テマンの婚礼の朝
期待したようなスカッとした
秋晴れではなくて
チェヨンやウンスやタンの
寂しさを見透かすように
空は曇っていた
ウンスは布団から抜け出すと
窓を開け空を見上げた
庭先ではソクテが木々に
来たる冬の準備を始めている
女中のハヌルと結婚し
チェ家の使用人になった
ムンソンは非常に働き者で
朝から畑の手入れに余念がない
少し時間に余裕ができたソクテは
できるうちに庭の手入れを
やっておこうと思ったようだ
そこへ
へジャとテマンがやってきて
ソクテと何やら話をしている
別れの挨拶でも告げているのか?
そう思うとウンスはまた胸が
キュッとつままれたような
気持ちになった
だが今日はテマンの門出の日
めでたい日なのだからと
気を取り直し
そっと窓を閉めると
今度は
閨に置いてある
割と映りのいい鏡の前に立ち
まじまじと自分の姿を見つめた
そこに映る自分の胸元には
いくつもの赤い痣がある
いくら許可すると言っても
限度ってもんがあるでしょうに
困ったなぁ
ギリギリ見えないかなぁ?
赤い印は昨夜の痕
お式にウネがいないことに
ウンスはホッと胸をなでおろした
もしもウネにでも見つかれば
どれだけからかわれることか・・・
「子宝神の相手は大変そうだ」
くらいのツッコミは十分予想できる
ウンスがせっせと白粉で
赤い肌を隠している頃
ウンスから言質を取り
いつも以上に
燃えさかった夜を過ごしたチェヨンは
満足そうに寝息を立てて
まだ布団の中にいた
まったくぅ 呑気なんだから
これで少しはマシか?
目立たないかな?
鏡を入念に確認すると
ウンスはチェヨンのそばに行き
その鼻を甘噛んだ
んぐっ
声をあげてチェヨンが起きる
どうかしたか?
どうかした?じゃないわよ
今日は久しぶりにあの
藍色の衣を着ようと思ったのに
これじゃあ 着れないわ
胸元がぐっと開いていて
チェヨンが悋気する藍色の衣
新婚の頃にチェヨン自身が
作ってくれたはいいが
なかなか 着て歩く機会がなかった
ウダルチの皆がよく着る藍色だから
テマンの結婚式には丁度いいと
思っていたのに・・・
どれ見せてみろ
まあ そうだな
あまり胸元の開いた衣は
着れないな
そうだ あのチマチョゴリが良い
タンの誕生日に来た
蓮の・・・
話しながら
くくっと笑うあたり
きっと確信犯だ
妻の肌を必要以上に
他人に見せることを
チェヨンは嫌うから
もう
しょうがない人ね
今日は藍色のを着ようと
思ったのに
でもあの蓮のチマチョゴリ
まだ家族にしか見せてなかった
そうね
あれにしよう
ああ そうしろ
よく似合っておった
チェヨンは愛しいウンスを
布団の中に引き込むと
食むように唇を合わせた
もうっ
ダメよ これ以上は
ウンスはジタバタ逃げ出す
束縛心も嫉妬心も人一倍の夫
だがそれが嫌ではない妻
相手に対しての思いは
どちらもそれだけ強い
二人がじゃれあっていると
子供部屋から珍しくタンの泣き声が
聞こえて来た
驚いたウンスが飛んでいくと
ぐしゅんぐしゅん泣きながら
テマンの見送りができなかったと
言っている
テマンなら まだ庭にいるわよ
挨拶もなしに
屋敷を出ていくわけないでしょう?
ほんとぅ?
ええ 着替えてお庭に行ってごらん
ソクテと一緒にいるから
あぁ〜〜〜い
しゃん いくよ〜
あ〜〜〜
手をあげてタンの真似をする弟の
サンはすっかりタンの子分だ
その様子にウンスは微笑み
二人を庭に送り出す
テマンはいつものように
タンとサンを相手に遊び始め
庭から笑い声が聞こえた
テマンはコハクの
いい父親になるわね
ウンスは窓から見える光景に
目を細めた
庭でひと遊び終えると
姉妹も交え
いつものように
賑やかに家族で朝餉を食べて
それからテマンは
朝風呂で身を清め支度を始めた
今日の婚礼に
子供を連れていくのは
遠慮しようと思っていたウンスだったが
先方の両親から是非にと言われ
連れていくことに決めた
テマンは家族
だから家族みんなで送り出したい
三つ子にはセットン柄の礼服
タンは青空みたいに
晴れやかな色の礼服を用意し
ウンスとチェヨンと
応援に駆けつけてくれた
チェ尚宮で
子供達の支度に追われる
めかしこんで澄ました顔の
チビ助達にチェ尚宮の頬が緩んでいる
それからウンスは
蓮のチマチョゴリに着替え
自室にいるテマンに声をかけた
支度 できた?
あ はい 医仙様
開けるわよ
部屋の中で佇む青年は
麒麟の文様の鎧を
身につけていた
ウダルチの正装姿
新郎の衣装としては
似つかわしくないのではないか
と心配したウンスを
これで臨みたいと願ったテマン
それはチェヨンのお下がりだった
祝いに
何か欲しいものはあるか?と
チェヨンに聞かれ
テマンがねだったのはチェヨンの鎧
ウンスを待っている間も
戦の時も
ずっと身につけていた鎧だった
似合うわ
すっごく
チェヨンの鎧は少しばかり
傷があったり傷んだり
だがそれこそが自分とチェヨンが
共に戦って来た証だと
テマンは胸を張った
医仙様
テジャン・・・を・・・あの
言葉に詰まるテマンに
ウンスは手を差し出した
ありがとう テマン
握手には意味があると
昔チェヨンに教えたことがある
共に戦うパートナー
頑張ろうの気持ちやよろしくの気持ち
そして別れる時の感謝の気持ち
医仙様 俺
あの・・・お世話に・・・
それ以上言わなくて良いぞ
テマン
新郎がそんな顔でどうする
麒麟の文様に恥じぬよう
しゃんと背筋を伸ばして行け
様子を見に来たチェヨンが
テマンの言葉を制した
テジャン
テマンは懐かしい呼び名で
チェヨンを呼んだ
新婦が待っておる
そろそろ行くぞ
出て行く者よりも
残される者の方が寂しさは深い
だがチェヨンはその気持ちを
振り切るようにテマンに言う
チェ家の門の前に
へジャとソクテと
女中達がずらっと並んだ
その陰にいる弟分の
使用人ウォンスンイに気がつくと
テマンは近づき頭を撫でる
ヒョン・・・おら
緊張すると今でもつい方言が出る
ウォンスンイにテマンは言った
へジャさんやソクテさんのこと
しつかり手伝ってお屋敷のために
奉公するんだぞ
うん ヒョンも幸せになって
ああ なるよ
今度は嫁さんと息子を連れてくる
うん
じゃあ へジャさんソクテさん
チェ家のことよろしく頼みます
はい お任せを
今日は本当におめでとうございます
行くぞ テマン
チェヨンが言った
婚礼を挙げるジュヒの屋敷まで
馬に乗って行くテマンの後を
チェヨンとウンス
子供達が乗った輿と
馬に騎乗した凛々しい
チェ尚宮が続く
イエッ!
テマンを乗せた馬は
ゆっくり歩き出す
薄曇りだった空に日が差して
キラキラと眩しかった
あの日 チェヨンとウンスが
再会した日みたいに
すっきりとした空気が心地よくて
テマンは大きく息を吸った
チェ家で過ごした時間も
チェヨンのそばで過ごした時間も
どれもこれもが愛おしい思い出
決して忘れはしない
やがてジュヒが待つ門の前に着いた
コハクが新郎テマンを
屋敷の中に迎え入れるため
雁を持って待っている
テマンは馬を降り
その雁をうやうやしく受け取ると
婚礼が行われる屋敷の庭へと
向かった
賑やかな音楽が奏でられ
祝客がテマンを待ち受ける
テマンの後について
屋敷の中へ入ったチェヨン達を
麒麟の文様の鎧に
身を包んだウダルチの面々が出迎えた
隊長はすでに式場です
上護軍
トクマンが報告に来る
そうか では参るぞ
やんちゃで目が離せない
末の弟サンを小脇に抱えた
チェヨンが頷いた
サンは何事が起こったのかと
泣きそうな顔で
あたりを見回している
その後ろについてキリッとした顔で
歩いているのは長男のタン
チェヨンは
ガチャガチャと鎧が音を立てる中
ウダルチを従え歩き出した
その様子を見ていたウンスは
妹のユニョンを抱っこしながら
隣に並ぶ叔母のチェ尚宮に
ヒソヒソ声
チェ尚宮はチェヨン似の
スニョンを抱っこしながら
耳を傾けた
惚れ惚れする
いい男だわ
我が夫ながら
呆れるような顔のチェ尚宮に
ふふっと微笑むと
美しいウンスは
皆の視線を浴びながら
チェヨンの後を追い
式の場へと向かった
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『今日よりも明日もっと』
寂しさが吹き飛ぶくらい
あなたには幸せでいてほしい
今までありがとう
これからもよろしく
テマンの結婚式に
また
おつきあいくださいませ〜
