すると、Nが飯を大量に盛った皿と、綺麗な水を持って来た。

「熊五郎!何処にいるの?ご飯だよ。今日から熊五郎は家の家族だよ。出てきなよ~。ご飯だよ」


相変わらず、空気が読めないNだなと思ったが、俺様の隠れ技は完璧なようだ。

俺様を見つけられず、飯と水を置いて、Nは部屋を出て行った。


危険はなさそうだが、俺様は油断をしないで隠れ続けた。

夜になったようだ。

Nは、寝ている。

チャンスは今だ!


俺様の縄張り、俺様の猫生、俺様の自由を取り戻す為に、俺様は脱出を図った。

透明な窓に、何度も体当たりをした。何度も何度も!

しかし、薄い氷のようなガラスは何故か割れない。

諦めてはいけない。俺様は、更にジャンプして窓に体当たりをした。


するとNが起きてきた。

「熊、ごめんね。何とか慣れてくれないかな」

俺様は、すぐさま隠れた。

そして、またNが寝てしまうと、窓に体当たりを繰り返した。

流石に、疲れて来て、俺様はうかつにも弱気になって来てしまった。

そして、大声で己の猫生を嘆き悲しみ叫んだ!

何でこんな事になってしまったんだ。

何故、檻に入ってしまったんだ。

俺様の自由はもう無いのか…

俺様の縄張りは取られてしまうのか…

何て事なんだ…。俺様の猫生は、こんな狭い部屋で一生を終える運命だったのか…


嘆きに嘆いて、叫び続けた。しかし、どんなに嘆いても、窓は開かない。

またNが起きてきた。

「熊五郎、そんなに此処が嫌なの? 最初に捕まえてしまった時に、信頼関係が崩れちゃったのかな?熊の歯を治療する為だったけど、保健所や愛護センターに連れて行かれると思っちゃったかな?そんな事しないのに…。それと、誤解がないように伝えておくけど、あそこは処分だけではなく、必死に持ち込まれた動物を救おうとしているセンターやボラさんもいるんだよ。熊が行ったところは獣医さんだし…。ねえ、熊、そんなにお外に帰りたいの?私は、熊の為を考えて家に来て貰ったけど、かえって、熊を嘆き悲しませてしまった。ごめんね。ごめんね。そんなにお外が良いの?」


俺様は、当たり前だ!と言いたかったが、ひたすら気配を消して隠れていた。

すると、Nは、あの決して開かなかった窓を大きく開けて姿の見えない俺様に言った。

「熊五郎、ごめんね。私の勝手な思い込みで、熊を閉じ込めてしまって。熊にとっては、お外生活が幸せなんだね。お外にいる子が全部不幸な訳ではないんだね?全部可哀想な訳ではないんだね?毎日、ご飯を貰って、人間と共存する為に増えないようにして、見守っていれば、熊たちにとっても幸せなの?そうなんだね。ごめんね、熊」

俺様は、Nがまたベッドに戻って行った事を確認すると、大きく開いた窓に満足しながら外に出た。

伸びをして、外の空気を一杯に吸い込んだ。

体中に染み渡る自由と満足感。良かった。

でも、俺様は、ちょっとNが気になって、ゆっくり振り返ると、いつの間にか窓からNが泣きながら俺様を見送っていた。