「枯葉のベッド」

僕は、お母さんの作った乾いた枯葉の敷いてあるベッドで、お母さんのお腹の辺りで寝るのが好きだったんだ。
フワフワして、暖かい。そして、凄く安心できるんだよ。

~*~*~*~

僕たちは、箱の中に居た。
河川敷に捨てられた箱の中に居た。
お母さんは、大きなお腹で、この箱に入れられて此処に降ろされたんだ。
そして、お母さんは、重いお腹を抱えて、枯葉を集めてベッドを作り、そして僕たちを産んだ。

僕には妹と弟がいた。
妹は小さくて、尻尾が長い。
弟は、顔が大きくて尻尾が短いんだ。
僕は、真っ黒!
お母さんと僕たちで家族仲良く、毎日を過ごして来た。

一番下の弟が歩けるようになると、お母さんは僕たちを連れて、今まで居た大きな箱から外に出た。
僕は、初めて見る風景に、目を見張った。

冷たい風が頬に当たる。冷たい空気が鼻に入る。
冷たい土が足を凍えさせる…。
箱の外は寒いんだね。

お母さんは、一番足の遅い妹を加えて、僕たちを見守りながら進んだ。

「お母さん、僕も運んでよ。足が冷たいんだ」

お母さんは言った。
「クウは、お兄ちゃんでしょ。弟のダイも、独りで歩いているんだから、がんばって」

僕は、がんばる事にした。
弟のダイと一緒にお母さんに一生懸命付いて行った。

暫く歩いて、お母さんは茂みの中の小屋のような所まで来て、妹を降ろした。

「ニャ~ン」
お母さんが声を掛けると、中からおじさんが出てきた。
僕は驚いて、お母さんの後ろに隠れた。

おじさんは、優しい声で「おお、どうしたんだい?こんな所に子供を連れて来て…」
お母さんはまた「ニャ~ン」と鳴いた。

おじさんは、近くの広場で、いつもおかあさんに御飯をくれていた人間だった。
「入りなさい。こんな場所では、子育ては大変だろう。此処は良くネコが捨てられる。怪我をしたり、病気になったり、妊娠したり、飼いきれないからと、簡単に捨てていく人間が多いんだ」

そう言って、おじさんは、お母さんと僕たちを、汚くて小さな小屋に入れてくれた。

小屋の中は、隙間風が寒かったけど、外よりは暖かい。
そして、雨風を凌げるし、安心出来た。

おじさんは、マットの上に乾いた枯葉を沢山乗せて、ベッドを作ってくれた。
「お母さんの枯葉のベッドだ!」
僕は、一番に飛び乗った!
フワ!と体を受け止めてくれる枯葉がパリっと小さく音を鳴らした。
お母さんのベッドは、暖かい。

その日から、僕とお母さんと、妹弟、そしておじさんとの暮らしが始まった。

おじさんは、昼間はリヤカーを引いて出掛けて行って、夕方になると僕達の為に川で小さい魚を釣ってくれた。
時々、ボランティアという人間が来て、おじさんに御飯やシャツを、僕たちには缶詰をくれた。

僕も、弟達も、どんどん大きくなった。

そんなある日。
僕たちはいつものように、小屋の前でプロレスごっこをして遊んでいた。
遠くに、聞いたことが無い男の人の声と、犬の声がしていた。

がさがさっ!と音がしたと思った途端!
草陰から大きな犬が飛び出し、いきなり妹に襲い掛かった。
「あっ!危ない!」と思った、その時、犬の牙が妹の体を貫いた。

「ギャーン」と妹は、恐ろしい叫び声をあげた。

その声を聞きつけて、お母さんが戻って来た。
お母さんは、妹を押さえつけている犬を見るなり、目をめがけて飛び掛った。
そして、犬は「ギャン!」と一声あげて、妹を放した。
そして、今度はお母さんをめがけて飛び掛った。
お母さんは、犬の牙をかわしながら、草の茂の中に向かって走りだした。
犬はワンワンほえながら、お母さんを追いかけて茂みに入って行った。
恐ろしい犬の声は、僕達からどんどん遠ざかった。

僕は、怖くて怖くてがたがた震えながら、血まみれの妹の顔を覗きこんだ。
妹は苦しそうな息をしながら、震えていた。

僕は、怖くて怖くて、妹の側でうずくまって震えていた。
「お母さん!早く帰ってきてよ。僕、怖い」

弟が「お兄ちゃん、僕怖いよう。怖いよう」と泣きだした。

「おい、泣くな。僕だって怖いんだ。でも、今妹の方がもっと怖がっているんだ。だから、僕たちは強くなって我慢するんだ!」
弟は、泣きながら頷いた。

暫くして、おじさんが戻って来た。
いつもなら、「お土産だよ」と小魚を手にニコニコ笑顔なのに、今日のおじさんは、悲しい顔をしている。

「おじさん、妹を助けてよ。妹は体中が痛いんだ」

良く見ると、おじさんは腕に何かを抱えていた。

おじさんは、それをそっと、小屋の中の枯葉のベッドに降ろした。

「あっ!!お母さん!」

お母さんは既に動かなくなっていた。

「この河川敷には、リードをつけないで猟犬や大型犬を放して散歩させる人が後を断たないんだ。中には、わざと捨て猫や仔猫を追わせる人も居て、今までも多くの命が犠牲になった。でもな、犬は悪くないんだ。犬は本能で飼い主が仕掛ければ獲物を狩る。まったく、残酷な人間や自分さえ良ければ良いと思っている人間のせいで…。おまえ達のお母さんがは、お前達を助ける為に、自分がおとりになって…。おじさんも、犬を追いかけながら、犬の飼い主に必死に頼んだ。「犬を放さないでくれ」「襲われているネコを助けてくれ」と。でも、飼い主は「おまえに関係有るのか!勝手に河川敷に住みつきやがって!」って怒鳴り散らして、行ってしまった。そして、急いでお前達のお母さんを救おうと草の中に分け入ったのだが…。もうその時は息絶えていたんだ。」

おじさんは、泣きながら、外に出て妹の体も連れて来てくれた。
そして、動かない妹をお母さんのお腹のあたりにおいてくれた。

「おじさん、何でお母さんは動かないの?何で妹は動かないの?もう一緒に遊べないの?」

おじさんは、俯いたまま、うなだれていた。

翌日の朝、おじさんはお母さんの体と、妹を一緒に埋葬してくれた。

そこは、おじさんが埋葬した動物達のお墓が沢山ある場所だった。

「こんなにお墓が有る…。何でみんな逝ってしまうんだろう?僕達はただ、普通に生きているだけなのに…」

その日の夜、またあのボランティアという人間がおじさんをたずねて来た。
そして、その人は、僕と弟を籠に入れた。

「おじさん?僕達、何処へ行くの?また違う場所に捨てられちゃうの?おじさん、おじさんと一緒に居られないの?」

すると、おじさんは「おまえ達は、幸せになって欲しいんだ。おまえ達のお母さんが命がけで守ったおまえ達を、おじさんでは守りきれない。ごめんな、情けなくて…。だから、この人達にお願いをしたんだ。おまえ達が安心して暮らせるようにして欲しいと」

おじさんとボランティアさんは、暫く話をしていたけど、僕たちは籠のまま、車に乗せられた。


籠の中からは、外は見えない。
何処へ行くのかな?
今まで嗅いだことがない臭いがする。

そして…
「着いたわよ。君達は此処で暮らそうね。此処は安心して暮らせる場所よ。命の危険も、飢えも乾きもないの。爪とぎも綺麗なお水も、美味しいご飯も有るわ。ね、私と一緒に暮らしましょう」

ふ~ん。そうか。僕達はこの人と暮らすんだ。ねえ、おじさんも人間だったよね?おじさんは僕たちとは暮らせない人間だったの?
人間には、色々な種類が有るんだね。
優しい人、怖い人、貧乏な人、他人の為に何かをする人、される人…
そうか、僕達の毛の色が違うように、人間も色々なんだね。

「お兄ちゃん!お母さんのベッドがあるよ!」
部屋を探検していた弟が僕を呼んだ。

「あっ…」

そこには、枯葉の模様が付いた、やわらかいベッドが置かれていた。
僕達はベッドに飛び乗って、丸まった。

「お母さん、暖かいよ。僕と弟は暖かいよ。もう大丈夫」

ベッドで寝ている僕達のひげを、窓から入る風が揺らし、お日様の光は、優しく僕達を照らしている。
ボランティアのお姉さんは、お母さんと同じ、優しい笑顔で僕達を見つめる。

「お母さん、お母さんの枯葉のベッドは、やっぱり暖かいよ…お母さん…僕達もう安全だよ」

終わり




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日時 2013年 4月21日(日) 午後1時~午後5時

場所 東京都板橋区志村1-32-25

交通 都営三田線 志村坂上駅下車 徒歩約5分
スーパーサントクの前( コインパーキングあり)

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