私は毎年8月になると、井伏鱒二の「黒い雨」を読む。この小説は御存のように原爆投下直後の広島と、その数年後の主人公一家に起こる諸々の事柄を描いたものだが、案外、食べ物の記述が丁寧なのである。もちろんそういう観点で読むべき本ではないのだろうが、どうも私は食べ物の記述がでてくると、どんな味だったのだろうかなどと想像してしまうのである。
私が特に興味を引かれるのは十三章の冒頭で、主人公の重松と、重松の働いている会社の工場長が牛罐を食べる場面である。おそらく牛肉の大和煮なのだろうが、ひどく旨そうに描写してあるのだ。
実は先日、酒ビックにいったら馬肉の大和煮の缶詰があったので買っておいたのだが、広島から帰ってきて空けることにした。
ちなみに牛肉の大和煮は高くてなかなか昨今手が出ない、でもひさしぶりに食べた肉の大和煮の缶詰は結構おいしかった。雑穀米と馬肉大和煮だけで十分にごちそうである。しかし、きっと原爆投下5日後の広島で、重松が食べた牛罐は、もっとずっと美味しかったんだろうな、などと考える私はやはり不謹慎なのだろうか。
