「ありんこさん、ありんこさん、分かりますか?」
呼びかけの声に瞼を開けると、左手側から私を見おろす麻酔科の先生の顔が見えた。
「手術、終わりましたよ。」
(あー・・・手術、終わったんだぁ・・・)
麻酔科の医師の言葉を、何だかフワフワした気持ちで聞いていたけれど、全身麻酔からの目醒めはとても良く、意識も晴明で手術後の事は全て鮮明に憶えている。
手術後は朦朧とする意識の中、ウーウー唸って苦痛に堪える自分を想像していたのだけれど、実際は大きく違っていた。
術後に吐き気が出る可能性があると執刀医のY先生から聞かされていたが、痛み止めが効いているせいなのか、吐き気どころか手術痕の傷口の痛みすら全く感じない。
本当に手術したのかと疑ってしまうくらい無痛だ。
手術中は臨死体験でもするんじゃなかろうかと本気で思っていたけれど、そんなこともなかった。
ただ眠って起きただけで、意識も自分で驚くほど、はっきりサッパリしている。
それも普通の眠りとは違い、手術中の時間が、スパッと欠落していて
「意識を失うとは、こういう感覚なのか」と実感した。
右手側から執刀医のY先生の顔が見えた。
「手術、無事に終わりましたよ。腫瘍も全部キレイに取れたと思います。」と言葉を掛けられた。
Y先生に言われ、目や口を閉じたり開いたりして顔の表情筋を動かしたり、手のひらをグーパーグーパーしてみたが、何処も痛くないし、自分でも顔や手の筋肉を問題なく動かせているのが解った。
主治医のH先生と、S先生も続けて声を掛けてくれた。
「手術、無事に終わりましたからね。これからCTとレントゲンと採血をしますので」
手術室を出てCTを撮りに行く道すがら、時間を聞くと夕方の6時半と言うことだった。
予定より2時間くらい長くかかったみたいだ。
朝の9時05分から夕方の6時半まで、約9時間半。
前後の処置を除いて、手術時間は正味7時間程度というところか。
自分がそんな大手術を受けたなんて、本当に実感が湧かなかった。
後から聞いた話だと、血管から腫瘍を取り剥がすのに、とても時間がかかったそうだ。
何せ腫瘍自体が血液をたっぷり含んだ血管の塊なので、傷付ければ出血してしまう。
正常な血管から少し剥がしては止血処置し、少し剥がしては止血処置し、、、を繰り返しながら腫瘍全体を丸ごと摘出するといった手術だった。
やっぱり大変な手術だったんだなぁ、、、。
と、今でもしみじみ思う。
CTを撮って、頭部レントゲンを3枚撮り、採血。
術後の一連の検査を終えてICUに入室した。
ICUには私の他に2名、年配の女性と男性が入っているようだった。
酸素マスクが煩わしかったので、看護師さんにチョットだけズラして貰いながら痛み止めは、いつ頃切れるのか聞いてみた。
「あら、痛み止めなんて使っていないですよ?」
「は?・・・でも手術終わってから頭、全然痛くないから痛み止めが効いているとばかり思っていたんだけど、、。本当に痛み止め一度も使っていないんですか?」
「手術中の全身麻酔から醒めて、それだけよ?」
ICUの看護師さんの話だと、術後の痛みには個人差があって、痛みが全く出ない患者さんも居るらしい。
脳腫瘍の手術をした色々な人のブログを見ては、術後の痛みに恐れおののいていたのだけれど。
執刀医の先生の手術の技量は勿論のこと、手術中の麻酔管理の良し悪しで術後の痛みは、かなり違ってくるそうだ。
余りにも傷口の痛みが無いので、感覚が麻痺してしまったのかと思うくらいだけど、後頭部には枕の感触が確かにあるので、本当に痛みが生じていないのだと解った。
Y先生のスーパー手術と、麻酔科の先生方の完璧な麻酔管理のお陰で、大手術を受けた直後とは思えないほど、ICUでは落ち着いていた。
幸運なことに手術は大・大・大成功だった。
手術前には遺書も書いたりして、かなり覚悟を決めていたのだけれど。
手術を受けるならスーパー外科医と、スーパー麻酔科医師の居る病院に限るわ〜〜♡と、この時思った。(๑>◡<๑)