舌を頼りに 30年間食べもの絵日記を描き続けている 雑食性サラリーマンです。
食記・九州編より28・よねさん
私の2年間の福岡勤務に終止符が打たれたのは、努めていた会社の経営が傾いたことが原因である(その後つぶれた)。このまま福岡で失業したのでは大変だと思っていたところ、さいわい声をかけてくれた人がいたので、名古屋へ帰ることにしたのだ。
福岡での2年間、仕事上では大変なことばかりだったので、帰ることになってホッとしていたのは事実だが、福岡を去る間際になって見つけた、天神の西鉄ソラリアホテルの近くにあった天ぷら屋台の[よねさん]は、私の後ろ髪をぐいぐい引っ張る存在であった。
何しろ安くて旨かったのだ。たらふく食べて飲んで2,000円を超えたことは一度もない。唯一の欠点は混んでいることで、満員のときは西鉄ソラリアホテルのロビーで席が空くまで待っているのだが、待っている間もそれはそれで楽しかった。
結局、福岡在住最後の一か月に5回行って未練を断ち切るしかなかった。今でもそうだが、私は天ぷらのネタではキスが一番好きだ。よねさんで、熱々ほろほろのキスの天ぷらを次から次へと口に放り込んで、その熱さの余韻の残るところへビールを流し込む幸せを、私はその後一度も味わうことなく28年も生きてきた。やっぱり失業してでも福岡に残っていた方が幸福だったのかも知れないと、今の私は思わないでもない。
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