日本に帰って、
ジェイ君からの連絡も途絶えてきた頃、
ふと、一人の男性のことを思い出した。
彼は、アフリカで働いていた時の取引先の方。
同僚のシェフのバケーションに伴い
早朝勤務をしていた時、
これまで本社からの出向社員がやっていたエンジニア部門の仕事を担当することになった。
何かあった時に、ローカル業者と取引先の間に入って通訳するだけなので、基本は立っているだけの仕事。
彼、斎藤さんは、取引先の責任者として
一緒に業務に立ち会っていて、
暇な時に世間話をする仲だった。
これまで、私の業務ではほんの一部の取引先の方としか係わりがなかったので、
彼との会話は新鮮で、早朝の癒しのひと時だった。
そんなある日、bar担当の同僚スタッフから
Millyはどんな人がタイプ?
Millyのことを気に入っている取引先の人がいるんだけど、どうかなー?
と聞かれた。
アフリカの職場では、日本人女性は
私とそのbar担当のシェフの二人だけだったので、そういう事は何度もあった。
ただ、相手が極端に若い子だったり
当時は最低一年はアフリカに居ようと思っていたので、現実的な話ではなく
まぁ、歳も歳だから
それなりに将来を考えられる相手じゃないと難しいよね
と、答えるようにしていた。
すると、
なんか彼、本気みたいよ。
勝手に自分は任期が3ヶ月だからその後、
しばらく遠距離して、
日本に帰ったら自分の所に呼びたいって。
Millyは寒いところ大丈夫?
と同僚が話しかけてきた。
で、その話を聞いて、
任期が三ヶ月で寒いところから来た人、
というヒントにより、その相手が斎藤さんではないかと気づいた。
そして、ちょうどその頃、
私が通常勤務に戻り、現場監督の仕事は
週に一度あるかないかの頻度に変わり
斎藤さんと会う回数がめっきり減っていった。
でも、食事の時間などで顔を合わせることがあり、話しかけると、斎藤さんは顔を赤らめ急にぎこちなくなっていった。
斎藤さんがそんなんだから、
他のスタッフも斎藤さんの気持ちに気づいて、からかってきたりするので、私も斎藤さんも何となく気まずくなっていた。
そしてしばらくして会社のいざこざで
帰国を考えるようになり、
ジェイ君とステディな仲になり、
目まぐるしく色んな事が起きて、
私の頭の中は、ジェイ君と自分の事でいっぱいになっていた。
私が仕事をしている間は
私とジェイ君の関係は他の人には秘密だった。
ただ一人、ジェイ君の10年来の友達で
私も気が合ってよく一緒に飲んでいたジョンを除いて。
だから、私の帰国を知ったスタッフの一人は、何とか斎藤さんと私の仲を取り持とうと、動き出したのだ。
私がジェイ君と結婚するつもりなのも知らずに、、
そんな訳である日、
スタッフを介して斎藤さんからの手紙を受け取った。
あなたの笑顔にいつも癒されていました。
日本に帰ったら、連絡ください。
という短い内容に、電話番号とLineのIDが添えられていた。
何の変哲もない、シンプルな内容だったが
斎藤さんは、barでお酒を飲みながら
何度も書き直して、書き上げるのに3時間かかったそう。
そんな彼の気持ちが嬉しくて
これまでの仕事のお礼を短い文にして
スタッフを介して斎藤さんに渡してもらった。
その後は、私のエチオピアの旅、
ジェイ君と一日三度のビデオチャット、
毎日のケンカ、と、目まぐるしい毎日で
斎藤さんの事は、すっかり忘れ去っていったのだった。
つづく

