(フィクションです)

「ツキ」~2~

午後になって、大根を3本抱えてお婆が家に戻ると、赤い座布団の上には小さな黒い毛玉のような子猫が丸くなって寝ていた。

「おやぁ~、座布団気に入ったかぁ~?おめえにやるから、毎日そこで寝ろぉ~ それにしても、可愛い子猫だねぇ~。」

子猫は少し顔を上げて、また2~3回静かに瞬きをした。
お婆が、お茶を入れて縁側に座ると、子猫はもう逃げなかった。
お婆の隣の赤い座布団の上で、気持ち良さそうに寝ている。

「おめえ、行く所ないのかぁ?ばあちゃん家は贅沢はさせてやれないけど、毎日のマンマは食わせてやるから、ばあちゃんちの子になるかぁ~?」

黒い子猫は、また顔を上げて、瞬きをした。

「そうかぁ~。それじゃあ、名前をつけてやら無いといけないねぇ~。」

子猫の首の下辺りに、月型の白い毛があるので、お婆は月の輪熊のような風貌から、「ツキ」と名づけた。
その日から、ツキとお婆のゆったりとした同居生活が始まった。

毎朝、お婆は野良仕事や山仕事に出かけるが、ツキはいつの間にか、お婆に付いて畑や山に行くようになった。

隣の源蔵爺さんは、毎朝ツキとお婆が一緒に出かけて行くのを見かけて声を掛けた。

「婆さんや、いつの間に熊の子を手なずけたぁ~?」

「嫌だねぇ~。熊の子じゃぁないよぉ~猫の子だぁ~」

源蔵爺さんは愉快そうに、歯の抜けた口を大きく開けて笑った。

毎日々、お婆とツキは、畑に行き、山に行き、夜は一緒にTVを見て、お婆の布団で寝た。

いくつもの季節が通り過ぎ、お婆の腰はもっと曲がり、耳はもっと遠くなった。
それでも、ツキとお婆は毎日一緒に、畑や山に行った。

源蔵爺さんが「ツキは、ばあさんの孫みたいだなぁ~」と言うと、
お婆は「そうだねぇ~ツキは孫のようだぁ~。言葉もちゃんとわかるんだぁ~」と嬉しそうに皺くちゃの顔をほころばせた。


ある日、いつものようにばあちゃんとツキは一緒に山へ山菜を採りに行った。
朝は天気がよく、ポカポカと暖かかったが、昼を過ぎる辺りから、日が陰り肌寒くなって来た。
「ツキ~、今日はもう帰ろうなぁ~ 急に寒くなると風邪ひくといけないからなぁ~」と腰を上げたお婆が、山菜を持ち上げようと屈もうとしたら…急にへなへなと腰が砕けて、お婆はその場で気を失ってしまった。
ツキは何が起きたのか分からず、二ャー二ャー鳴きながら、お婆の顔を覗き込んだ。