
痛みは、過去にあるんじゃない。
過去はただ、出来事という事実があっただけです。
それが傷となって今もうずいていて、 痛みや悲しみとして感じられるのは・・・
——今の自分が、その痛みを必要としているから。
これを聞いて、「それはひどい」と思うかもしれません。
痛みを「必要としている」なんて、まるで自分が選んでいるみたいで。
でも、責めたいわけではないのです。
弱いとか、大げさだとか、そういう話じゃない。
ただ、私たちの脳が——サバイバル脳が——そうさせているだけです。
アドラー心理学に「トラウマは存在しない」という言葉があります。
この言葉、心から賛同できますか?
わたしは長い間、できませんでした。
確かに思い出すたびに胸は痛むし、無意識に体はこわばるのに
「トラウマは存在しない」なんて、あまりにも乱暴に聞こえます。
過去に悲しいことがあって、深く傷ついた。
あの出来事がなければ、今の自分は違ったはずだ。
そう思っている人に向かって「トラウマは存在しない」と言い切るのは、
痛みをなかったことにしているみたいで、ひどい。冷たい。
だから賛同できなかったし、まったく理解できずに反発しました。
("アドラー心理学は劇薬である"と言われるのはこういうところでしょうね)
でも、アドラー本人がどんな人生を生きた人か、知っていますか。
アドラーはユダヤ人として生まれ、ナチスの台頭とともに
命からがら生まれ故郷のドイツを追われ、 アメリカに亡命するしかなかった人です。
軍医として従軍し、戦場で傷ついた兵士たちを治療し続けました。
でもその治療は、兵士たちをまた戦場に送り返すためのものでした。
治せば治すほど、また死地へ向かわせることになる。
その葛藤の中で、それでも働き続けた人です。
そのアドラーが、あらゆる苦しみと悲しみの中で 命がけでたどり着いた言葉が
「トラウマは存在しない」でした。
これは冷たい言葉ではないのです。
誰よりも深く痛みを知っている人間が、 その痛みの正体を見届けた末に出した結論なのです。
アドラーが本当に言いたかったのは
「過去の痛みを、あなたは今この瞬間も必要としている。それはなぜか。」
という問いです。
ちょっと、言い方が責められているように聞こえちゃいますけどね。
「あなたはトラウマを使っている。その方が都合がいいからだ」という表現が、
「あなたのせいだ」と聞こえてしまいがちです。
だからコンプレックスつよつよで、
トラウマの火力強めの私にも 刺さらず、なかなか賛同できなかったのですけれど。
でもけっきょく、
過去の出来事が痛みを作っているのではなく、
今の自分が痛みに執着している——というところは、
アドラーもわたしも同じことを言っています。
なぜ私たちは痛みを必要とするのか。
サバイバル脳は「戦いを生き残ること」を最優先にしています。
そのために、痛みを手放さない。
痛みがあることで——
「わたしはこれだけ傷ついている」という存在証明になる。
不毛であるとわかっている今の人間関係を断ち切らない理由になる。
慣れ親しんだ今の環境から抜け出せない言い訳にできる。
変わることへの恐怖を、「過去のせい」として正当化できる。
痛みは、サバイバル脳にとってカサブタのような「盾」なんです。
その盾がある限り、まだ傷は癒えていないと言い張ることができる。
変わらなくてすむ。
挑戦しなくてすむ。
失敗しなくてすむ。
サバイバル脳は、こうやって頭をぐるぐるさせます。
どうにもできないことをどうにかするという、 終わりなき消耗戦で戦い続けたり。
ありもしない妄想で自分を不安と心配の牢獄に閉じ込めたり。
大切な人生の時間、お金、労力を、心から望む未来への投資ではなく
一発大逆転のギャンブルに駆り立てたり。
そして、頭の回転が速い人ほど、これに深くはまります。
頭が回転するから、消耗戦の「もう少しでいけそう!」という
それっぽい根拠を次々と見つけてしまう。
頭が回転するから、不安と心配の牢獄をリアルに、精巧に作り上げてしまう。
頭が回転するから、一発逆転のロジックを緻密に組み立ててしまう。
考えれば考えるほど、牢獄は精巧になっていく。
考えることで安心しようとする——そんな考えることへの依存、とも言えます。
考えることで、コントロールできている気になる。
考えることで、「わたしはちゃんと対策している」という感覚を保つ。
でも、考えることはサバイバル脳の一番得意な武器です。
考えれば考えるほど、サバイバル脳に材料を与えることになる。
不安と心配の牢獄はますます堅牢になり、消耗戦はますます長引き、
一発逆転のギャンブルはますます魅力的に見えてくる。
これは意志の強さや決断の有無ではないし、
能力や才能の問題でもないにもかかわらず
「目標を立てても実行できない」
「自分軸があいまいで、やる気が持たない」
「言語化ができないし、客観的に見れないし・・」みたいな
あさっての方向の見当違いの問題を見つけ出しては
解決するための労力と時間、お金を浪費する。
こういうのはサバイバル脳が「自分を守るために」やっていることで、
だから責めなくていいのです。
「今の自分が、痛みを必要としている」
この事実に、ただ気づくだけで。
責めずに、ただ見る。
ほんとうは牢獄の鍵は、最初から自分の手の中にあることを想い出し
消耗戦をやめた分のエネルギーが、本当に大切なことに向かい始めます。
明日からの無料セミナーで、この先の話をします。
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