「だめだ。この人の中に、私はいない。」 | THMIS mama “お洒落の小部屋”

ドキドキ その瞬間、賀寿恵、いきなり今迄思い詰めていたものが、
体の底に、ス~~~ッと、引いていくような…。
そして…、頭の中で、
「…だめだ。私は、だめだ。この人の中に、私はいない。」
僅かに目を潤ませて…。

小埜瀬、賀寿恵に、
「弓さん。…どうしました…???」

瞬間、賀寿恵、潤んだ目を懸命に堪えて、引き戻すように、
「えっ…???…あ。あ、あ~~。」
思わず瞬き。
「あは。えぇ。えぇ。…」
一度、鼻を啜って。笑いながらも、
「…ですよね~~。あは。はははは。」
口を懸命に搾って。
「えぇ。えぇ。あ、はい。」

小埜瀬、そんな賀寿恵のこころを知ってか知らずか、ニッコリと。
「えぇ。ですよね。僕は、そっちを選びます。…そして、これは…、麗子さんと、励治さんの、お蔭ですから。…あの半年間は…、とにかくも、僕が人生で初めて、見ず知らずの人から助けてもらった。そんな人たちなんです。そして…。…これからは…。」

その、「これからは…。」と、言う言葉に賀寿恵、
「お、小埜瀬…さん…???」

小埜瀬、賀寿恵に、
「えぇ。…何かしら、僕のする事にいちいち気に掛けてくれる人がいるんです。」
顔を傾げて…。
「まぁ…。海外が長かったものですから、僕って、同じところに何時間も、何日もいるって言うのは…。まぁ…。…ある意味、被写体を待つと、いうのとは違いますけど…。トラディショナル事業部でも、しょっちゅう外に出掛けるんです。」

賀寿恵、小埜瀬を見つめて、
「えぇ~~。」

「そんな僕を…、何かしら、放っておけない人物が、トラディショナル事業部には、いるんですよね~~。いっつもいなくなっちゃうって、僕を怒る人が、いるんです。」

賀寿恵、思わず眉間に皺を寄せて、
「うそ。小埜瀬さんを怒る人。…そんな人、いるんですか…???」

その声に小埜瀬、ニッコリと、
「えぇ。時にはまるで駄々っ子のように、もぅ~~何やってるんですか~~って、膨れっ面になって僕を責めてくれる。」

賀寿恵、何かしら信じられないような面持ちで、
「小埜瀬さんを責める。」

「えぇ~~。…でも…。…僕のこれまでの人生上で、僕を怒ってくれる。…なんて、そんな人は…、いなかったんですよね。しかも膨れっ面をして。」

賀寿恵、
「……。」

「でも…。そんな人だからこそ、何でか…、僕の傍にいてくれるんですよ。実にありがたい限りで…。」
「小埜瀬さんを責めて、そして怒ってくれる。…で、傍にいてくれる。…って、誰…???」

「まぁ~~。僕の事を好きになってくれているか、どうかは…分かりませんけど…。…だけど…。僕が、ジョエルに…。トラディショナル事業部にいる限りは…。好きなのかどうかは…、分かりませんが…。とにかく、傍にいてくれる事は、確かです。」

賀寿恵、小埜瀬を見て、
「そんな人が…。あ。」
いきなり賀寿恵の頭の中に浮かんだひとりの女性。瞬間、賀寿恵、顔をコクリと。そして、
「あ、あ~~~。そっか~~。」

小埜瀬、目を丸く、
「弓さん…???」

賀寿恵、すぐさま顔を上げて、
「あ、いえ…。…もしかして、その人って…。」

「あ、はい。」
「柿崎…優維香さん。チーフの…。」

賀寿恵、2度の頷き。

小埜瀬、そんな賀寿恵を見て、
「分かりました…???」

賀寿恵、頭の中で、あきらめの気持ちが…。
「え、え~~。…多分…。あの人なら…。彼女を一番可愛がっているのが、池辺課長ですから。」

「そぅなんです。まっ。たまにはけしかけているって風にも思えるんですけど…。…でも、いうなればそれはチーフ殿への優しさ。…何かしら、全幅の信頼って言うのが、あるような…。」
そして小埜瀬、
「だから…、今まで僕は自分の思いついたデザイン。…と、言うか、デッサンですけど、チーフ殿に、渡して来ての、今がある。…そんな風に思っています。」

また賀寿恵、声に出さずに、そして、薄っすらと、目には…。

小埜瀬、
「安心、出来るんですよね~~。」

知らず知らずに賀寿恵、全く鼓動は…、高鳴る事なく、平然としていた。
何かしら、目の前の小埜瀬に対しても、特に、ひとりの男性として…。
見えるようになってもいた…。
ワインを一口。料理は既に…。そして一言。
「うん。美味しかった。」

そんな賀寿恵を見て小埜瀬、チョコンと顔を僅かに傾げてニッコリと。
「お蔭様で、楽しい食事でした。」

その声に賀寿恵、こちらもニッコリと、そして顔を僅かにコクリと。そして右手をヒラリと。
「いえいえ。こちらこそ。…私の場合…、こんな風に、男性と一緒に食事なんて…。まず、有り得ませんから。」

その声、そして賀寿恵の顔に、
「嘘ぉ~~~。弓さんみたいな人を…。こんなに奇麗で素敵なのに。」

その声に賀寿恵、既に迷いはなかった。
…と、言うか、ある種の悩みみたいなものもなかった。…逆に…、清々しかった。
「小埜瀬さん。」

小埜瀬、ビールを飲みながら、
「あ、はい。」








好きになれない。   vol,274.    「だめだ。この人の中に、私はいない。」 

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