本堂のすみで、
丸くて黒い何かが、静かに置かれていた。
ジャンジャン和尚は、
その前でぴたりと足を止めた。
ジャンジャン和尚
「……これは。」
ジジツー和尚
「ロボット掃除機にゃ。」
ジャンジャン和尚
「なるほど。」
しばらく、じっと見つめる。
そして。
ジャンジャン和尚
「新しく来た、巡回和尚でありますな!」
ジジツー和尚
「ちがうにゃ。」
ジャンジャン和尚は、
丸い本体の前にしゃがみ込んだ。
ジャンジャン和尚
「新入り殿。拙僧はジャンジャン和尚であります。」
「困ったことがあれば、何でも相談するでありますよ。」
ジジツー和尚
「たぶん、話せないにゃ。」
その時。
ジャンジャン和尚が、
上にあるボタンを押した。
ピッ。
ウィィィィン……
ロボット掃除機は、
ゆっくり動き始めた。
ジャンジャン和尚
「おおっ! 返事をしたであります!」
次の瞬間。
ロボット掃除機は、
ジャンジャン和尚の足元へ近づき――
コツン。
ジャンジャン和尚の足に当たった。
ジャンジャン和尚
「いきなり距離が近いでありますな!?」
ジジツー和尚
「壁だと思われたにゃ。」
ジャンジャン和尚
「拙僧、まだ壁になる年齢ではないであります!」
ロボット掃除機は方向を変え、
畳の上に落ちていた小さなお菓子のかけらへ向かった。
ウィィィィン……
シュッ。
ジャンジャン和尚
「見たでありますか、ジジツー和尚!」
「新入り殿、もうおやつの場所を把握しているであります!」
ジジツー和尚
「掃除してるだけにゃ。」
ジャンジャン和尚は、
急に真剣な顔になった。
そして、ロボット掃除機の前に正座した。
ジャンジャン和尚
「よし。」
「本日より、拙僧が巡回和尚として鍛えるであります!」
ジジツー和尚
「掃除機を?」
ジャンジャン和尚
「まずは本堂を一周。」
「次に縁側。」
「慣れたら、山門の見回りも――」
ロボット掃除機は、
ジャンジャン和尚の話を聞かず。
くるり。
そのまま本堂の柱に向かって進んだ。
コツン。
くるり。
また進む。
コツン。
ジャンジャン和尚
「なるほど……。」
「柱へのご挨拶を欠かさない、礼儀正しい子でありますな。」
ジジツー和尚
「道がわからないだけにゃ。」
しばらくして。
ロボット掃除機は、
本堂の真ん中で止まった。
ピピッ。
ジャンジャン和尚
「どうしたでありますか、新入り殿!」
ジジツー和尚は近づいて、
本体をのぞき込んだ。
ジジツー和尚
「充電が切れたにゃ。」
ジャンジャン和尚
「早いであります!!」
その後。
充電器の前には、
なぜかロボット掃除機を囲んで正座する二人の姿があった。
ジャンジャン和尚
「立派な巡回和尚になるため、まずは休息も修行であります。」
ジジツー和尚
「ジジツーも充電したいにゃ。」
そしてジジツー和尚は、
ロボット掃除機の上にそっと乗った。
ジャンジャン和尚
「ジジツー和尚!? まさか、新入り殿に乗るつもりでありますか!?」
ジジツー和尚
「巡回してもらうにゃ。」
ピッ。
ウィィィィン……
ロボット掃除機は、
ジジツー和尚を乗せたまま三十センチ進み――
ピピッ。
止まった。
ジャンジャン和尚
「もう一度、充電切れでありますか!?」
ジジツー和尚
「……歩くにゃ。」
その朝、ニャン寺では。
ロボット掃除機が一番がんばり、
二人の和尚が一番疲れていた。
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