「 ツキ 」~5~最終回


お日様が優しく照る日、源蔵爺さんはツキに声を掛けた

「ツキ、婆ちゃんの墓参りに行こうかぁ~」

ツキは、目を2~3回瞬かせて、源蔵爺さんの足に擦り寄った。

「そうかそうかぁ~、ツキも行きたいかぁ~」

源蔵爺さんは背負子にツキを乗っけて、お婆の墓へ出かけた。


墓前に着くと、ツキは畑に通うのによろめいていたとは思えない程身軽にピョンと背負子から飛び降り、墓石に頭をこすり付けてゴロゴロと喉を鳴らしている。

源蔵爺さんはお婆の墓前で手を合わせた。

「婆さんや、爺ちゃんも随分歳を取ったからよぉ~。足も痛くなるし、腰も曲がったぁ~。こん先、何年ツキにマンマを運んでやれるか分からん。だがよぉ~、爺ちゃんはツキを残しては、死んじまうことはできねえからなぁ~。ツキにお願いがあるんだぁ~。1日だけで良いから、爺ちゃんより先に婆さんのとこへ行ってくれねぇかぁ~?爺ちゃんは、ツキを婆ちゃんの所へちゃ~んと送り届けるまでは、絶対に死なんから…。婆さん、爺ちゃんがそっち行く1日でも前に、ツキを迎えに来てやってくれぇ~」

ツキは、時々源蔵爺さんの顔を見つめながら、顔を洗っている。

「ツキ、婆さんにもお願いをしておいたからよぉ~。爺ちゃんをツキより1日だけ長生きさせてくれぇ~爺ちゃんより1日だけ早くツキを迎えに来てくれよぉってなぁ。」


数年がたち、ツキもかなり歳をとった。耳も遠いようで、源蔵爺さんが声を掛けても気が付かない事が多くなった。

源蔵爺さんも、お婆にお願いをした事を、毎晩々布団に入るたびに心を過ぎった。


星が綺麗に見える夜、ツキが、赤い座蒲団で丸くなって寝ていると、婆ちゃんが縁側に座っていた。

ツキは、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らして、婆ちゃんの太くてごつごつした手に何度も何度も頭を擦り付けた。

「ツキ、独りにしてすまなかったねぇ~。ツキ~待っていてくれたんだねぇ~これからは一緒に居られるからなぁ~ツキ~。迎えに来たよぉ~」

ツキは、いつまでも喉を鳴らして婆ちゃんに甘えた。


翌朝、源蔵爺さんがツキにご飯を運んで来ると、ツキは汚れたお婆のちゃんちゃんこの隣の赤い座蒲団の上で、いつものように丸くなり眠るようにして亡くなっていた。


源蔵爺さんは、ツキの穏やかな顔を暫く眺め、ツキの冷たくなった頭を優しく撫でた。

そして、めっきり弱ってしまった手足を動かし、お婆のちゃんちゃんこにツキを包み、赤い座蒲団と一緒に、ツキをお婆の隣に埋葬した。


「ツキ、婆さん迎えに来たんだなぁ~。また一緒に居られて良かったなぁ~。爺ちゃんはもう少し後から行くから、婆さんにそう伝えてくれぇ~。なぁ~、婆ちゃん、ツキ~、約束守ってくれてありがとうなぁ~爺ちゃんもこれで安心してそっちに行けるなぁ~。」


源蔵爺さんは、遠くなった耳に、「ミュ~」というツキの小さな声を聞いた。


~終わり~