3日目、先生は走ってきた奈々ちゃんに言った。

「ごめんよ。猫さん、死んでしまったんだ…。綺麗にしてあげたから、お墓に埋めてあげて」

先生は、白い小さな箱に、白い包帯を巻いた猫を入れて、奈々ちゃんへ渡した。

奈々ちゃんは、箱を受け取り猫の重みを腕に感じながら涙が止まらなかった。

大切にしていた消しゴムを無くした時よりも、鍵をなくしてお母さんに怒られた時よりも、もっともっと悲しかった。

奈々ちゃんが泣いていると

先生は無表情のまま、手書きの請求書を書いて、奈々ちゃんの前に出した。

請求書 猫の治療、入院代 ¥10,000


奈々ちゃんのお小遣いではとても払えない金額だった。

「どうしよう…」

先生は、俯いたままの奈々ちゃんの手に請求書を渡しながら「大人になって、仕事をして、稼げるようになったら返してね」と言った。


「えっ?」顔を上げた奈々ちゃんの目に、先生の笑顔があった。


「ありがとうございます!先生!ありがとう!私、早く大きくなって、沢山働いて、必ず返しに来るね」


奈々ちゃんは、茶色の猫が入った箱を抱えて、家に帰った。

そして、骨の猫さんのお墓の横に、白い包帯の猫さんを埋葬した。

「猫さん、もっと早く見つけてあげられなくてごめんね。天国で元気に暮らしてね」

手を合わせた。


その後も、奈々ちゃんは毎日骨の猫さんと、白い包帯をした茶色の猫さんが居た場所を通ったが、幸いにも跳ねられた猫を見ることは無かった。


数十年後

一人の女性が、赤いポストのある角を曲がった、公園の周囲を何かを探して何度も何度も歩いている。

そして、翌日も、その翌日も、その女性は何かを探していた。

「おかしいな…確か此処に虹色動物病院が有ったはずなんだけど…」

公園の横には、古くから立っているお寺があるだけで、その女性の探している建物は、どうしても見つからなかった。

女性は、近くを通りかかったおばあさんを見つけると、「あの…数十年前に此処に動物病院が有ったと思うのですが、引越されたのでしょうか?」と聞いてみた。

お婆さんは「さぁ~?この辺りは以前からお寺さんだったからね…動物病院?あったかしらね…、聞いたことも見たことも無いけど。ごめんなさいね」そういうと、杖をつきながら行ってしまった。

「おかしいなぁ、小さい時の事だから、私の記憶が間違えているのかな?確か、名前に「虹」が付いていたような気がするけど…あれっ?なんていう名前の病院だったっけ?え~と…」

そう呟くと諦めたように帰って行った。

猫を救うボランティア団体を立ち上げた、その女性の持っているバッグからは、1万円の入った白い封筒が覗いていた。




「さて、行くか」

立ち上がった白衣の男性の足元には、茶色の猫と三毛猫が擦り寄って甘えている。

そして、2匹の猫と一緒に笑顔で虹の橋を渡って行った。




「 お~い、この木だよな」

「そうそう。その木はもう寿命だよな。枯れて来ていて切り倒さないと危ないんだ」


大きな通りの歩道に植えられていた、木は切り倒されて、2トントラックの荷台に積まれて行った。手を振るように枝を揺らしながら…