた俺は、1ヶ月もしない間に母親から引き離されて、小さな箱にたった1匹で入れられて、長い時間揺られた。
そして、箱の蓋が開いた時には、知らない場所で、ガラスケースに入れられた。

「此処は何処?お母さんや、兄弟は?」

周りの人間達に聞いてみたが、誰一人として俺の質問に耳を傾けてくれる人は居なかった。

俺は寂しくて孤独だった。

数日もすると、俺は違うガラスケースに移された。
そこは、大きな人間の顔が、毎日毎日俺を覗き込み、時に笑顔で時に無関心な表情で俺の前を通り過ぎた。

俺の両隣りには、どうも「犬」という生物が居るらしいが、見ることは出来なかった。
俺は小さなガラスケースの中で、小さいボールを相手に遊び、小さいベッドで寝て、トイレも食事も全てその小さな空間でするしか無かった。

そんなある日、小さい女の子が俺の前で止まった。
俺の顔を見ようと、女の子は背伸びをしながら、母親を呼んだ。
「お母さん!私、この子が良い!グレーのこの子!」
呼ばれた母親は、俺のケースを覗きこんだ。
その人間の顔は…目の周りが青くて、眉毛が細い!
俺は少し怖かった。
「ええ、この子?普通のグレーじゃない。それよりもあっちのチンチラの仔猫が可愛いわよ」
俺はどうやらグレーの猫らしい。
正面のガラスケースに居た仔猫達は、みんなクリーム色だったり、黒かったりしていたので、俺はてっきり自分もクリーム色か黒だと思っていたんだ。
そんな事を思っていると…

母親は「ただのグレーだけど、良いの?すぐ飽きちゃうんじゃないの?」と、言い放って、女の子の手を引いて、向かい側のチンチラのケースへ行こうとしていた。
まったく失礼なおばさんだと思った。

しかし、女の子は
「お母さん!私はこの子が良いもん!この子!」

すると、母親は
「仕方が無いわね。あなたが面倒を見なさいよ。お母さんは白いチンチラの子が良いって言ったんだから。まぁ、飽きたらチンチラを買えば良いわね」
と、言いながら、店員を呼んだ。

俺はまた小さな箱に入れられた。


車で1時間もすると、俺は人間の家に着いた。
そして、大きな部屋の中のケージに入れられた。
「へえ~大きな部屋だな…」

その頃の俺は、本当に小さくて可愛かったんだ。

数ヶ月もすると、俺はケージの中が窮屈で堪らなくなった。

女の子は、俺をケージから出して自由にしてくれた。
広いリビングや長い廊下、ベランダには気持ちの良い風が吹いていた。

俺は何の疑問も持たなかったが、この家の人間は家に居ない事が多い。
俺は時間が来ると自動でご飯が出てくる機械と、水が循環する機械と暮らしていた気がする。

1年もたつと、寂しさも孤独も、何も感じなくなった。
感じるのはただ時間の流れ、年の重なり、そして自由。
家族ってそんなもんなんだろうと思っていた。

ある日、お母さんがふわふわの白い仔猫を連れてきた。
それは、遠いあの日に見た、そうチンチラの仔猫に似ていた。

母親は、その仔猫を溺愛していた。
一緒に寝て、TVをみるときも膝に乗せてブラッシングをしていた。
俺は特に何も感じなかったが、その日から、俺の首輪がリボンからノミ取り首輪に変わった。
そして、俺は室内と外を自由に行き来するようになった。
俺は、チンチラのあいつとは、どうも違うみたいだった。
家族って、個々に違うものなのだろうか?きっとそうなんだろう。

たまにチンチラのまねをして、膝に乗ろうとすると、母親はすぐに立ち上がりどこかへ行った。
俺に対する家族は…スキンシップも何も無いタイプなんだろう。


天気の良い日、俺は家から出て、遠くのマンションの美味しいご飯をくれるおばさんの所へ行った。
このおばさんは、いつも俺を可愛いと言いながら撫でてくれる。
そして、美味しいご飯を食べさせてくれた。
機械が出してくれるご飯より、おばさんが出してくれるご飯は美味かった。
そして、撫でられるととても幸せな気分になった。
ゴロゴロ ゴロゴロ 俺は目を細めた。

そのうち、俺は毎日おばさんの所へ通うようになった。
おばさんが、俺の家族だったら良かったのに…
いや、そんな無理な事を考えても無駄だ。
良いんだこれで。これが俺の人生なんだろうから。

数年後の曇りの日、俺はいつものようにおばさんの出してくれる美味しいご飯を平らげ、帰路に着いた。
家の門の前に着くと、丁度家族が車で外出をするところだった。
以前から、家族は俺を置いて、旅行に行く事が有ったので、特に気にはならなかったが、車が通り過ぎる時に、今は大きくなって、余り家に寄り付かなくなっていたあの女の子が俺を見つけた。
そして、何故か目を逸らし、顔を背けたまま俺に手を振った。

それから、何日たっても家族は戻って来なかった。
家に入る事も出来ず、俺はひたすら玄関の前で待つしか無かった。
寒い日も、暑い日も、曇りの日も…待った。待ち続けた。
それが無駄な行為だと分かるまで、数ヶ月掛かった。

俺の家族は消えてしまった。
俺は、置き去りにされてしまったようだ。
俺の家族は…死ぬまで家族ではなかったのだろうか…。
ふわふわのあいつだけ連れて、消えてしまった俺の家族。

そんなに、ふわふわの仔猫が可愛いなら、俺をあそこで買う必要が有ったのだろうか?
もしかしたら他に、本当に俺の事を可愛い、家族と思って連れ帰ってくれる人間がいたかも知れないのに。
子供の我侭で、俺の人生は決まってしまっていたのだろうか。

俺は、家族を諦めて、毎日ご飯をくれるおばさんの元へ通った。
体の大きな俺は、近所のオス達から喧嘩を売られる事はしょっちゅうだった。
体は傷だらけ。顔も傷だらけで、エラは大きく張り出した。
牙も折れてしまったようだが、外では戦いを止める事は餌場を失い、死を意味する。
俺は生きる為に戦った。

毎日新しい傷を作って現れる俺を見て、おばさんは心配そうに言う
「もう年なんだから、喧嘩は止めなさい。誰かグレを飼ってくれると良いのにね…うちはペット不可だし…何とかならないかしらね」

俺は、「グレ」という名前らしい。
そういえば…元の家族がいた家では、俺はなんて呼ばれていたんだろう?
不思議な事に、どうしても名前が思い出せないんだ。
俺の前の名前はなんだったんだろう?

数日後、ボランティアと言う人間がおばさんと一緒に俺を待っていた。
そして…

俺はまた、檻のような箱に入れられた。
そして、あの日と同じように、車に乗せられ、人間の家に着いた。
俺は何回箱に入れられ、運ばれるんだろう?人間は何回俺に孤独と寂しさを思い出させるのだろうか?

「グレ男、もうお外の生活は終わり。新しい家族を見つけようね」
その女の人は、俺にそう言いながら、綺麗な水と、清潔なベッドを用意してくれた。

えっ?どうせまた家族は消えてしまうんだろう?
俺はまた孤独になるんだろう?
膝に乗せてくれないんだろう?
優しく撫でてくれないんだろう?
自動の餌やり器や、循環する水飲み機械と暮らすんだろう?

だったら、あのマンションのおばさんの所に戻りたい。
おばさんは、俺を撫でてくれるんだから。

しかし…数日もすると、俺は今までとは違う家の暮らしを知った。
毎日「おはよう」と声を掛けてくれる。
「グレオ、御飯だよ」と御飯を出してくれる。
「グレオ、こっちおいで~」と撫でてくれる。
そしてまた、撫でられるととても幸せな気分になった。
家族と暮らすってこういう事なんだろうか?
ゴロゴロ ゴロゴロ 俺は目を細めた。


多国籍の犬猫な毎日(おティんクな気分で)-201305101846000.jpg
※イメージ写真です。


俺は、最近寝てばかりいる。
誰にも追いかけられない、誰にも追い払われない、そして、いつも綺麗な水と、優しい笑顔がある。この生活は、とても安心できた。何よりも、俺を迎え入れてくれているのを感じる。
当たり前の生活かも知れないが、幸せってこういう事を言うのだろうか?


「グレ男、エイズ陽性だった」

エイズって何だ?俺に病気の事を言われても、よく分からないんだ。
それって、また家族を失う事なのか?
また、外の生活に戻ることなのか?
こんなに優しい気持をくれたんだ、また外に捨てられたところで俺は恨むつもりも無かった。

「でもね、大丈夫。病気なら、なおさら外になんて返せない。保護猫決定ね」
笑顔で「グレオ、可愛いね」と言った。


その女の人は、消えない。変わらない。

今日も、俺はその人の家の中で、日向ぼっこをしながら寝ている。
ゴロゴロ ゴロゴロ  嬉しくて、幸せで、俺は目を細めた。

ゴロゴロ ゴロゴロ 消えない家族と暮らすことって幸せだな…。

「グレ男、いつまでも仲良くしようね」

ゴロゴロ ゴロゴロ  嬉しくて、幸せで、俺はまた目を細めた。
多国籍の犬猫な毎日(おティんクな気分で)-201305101847000.jpg
※イメージ写真です。


***このお話はフィクションです*****


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日時 2013年 6月2日(日) 午後1時~午後5時

場所 東京都板橋区志村1-32-25

交通 都営三田線 志村坂上駅下車 徒歩約5分
スーパーサントクの前( コインパーキングあり)

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※離乳前、8週齢前の仔猫は譲渡致しません。

里親会に出られるようになった仔猫のみ、譲渡対象となりますので、予約や面会は出来ませんので、ご理解ご協力をお願い申しあげます。


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上記より、条件・契約書をご確認ください。
①終生飼育 ②完全室内飼養 ③不妊・去勢手術 ④医療費の負担 などの条件や、里親さんになっていただく手順などを記載しています。


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