ムン・チフは

王宮の屋根を伝って

牢屋のある場所まで

ギョンウォンを潜り込ませることに

成功した

道を照らす赤い月は守護の月か

そんなことを思いながら

ムン・チフは

目の前のギョンウォンを見つめた

 

凛とした顔立ちは

奥ゆかしさと

意志の強さを感じさせる

こう言う女人がそばにいて

共に戦ってくれたなら

どれだけ心強いだろう

そしてどれだけ心が安らぐだろう

だが目の前の女人は

ただ一点

牢屋の前にいる門番を

凝視していた

 

 

ありがとうございました

あとは自分で

 

 

ギョンウォンは屋根から

飛び降りようとしたが

マンボ妹に背中を抱えられ

踏みとどまった

 

 

ダメだよ ギョンウォン

門番に顔を見られたら

言い逃れできないだろ

ここは兄さんに任せて

 

 

は?俺?

なんで?

 

 

うるさいね

ギョンウォンのためならって

言ってただろ

それに隊長が表に出るのも

まずいよ

これからこの国を背負って立つ身

おかしな言いがかりで

役人に潰されてたまるかってんだ

 

 

だから 俺か?

 

 

そうそう

あたしら 民のことなんか

お役人は覚えていまい

それに兄さんなら

あの程度の門番は一撃だろ?

 

 

お前はどうする?

 

 

あたしはギョンウォンと行くよ

万一の時は

あたしが身代わりになる

あんたはその男と一緒に逃げなよ

 

 

そんなの困るわ

もしも捕まったら

それは私が受ける罪よ

それに逃げるわけには行かない

みんなにも

お兄様に迷惑がかかるもの

 

 

会いたくないのか?

話をせねばならぬのだろう?

ならば急ぐのです

 

 

じっと話を聞いていたムン・チフは

ギョンウォンに静かに言った

 

 

でも

これ以上 みんなに

迷惑をかけられない

 

 

ここまで来てギョンウォンは

自分が何をしでかそうとしているのか

と 正気に戻った

一歩間違えれば謀反

兄どころか 徳妃さえも

ただでは済まない

 

 

いいえ

誰もそのようには思いませぬ

これは言うなれば

理不尽な元に対する抗議

後のことは某たちに任せ

ギョンウォン殿は

己の思うままに行かれよ

 

 

いつもは

いかつい顔で無愛想で

口数の少ないムン・チフが

優しい顔で微笑んで言った

 

 

・・・はい・・・

 

 

ギョンウォンは頷いた

最初にマンボ兄が屋根を

音もなく舞い降り

門番二人のみぞおちに

それぞれ一撃

あっという間に二人を倒し

それからムン・チフが

屋根から降りる

そしてギョンウォンが続き

最後にマンボ妹も着地

体制を低くし気配を消して

牢屋の中へ向かう

途中出くわした衛兵は数名

ムン・チフは相手が襲ってくる前に

雷功を放って次々倒した

 

 

某はここにおります

マンボ

ギョンウォン殿を牢屋の中へ

連れて行くのだ

気をつけて

 

 

はい

 

 

ムン・チフはギョンウォンの

後ろ姿を見送り

赤い月を見上げた

大事な人のために何かをしたい

大事な人を守りたい

これこそが武士の原点

だから敵と命がけで戦える

 

 

先に様子を見に

中に入ったマンボ兄の報告によると

明朝流刑になるチェ・ムンソは

牢屋の一番手前に

一人で投獄されていた

 

 

すぐそこにいるぞ

ギョンウォン

 

 

じゃあ ここから先は

あんた一人で行きな

あんまり時間はないからね

門番が倒れているのを

見つけられたら

王宮の衛兵たちは大騒ぎだろ?

 

 

マンボ兄妹に急き立てられて

ギョンウォンは意を決して

中へと向かった

 

わずかな距離がひどく遠く感じる

息を潜めてあたりを見回す

喉がカラカラに乾いていた

牢の中の灯はすでにマンボ兄が

消してくれていた

月光だけが行く手を照らし

仄暗さに目が慣れた頃

建物の入り口近くの牢の中に

ムンソを見つけた

 

拷問を受けたのか

衣がボロボロで所々に

血が滲んでいた

髭は伸び 頬はこけ

髪はボサボサで酷い有様

 

見ているだけで苦しくなるが

鉄格子のこちら側から

必死の思いで

その名を呼んだ

 

 

ムンソ様・・・

 

 

目を瞑っていたムンソが

その声に 

目をカッと開いて

ギョンウォンを見て驚いた

 

 

どうして?

どうしてあなた様がここに?

このようなところに

来てはいけません

早くお行きなさい

 

 

剣術の仲間が手引きしてくれて

ここまでたどり着きました

どうしても 

一目でいいから

会いたくて

会ってお詫びがしたくて

 

 

ギョンウォンは俯いた

 

 

詫び?何を詫びるのです

ギョンウォンさん

あなたは何も悪いことなど

してはおりません

 

 

でも・・・流刑だなんて

屋敷にお招きしなければ

こんなことには

ならなかったのに

それに兄も詫びたいと

無礼なことをして

すまなかったと

 

 

何を言うのです

私の話を真剣に聞いてくれたのは

ギョンウォンさんが初めてです

とても嬉しかった

それにお屋敷にも呼んでいただいて

とても楽しかった

それなのに 

私の発明のせいで

チェ様が閑職に追いやられたと

伺いました

私の方こそ申し訳ない

ギョンウォンさん

辛い思いをしてはおらぬか?

 

 

どう我慢しても涙が

止まらなかった

目の前にいる愛しい人は

この状況でも

恨みつらみではなく

自分を気遣ってくれている

 

 

私は大丈夫

辛いことなんかないわ

 

 

では 泣かないで

笑って見送ってくだされ

 

 

見送るなんてできない

こんなのおかしいもの

ムンソ様

やっぱり

ここから逃げましょう

 

 

ムンソは険しい顔つきで

ギョンウォンを見つめ

そして首を振った

 

 

なりません

これが私の定めなのです

それに発明はどこででもできる

たとえ地の果てでも

たとえ天の国でも

頭の中の思考は自由です

だから悲しんではなりません

 

 

ムンソ様 ですが・・・

 

 

私は身分の違いに恐れおののき

腰砕けになっていたのです

私は弱い人間だ

そんな私が見たいっときの夢

それがあなた様

だが

夢はいつか覚めるもの

 

 

嫌です

私は待っております

ムンソ様が

都にお帰りになる日まで

必ずや

待っていると約束します

 

 

ムンソは強く首を振った

 

 

それはなりません

今の私に約束は酷だ

 

 

私が勝手に待つのです

それならばいいでしょう?

 

 

鉄格子越しに見つめ合う二人

マンボ兄妹のため息が聞こえた

 

 

ギョンウォン 

そろそろ行かなきゃ

衛兵の交代の時刻が近い

 

 

マンボ妹から声がかかった

 

 

でも

 

 

お行きなさい

会えてよかった

来てくれてありがとう

ギョンウォンさん

お別れの挨拶にこれを

なんとか検閲の目を

かいくぐることが出来た品

あなた様に災いが及びませんように

お守りです

 

 

ムンソは懐の奥の奥から

小さなチュモニ(巾着)を取り出して

ギョンウォンの手にそっと渡した

 

 

ムンソ様

私 私は何も

お渡しできるものが・・・

 

 

いいえ

あなた様には多くのものを

いただきました 

あなた様は私の支えでした

そこの方 お願いします

ギョンウォンさんを

お連れしてください

 

 

あいよ

さ 行くよ

長いは無用だ

 

 

むずかる赤ん坊のような

ギョンウォンを

マンボ兄妹は抱えるように

無理やり牢屋を後にした

 

 

ーーーーーーー

 

 

それきりか?

その男とは それきり?

 

 

約束は交わしませんでした

大妃様のこともあり

王宮を離れる決心もつかず

ですが 一度だけ

密かに流刑地に

向かったことがございます

 

 

なんと!

会いに行ったのか?

それではそこでその者と

思いを遂げたのか?

 

 

いえ・・・会えませんでした

幸か不幸か

忠粛王のお世継ぎはその時

忠恵王お一人で

まだ江陵大君様は

お生れではありませんでしたが

若くして

靖和公主がお亡くなりになって

大妃様は国母として

第一王妃に復位されるはずでした

ところが親元派が

新たに靖和公主の妹君を

王妃に迎い入れたのです

高麗人の大妃様は

王宮への帰参叶わず

それにお姉様が

チェヨンの母親が

いよいよ危なくなったと

途中で知らせがあって

私はあの方にお会いせずに

急遽 都に戻りました

それ以来あの方には

会っておりません

 

 

不幸は重なると言うが

チェ尚宮も

大変であったのぅ・・・

 

 

いいえ 大変だったと

思ったことはございません

ただただ

生きながらえて来ただけでございます

それよりも苦労されたのは大妃様です

結局王宮に戻られたのは

夫である忠粛王が

元によって廃位され

代わりに息子の忠恵王が

即位された時でございますから

すでに

十数年の時が過ぎておりました

忠粛王が政権から離れ

やっとお二人は

夫婦に戻ることが出来たのです

そうしてお生まれになったのが

江陵大君様でございます

しかしその後も大妃様は苦難続きで

忠恵王は悪行の限りで元に流刑され

お孫様の慶昌君様は幽閉の挙句

親元のキ・チョルの手に落ち

大妃様は元の国を恨んだまま

ずっと居所から

出られることはなかった

それがどうです?

今や 王宮での暮らしも

本当にお幸せそうで・・・

私もようやく

安堵いたしております

 

 

チェ尚宮は遠い思い出を

清々しく語った

二度と思い出すはずのなかった

切ない思いさえ

今ならば

愛おしく思える気がした

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

伝えるのも愛

耐えるのも愛

自分よりも相手のことを

大事に思う心は愛

 

 

 

 

チェ尚宮の恋バナに

もう少し

おつきあいくださいませ

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村