まず前回の復習です。
日本語の場合、「これ」は自分のなわ張り内のものを指します。「あれ」は自分のなわ張り外のものを指します。
※なわ張りとは、自分の勢力の範囲のことです。
これは、英語でも同じです。
英語では、thisは自分のなわ張り内のものを指します。thatは自分のなわ張り外のものを指します。
ところが、英語のitと日本語の「それ」とには、大きな違いがあります。
まずitについて考えましょう。
itは聞き手と共通の認識があるものを指します。
NikonのCMで木村拓哉さんがIt's my treasure.と言ったのは、バーテンダーが「Is that a Nikon?」に対して、「Yes」と答えて、木村さんの持つカメラが、バーテンダーと共通の認識のもとにあるものになったからです。
逆に言うと、英語では、初めて出てくるものに対して基本的にはitは使えません。会話のやりとりの中で共通の認識になったときにはじめて使えるようになるというわけです。
・・・と言っても、「初めて出てくる場合は使えない」というのは正確ではありません。
たとえば、She really has it.と言うと、「彼女は、本当にそれ(=君と僕が共通認識としても持っているもの)を持っているね」という意味になりますが、itを指すものは共通認識があればいいわけなので、別の可能性も出てきます。
ようするに、「言わなくてもわかる例のアレ」ということです。
たとえば、Sheがアイドルタレントであれば、タレントとしての華であったり、セクシーさだったりするでしょう。Sheが新入社員であればある仕事の能力であることもありそうです。
このように、共通の認識が会話を始める前からあれば、初めて出てきても自然です。
だから、大事なのは「初めて出てきたかどうか」ではなく、「共通の認識があるかどうか」です。
それに対して、日本の「それ」はちょっとばかり曖昧です。
前回言いましたが、「それ」は「これ」と「あれ」の中間にあります。
「あれ」というほど遠くないし、「これ」というほど近くないし、という曖昧な距離にあるときに使います。
※なお、ここで言う「距離」は物理的な距離・心理的な距離の両方を指します。
「自分のなわ張りの外でもないし、内でもないし」といった感じです。
このあたりが英語と違ってかなり曖昧だと言えます。
英語学習者がとくによく間違えやすいのが、相手の持っているものなどを指すときです。
英語ではthatです。自分のなわ張りの外にあるからです。
それに対して、日本語ではこの場合「それ」を使いますね。相手にとっての「これ」が、自分にとっての「それ」になることに気づかれているでしょうか。
英語を使う場合は、「相手のなわ張り」は考えなくていいのです。あくまで、自分のなわ張りの外か内か、共通の認識があるかないかを考えます。
そのあたりがわかっていないと、相手の持ち物をほめるのに、It's great!なんて言ってしまいます。
その前に、「その服どこで買ったの?」と聞いて、答えを聞いたあとなら正解ですが、最初に使うのは間違っていると考えるべきでしょう。