ゴンの初ソダンから少し経ち

ケナリ(連翹)の花が都に

ちらほら咲き始める頃には

子供達もウンスも

新しい環境に慣れていった

 

ウンスは養成所の卒業生を

無事社会に送り出し

今度は

新学期準備に追われる日々が

続いて

相変わらず忙しいが

家族やイサの協力のもと

妻と母と医者の

三足の草鞋を履いている

 

チェヨンは夜勤を伴わない

文官の仕事を意識的に

増やしているようで

ウンスが仕事で忙しい日は

子供達の面倒を積極的に見て

後方支援に徹している

が もちろん王宮内で

武士としての勤めも

きっちり果たし

兵士の新人教育にも

力を入れているようだ

 

戦に明け暮れていた日々が

嘘のように穏やかな毎日

 

人の命を奪う術よりも

後輩武士を育て

人を育てることに

重点を置いていると言った

ところであろう

 

ゴンは少しずつ

ソダンにいる時間が長くなり

診療所の昼休憩を過ぎても

帰らないようになっていたし

タンは科挙対策の勉学に励み

夕方までソダンにいることが

多くなった

 

サンとユニョンは

ゴンと一緒にソダンへ行き

ゴンと一緒に帰り

昼からは三人一緒に

屋敷で過ごすことが多い

 

スニョンはソダンでの学びより

テマンとジュヒ夫婦が

運営する道場で剣術を習ったり

剣舞を覚えたりする方が

性に合っていたので

午前中はソダン

昼からは道場という日が

多くなっていた

 

武術の師匠はもちろん

大叔母であるチェ最高尚宮

若い者にはまだまだ

負けられないと

剣さばきも俊敏で美しく

チェ最高尚宮に教わりたくて

道場に入門を決める女人も

たくさんいた

 

そして道場の主人

テマンたち夫婦にも

大きな変化が起きていた・・・

 

 

 

 

 

 

ジュヒ

調子はどお?

 

 

そろそろ

ユニョンやサンやゴンが

ソダンから帰宅する時刻

 

ウンスはテマンの妻

ジュヒの脈診をしながら

微笑んだ

 

 

それが・・・

まだ全然で・・・

ご飯が炊ける匂いも

辛くって・・・

水すら口にできないんです

コハクの時は

こんなにきつくなかったのに・・・

やっぱり初産の時より

歳をとっているから

でしょうか?

 

 

ジュヒはやつれた顔で

ウンスに答えた

 

 

まあ 確かに

初産から十数年・・・

月日も経っているけど

お産はその子その子で

違うものよ

心配いらないわ

でも

水分が取れないのは

ちょっと心配ね

苦くない口当たりのいい

補薬を調合しておくわ

 

 

ありがとうございます

コハクの時は

とにかく生きることに必死

だったから

具合を悪くしている暇も

なくって・・・それに

トルベさんとも

あんな形で別れてしまって

コハクだけは守らないとって

気が張っていたんだと

思います 

 

 

うん

コハクは立派に育ったわ

ジュヒ 

よく頑張ったわね

 

 

ウンスはジュヒの手に

自分の手を重ねて言った

トルベは自分の子を

見ることもなく

内乱で逝ってしまったが

彼と血の繋がった息子コハクは

ジュヒとともに

テマンが実の子のように育て上げた

 

そうしてコハクは幼くして

トルベの屋敷の家督を継ぎ

この秋には科挙試験も控えている

試験に合格すれば

優秀な文官となり

王家を支えていくことだろう

 

 

トルベさんはきっと空から

コハクのこともジュヒのことも

お腹の赤ん坊のことも

見守ってくれていると思う

テマンに託してよかったと

安堵していることでしょう

 

 

そうだといいのですが・・・

 

 

ジュヒは遠くを見るように

目を細めた

 

ジュヒとテマンは

結婚するときに

コハクを一人前に育てることを

最優先にしようと二人で誓った

 

それがトルベの両親に受けた

恩を返すことになると思ったし

何よりトルベに対する信義だと

思った

だから

自分たちの子は成さないと

決めていたのだ

 

 

でも

まさか・・・今頃になって

テマンさんとの間に

子ができるなんて・・・

 

 

それもまた縁だと思うわ

新しい命に出会う縁

親子の縁 兄弟の縁に

コハクも喜んでいるでしょう?

 

 

はい

あたしの体を気遣って

道場にもよく顔を出して

くれるんです

勉強が大事な時期なのに

 

 

うふふ

コハクらしいわねぇ

試験勉強も大事だけど

家族を思いやることは

今のコハクにとって

もっと大切なことなんだわ

いいじゃないの

息子にもテマンにも

ここぞとばかりに

甘えちゃいなさい

ジュヒは今まで本当に

頑張って来たんだから・・・

 

 

ウンスがそういうと

ジュヒは涙ぐんで

コクリと頷いた

 

 

出産はうちでもいいし

菊花の分院の方が

通いやすいようなら

そっちでも構わないわ

みんな優秀な産婦人科医

私の教え子たちだもの

安心して任せられるのよ

出産は秋だから

まだ日がある

ゆっくり考えてみてね

 

 

はい 

ありがとうございます

夫とも相談してみます

それにチェ尚宮様には

道場のことでお世話になって

ありがたく思っているんです

あたしは当分武術は無理だから

尚宮様がいてくださるだけで

どれだけ心強いか・・・

 

 

うふふ

伯母様にとっても

いい刺激みたいよ

後進を育てるって

張り切っているもの

特にスニョンには

本当に目をかけてもらって

いるの

まあ この件に関しては 

ヨンは仏頂面だけどね

自分が教えたかったみたいなの

 

 

なるほど!

そうだったのですね

 

 

ええ まあね

あら? 

おしゃべりしている間に 

そろそろスニョンとテマンが

屋敷に戻って来るわね

奥で休んで待っていたらいいわ

テマンと一緒に帰るでしょう?

ヘジャがジュヒに会うのを

楽しみにしているのよ

テマンったらお腹の子のこと

よほど嬉しいみたいで

ヘジャにも

デレデレで報告したんですって

ヘジャったら

出産はまだ先なのに

産着を作り始めたんだから

まるで昔のソンオクみたいなの

 

 

本当に

この子は幸せ者です

 

 

ジュヒは噛みしめるように

言って 愛しそうに

自分のお腹をさすった

 

 

 

 

 

 

夕餉の席

家族揃って卓を囲む

今宵はサムゲタン

ヘジャの得意料理だ

 

ウンスは

眉間にしわを寄せながら

真剣に鶏肉を

取り分けているチェヨンに

話しかけた

 

 

昼間 ジュヒが診察に

来てくれたのよ

悪阻が酷いみたいだけど

お腹の子に問題はないわ

 

 

そうか

それは何よりだな

それにしても

テマンもすっかり

腑抜けになって

俺は困っておるぞ

何かと言えば嫁が嫁がと

すぐ家に帰りたがる

 

 

うふふ

あなたがそれを言う?

ヨンったら私の妊娠中

執務室を屋敷に移したぐらい

過保護だったじゃないの

 

 

そうであったか?

 

 

まあ 

しらばっくれて

 

 

ウンスはクスクス笑った

そんな過保護で腑抜けで

妻一筋の男に

これからもずっと惹かれて

恋している自分が

容易に想像できる

 

 

俺は約束通り

イムジャを守っているだけだ

三歩離れては守れぬゆえ

これからもずっとそばにおる

 

 

ええ よろしくね

旦那様

 

 

ウンスは思った

この時代で

家族や友人や仲間に恵まれ

今 幸せに暮らしている

チェヨンのそばにいることが

自分の生きる場所

この場所でしっかりと

生きていこうと・・・

 

子供は「希望の光」だ

我が子も

他の子供たちもみんな

同じように大切な宝物

 

子供達の未来を守るために

自分は

この時代に生きている

のだと・・・

 

 

ん?

ぼくもオンマを守るよ

アッパにだけ

任せていられないからね

 

 

タンが真面目な顔で言った

 

 

サンも〜サンも〜

オンマ 守る〜〜〜〜

 

 

ゴンもいるよ〜〜〜

 

 

スニョン

随分強くなったのよ

オンマ 

スニョンにもまかせてね

 

 

スニョンも力強く言った

 

 

ええッと〜

ユニョンはぁ〜

剣は苦手だから・・・

そうだ!

イサに守ってって

頼むことにするわ

いいアイデアでしょう?

 

 

ユニョンは得意そうに

言い切った

子供たちそれぞれの

決意表明

 

 

あ?

ユニョン?

なぜ父の俺ではなくて

イサのなのだ?

家族を守るのは俺の役目

妻なら尚更のこと

イサには任せられぬぞ

 

 

チェヨンは少々

不機嫌そうだ

 

 

うふふ

始まったわ

悋気大魔王降臨ね

 

 

ウンスは面白そうに

笑って答え

給仕をしていた

女中頭のヘジャは

皆を見回し

ポツリと呟いた

 

 

チェ家は今春も

安泰でございますねぇ

何より何より・・・

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

希望の光を大事に大事に

守っていこう

明日へと繋がる

明るい光になるように

 

 

黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花

 

 

年をまたいで

お届けして来た「希望の光」

ようやく着地いたしました

お読みいただき

ありがとうございました

 

なんとこの章の最後の最後で

テマンのところに

新しい家族の兆しが・・・

 

いつかいつかと思いつつ

なかなか描けなかった

テマンの父親ぶりを

ようやく描くことができそうです

出産の秋が楽しみです

見守っていただけたら幸いです

 

さて

リアルなこの時代

戦火のニュースや

不穏な話ばかり

働けど働けど 

物価は高いし

労働力は搾取される

 

世の中にも未来にも

なかなか希望が見出せない

そんな様相になっております

が 

高麗の心地よい風に吹かれながら

ゆるりとお話を紡ぎ

お話を読んでくださる皆様にとっても

せめてこのヨンとウンスの世界が

平和で安寧で楽しい

心の癒しになれたらいいな

そんな思いがいたしております

 

またどうぞ

お話におつきあいくださいませ

 

いつもありがとうございます

感謝を込めて

haru

 

 

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