気が乗らぬか?
チェヨンはウンスを見つめ
その髪を撫でながら尋ねた
ごめん・・・ね
いや 良いのだ
それより どうだ?
酒でも一緒に?
チェヨンは
ウンスの胸元から
手を離して起き上がり
棚の上に置いてある
酒の瓶を手にした
ごめん・・・
嫌じゃないのよ
ほんとよ
言い訳がましく
聞こえるだろうか?
ウンスは心配そうに
チェヨンに言った
そういう日もある
チェヨンに
優しく返されて
ウンスはいっそう
うなだれた
好きな気持ちは
少しも変わらず
夫婦の時間は
大事な時間だと
思っているのに・・・
今夜は
「したい」と思えなかったのだ
チェヨンとウンスは
子供達が寝入った後
いつものように閨にこもった
話をするにも触れ合うにも
心地よい夜になるはずだったが
ウンスは なんだか上の空
惰性で流せば
よかったのかもしれないが
チェヨンとしては
それはしたくない
ウンスと交わることは
単なる体の結びつき
というだけではないのだ
だからやめた
ウンスが気乗りしない原因は
多分
先ほどのへジャとの
話だろうと察しはついた
オクリョンが屋敷を出たこと
そのことでへジャが
とても気落ちしたこと
そしてそのことに
ウンス自身責任を感じていること
いくらウンスのせいではないと
言ったところで
そうは思わぬ女人だ・・・
チェヨンは別の話題を探し
養成所の話を振った
講義が毎週では
準備も大変ではないか?
体もきつかろう?
もう少し減らして・・・
盃をカラにして
チェヨンが口を開くと
ウンスはすぐに首を振った
ううん
大丈夫
軌道に乗ったとはいえ
まだまだ
目が離せない感じなの
だからこまめに顔を出したい
チェヨンと向かい合わせに
小さな卓に座ったウンスは
注がれた盃を一気に空けると
ふぅと息を吐いた
「したくない」理由に触れず
他の話を探すチェヨンの
心遣いを思った
夫はどこまでも優しい男だ
このところ養成所は
ようやく軌道に乗って
女人が医官になる必要性を
説くことにも成功し
うるさい重臣の揶揄を黙らせた
典医寺の講師陣も
未来の医官を育てるのに熱心で
女人のための医官養成所は
前途洋々に見える
だが開校して半年が経ち
慣れが出てきたところで
軋みもあった
学長サラと医学以外の教授陣の
考え方の違いもあって
医官対学者の構図で
指導内容は対立の様相を
見せている
また
寮生活を送る学生たちの中には
厳しい生活に根をあげて
学業に気の緩みが出ている
ものもいた
崇高な志だけで乗り越えるほど
諸々
現実は甘くはないというわけだ
そんな彼ら彼女らを
調整したり励ましたり
各々話を聞いたり・・・と
講義以外のところでも
ウンスは奔走していた
チェヨンはそれを見守って
時には愚痴の聞き役にも
なってはいたが
ウンスに対する心配は絶えない
私のお守り・・・
やっぱり大変?
後悔している?
ウンスはおずおず尋ねた
あほう!
一度も後悔したことなど
ないぞ
即答の夫にホッとする
つい甘えたくなる
そお?
でも なんだかねぇ
最近思うのよ
変わらないことなんて
一つもないんだなぁって
誰だって年々歳をとるし
去年と同じってわけには
いかないこともあるし・・・
ほら
叔母さまだって・・・
叔母上が?
どうかしたのか?
ううん なんでもない
ウンスはうっかり
漏らした言葉を濁し
話を続けた
ああ ここにきた頃は
もう少し若かったなぁとか
しみじみ思うわけよ
ねえ
ヨンはこの先
若い側室を迎えたいとか
思わないわけ?
は?何を唐突に?
怒るぞ
チェヨンは心外だと
目を釣り上げ
ウンスに言った
女ならば
誰でも良いわけではない
それはウンスが一番
よくわかっているであろう?
うん・・・
試すようなウンスの愚問に
真剣に怒り出したチェヨン
どれだけ自分が大事にされて
愛されているか
わかっているのに
それを確かめずには
いられないほど
心が弱っているのだろうか?
ウンスは盃の酒を飲み干した
俺は今でも この先も
イムジャが一番で
イムジャなしでは生きられぬ
弱い男だ
そんな男が夫では嫌か?
誰より強靭な
精神と肉体を持ち
誰より強い男が
妻の前で見せる弱さに
ウンスの心が疼く
試すようなことを言って
ごめん
甘えているのね 私
わかればよい
今度同じことを言ったら
容赦しないぞ
もう言わない・・・
ねえ
なんだか
酔ったのかしら?
ヨンが欲しくなった
あ?
体をほぐすのもうまいけど
心をほぐすのも上手よね
ヨンは・・・
ん?
それは・・・つまり?
最後まで言わせないでよ
恥ずかしい・・・
ウンスは照れながら
チェヨンの手を取り
寝台へ向かった
結局 夫の手のひらで
転がされているだけの
ような気もするが
あのままチェヨンが
強引にすることなく
話を聞いてもらえてことで
ウンスの気持ちは和らいでいた
どんよりとしていた気分は
晴れた雲間に浮かぶ月のように
明るさを取り戻す
いいのか?
今宵は気が乗らぬのでは?
今 煽られては
歯止めが効かぬぞ
うん
したくなった
ウンスはチェヨンの指に
指を絡ませながら囁いた
翌朝
チェヨンの腕の中で
愛する妻が
安らかな寝息を立てていた
腕の中の宝物は
以前にも増して愛おしく
以前にも増して美しい
初めて結ばれてから
ずっと大切に
紡いできた夫婦の時間は
何より至福の時であり
夫婦の生きる糧だ
ウンスは出産以来
腹がたるんだ
胸が垂れた
肌にハリがないと
散々ぼやいているが
チェヨンの目には
ウンスのどこがどう
本人的に気に入らないのか
わからぬほど
気高く凛々しく綺麗で
そして妖艶な女人に映る
イムジャ以外
目に入るわけがなかろう
今でもイムジャが
我が妻だということが
信じられぬくらい
惚れているのだから・・・
寝ているウンスの頬を
そっと撫でながら
チェヨンは呟いた
庭先では
いつものように
二匹の愛犬が
朝ごはんの催促をしている
朝餉のいい匂いが廊下に漂い
へジャの足音が聞こえた
子供達もそろそろ起きる時刻
もう朝か・・・
チェヨンは名残惜しみながら
寝台から身を起こした
*******
『今日よりも明日もっと』
来た道を二度と
戻ることはできなくても
行く道の先に
幸せがあると信じたい
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おはようございます
ゆるゆる更新におつきあい
ありがとうございます
コメントのお返しも
遅々としていてミアネヨ
お気持ちに感謝です