そんな部員たちを音楽教室の窓際で、
にこやかではあるが厳しく見守る女性教師。兼高悠月(かねたかゆづき)。
廊下では、学校長の舘脇尚秀(たてわきなおひで)。腕組みしながら、
そして…、その腕組みした右手で今度は顎を撫でて、
「ふふ。いやいやいや。とにかく、本番さながら。いいもんですね。教頭。」
隣で、こちらも生徒たちを見守っている教頭の季久美李子(きくみりこ)、
「えぇ。嬉しい限りです。既にチケットもほぼ完売に近いとの事。」
舘脇、その声に頷いて、
「ありがたい限り。…で…???…今回は、何と、ソロも出るとか。はは。」
季久美、
「えぇ。兼高先生一押しの生徒です。」
「確か…、クラリネットを吹かせたら、多分、我が高1とか…。2年の高井戸芙美花君。」
「えぇ。1年の時からメンバーに。」
「そうですか~~。ふんふん。こりゃ、楽しみだわ。…けど。確か、高井戸芙美花君と言えば、1年前。おかあさんを。」
季久美、窓から演奏している生徒たちを見ながら、
「えぇ。病気で、亡くしています。」
舘脇、
「ふん。可哀そうな…。…でも、それでも…。」
季久美を見て…。
季久美、にこやかに、
「えぇ。芯の強いしっかりとした子です。」
舘脇、その声ににこやかに頷いて、
「うんうん。」
「まぁ。確かに、おかあさんを亡くして、数週間は…。…でも、おとうさんが…。」
「えぇ。噂には…。Webデザイナーとか。しかも、リモートワーク。」
その声に季久美、舘脇を見て、
「あら、校長、ご存じだったんですか…???」
舘脇、そんな季久美に、顔まで左手を。
そして左手親指と人差し指で隙間を作って、にこやかに、
「ちょっとだけね。これくらい。」
そんな舘脇を見て季久美、
「あらら。さすがは校長~~。アンテナ張ってますね~~。」
舘脇、ズボンのポケットに両手を入れて、顎をチョコンと突き出して、
「まぁね。」
ニッコリと。
「高井戸さん、おとうさんが家でのリモートワークだから。まっ。コロナもありましたから。でも、おとうさんにはいつも助けられているって、清水先生、言っておられます。時を見て高井戸さんに、生活の事、聞いてるみたいで。」
舘脇、
「う~~ん。まっ。高校生、母親を亡くして、完璧に学業もアウト。…でも、そんな中でもそれを乗り越えて頑張ってる。見守っていくのと、応援していくのが、我々の仕事。そして…、責任でもありますから。」
季久美、
「はい。」
「それにしても、大したもんだ。母親を亡くして、父親だけで。…それでもあんなに。おとうさん。実に人間が出来ているんだろう。…育て方…、なんだろうかねぇ。」
そんな話に季久美、頷きながらも、
「えぇ。」
舘脇、また腕組みをして、
「うんうん。カルメン。素晴らしいじゃないですか~~。」
季久美も笑顔で、
「はい。」
舘脇、教室の窓際の兼高を見ながら、
「それにしても、いきなりドボルザークの新世界をオープニングに持ってくるとは。かかか、あまりにスケールが。…兼高先生。」
季久美、舘脇に、
「えぇ~~。兼高先生、今回は序幕からいきなり行きます。それに耐えられる生徒たちですから。って。」
舘脇、ニコニコ顔で、
「おやおやおや。それはそれは、大絶賛ですなぁ~~。ははは。楽しみです。」
事実、博楼高校吹奏楽部定期演奏会、演奏は3部編成となっている。
そして、その3部編成の楽曲のアレンジは、全て兼高によるものとなっている。
練習が終わって…。
兼高、手を叩きながら、
「は~~い、みんな~~。うんうんうん。出来てる~~。その意気よ~~。しっかり~~。」
にこやかに。
その声に生徒たちも、元気に、
「はい。」
芙美花たち、
「ふぅ~~~。終わった~~。」
生徒たちがゾロゾロと楽器を片付け始める。
景織子、芙美花に、
「ふぅ~~~。かかか、終わった~~~。」
芙美花も、
「かかかかか。終わったね。うんうんうん。帰ろ。」
「了~~解ぃ~~。」
兼高、帰って行く生徒たちに、
「みんな~~。しっかりと寝てよね~~。体力、体力。」
その声に生徒たちも、ニコニコと、
「は~~い。」
兼高、ニッコリと、
「うん。」
そして…。崇江に、
「部長、ありがとう。はは。あなたがいてくれて助かる~~。」
崇江、兼高に、
「いえいえ。とんでもないです。みんな、先生が好きですから。あぁだのこぅだの文句は言ってますけど。」
その声に兼高、
「おほほほほほ。嬉しいお言葉。」
崇江、クシャリとさせて、
「まっ。何を考えているのか分からないって、言うのもありますけど。」
「おやおや。」
「…でも…。何だかんだ言って、先生の一言、一言は、とにかく響くよね~~って、言ってますから。」
思わず兼高、
「えぇ~~???…私って、そんな感じに見られてる~~???」

ママでいい…。 vol,048. 「本番さながら。いいもんですね。教頭。」
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