どうしたのだ?コハク?

 

 

そろそろ典医寺のチェ侍医が

往診に来る時刻

コハクの祖父は庭の木を見上げている

孫に声をかけた

 

 

ハラボジ(お祖父様)

この木は父上がよく登っていたって

ハルモニ(お祖母様)が言ってたから

見てました

 

 

ああ そうだな

ちょうどコハクくらいの頃か

よく登っては下男をハラハラさせて

ハルモニに叱られていたが

それがどうかしたか?

 

 

父上に会ってみたかったなと

思って

 

 

コハクが生まれる前に

亡くなったドルベ

コハクに父親の思い出はない

夕日のせいか

沈んだ顔をして見えた孫に

祖父は静かに尋ねた

 

 

ジュヒの婚姻の件か?

もし気が進まぬならば

もしそうならば・・・

 

 

コハクは首を大きく振った

息子と仲が良かったテマンを

養女ジュヒの婿として

この屋敷に迎え入れる

それはジュヒとテマンに

良かれと思っての祖父の判断だった

息子ドルベの供養にもなるに違いない

できれば末永くこの屋敷を

コハクとともに守って欲しいと

そんな目論見もあった

 

 

母上が幸せになるのはうれしいんです

漁村にいた頃は

母上は自分は食べなくても

ぼくの口にご飯を運んでくれてました

だから

いつか父上のように立派な大人になって

母上を守って楽させてあげたいって

ずっと思ってきたけど・・・

母上にはもう

ヒョン(兄さん)がいるから・・・

それに母上が父上を

忘れちゃうんじゃないかって

父上を思い出して

あんなにいつも泣いてたのに

 

 

祖父は胸が痛んだ

トルベに息子がいることを

ずっと知らずにいた数年間

トルベ自身も知らずに

逝ってしまったのだから仕方がないが

母子二人肩を寄せ合い

生きてきた日々を

思うだけで切なくなる

 

都に呼び戻してくれた上護軍や

何かと力になってくれた医仙様

陰ながら世話になった

ウダルチ隊長やチェ尚宮には

感謝しきれない思いだ

そして

父親のいないコハクにとって

時には父親のように 

時には兄のように接し 

暖かく見守ってくれたテマン

 

ジュヒとコハクを支えてくれた

多くの人がいたから

飢え死にすることもなく

ジュヒは武閣氏として

王宮勤めをすることが叶い

こうしてコハクを孫として

屋敷に迎え入れることも出来たと

祖父はありがたく思っていた

 

 

コハクや

お前は賢い子供だ

それに母親思いの優しい

ハラボジの自慢の孫じゃ

トルベもきっと空の上で

そう思っているに違いない

自慢の息子だとな

 

 

父上が?ぼくを?

 

 

ああ

 

 

でもヒョンが

父上になるでしょう?

父上怒ってないかな?

 

 

いいや   

テマンさんもジュヒも

トルベのことを忘れることは

ないであろう

二人にとっても

トルベはいつまでも大事な

コハクの父上なのだから

 

 

そうか 良かった

父上が忘れられたら

どうしようって

でも絶対ぼくは忘れたくない

 

 

ああ 

トルベはコハクの中に

生きておるぞ

その笑顔も そっくりだ

最近仕草もよく似てきて

トルベかと思うことも

あるくらいだぞ

 

 

ほんとに?

ありがとう ハラボジ

何だかうれしい

あっ チェ先生だ!

 

 

下男に案内されて

庭の方に回ったチェ侍医の姿を

見つけたコハクは

清々しい表情で駆け出した

 

 

コハク君

お祖父様の往診に参りましたよ

 

 

ぼく この前

薬草の本を読みました

本当は科挙の勉強をしなきゃ

いけないんだけど

一人でも多くの人が助かるように

医術の勉強も続けたくて

 

 

それは良い心がけですよ

将来コハク君が何になるにせよ 

医術の知識が

無駄になることはありません

それに書物を読むことは良いことです

 

 

はい チェ先生

 

 

母親の仕事が終わるのを

待っている間

典医寺でチェ侍医やウンスに

医学の手ほどきを受けていた頃を

コハクは思い出していた

 

 

小さな赤ん坊の若様もそばにいて

ヒョンが様子を見にきてくれて

一緒に遊んだりして・・・

楽しかったな

ヒョンはずっと味方だった

 

 

新しい家族が増えること

コハク君は不安ですか?

 

 

祖父とコハクの会話が

聞こえていたチェ侍医は

優しく尋ねた

祖父も耳を傾けている

 

 

ヒョンのこと大好きだから

一緒に暮らせたらいいなって

思っていたけど・・・

 

 

イサと私は

二年前に家族になったので

血の繋がりはないのですよ

ですから    ちょうど

テマンさんとコハク君のような

関係かもしれないですね

最初はうまくいくだろうかと

心配もしましたが

今では 心の繋がりは

どの家にも負けはしないつもりです

まあ たまには喧嘩もしますがね・・・

 

 

チェ侍医はクスッと笑って

話を続けた

 

 

テマンさんは

コハク君のこともジュヒさんのことも

とても愛おしく思っています

だから

家族になると決めたのでしょう

その気持ちはトルベ様にも

届いているはずです

コハク君のお父上は

新しい家族の幸せを

願っているでしょうし

もちろんコハク君のことも

ずっと見守ってくれていますよ

 

 

チェ先生

ありがとうございました

 

 

チェ侍医の言葉に

祖父が頭を下げた

 

 

いいえ 

思ったことを言ったまで

では診察をいたしましょうか

今日は顔色がいいですね

寒くなってきましたけれど

咳は出ておりませんか?

 

 

チェ侍医は涼やかな笑みを

浮かべ尋ねた

 

 

はい おかげさまで

すっかり調子よく

 

 

祖父はチェ侍医とともに

自室に向かった

コハクはまだ木を見つめていた

きっと

父親と会話をしているのだろう

時々イサが

屋敷の庭にある

爺やの木と話をするように・・・

 

 

子供ながらに複雑な思いも

あるのでしょうが

コハク君

いい子に育っておりますね

 

 

それを聞いた

トルベの父親はにっこり笑って

言った

 

 

あの子は天からの贈り物です

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

心が繋ぐ家族模様

そばにいても いなくても

ずっと大事な人だから

 

 

 

 

 

 

こんなこと書いてたんだ〜と

三年前の自分に思いを馳せる・・・ダウン

 

またおつきあいくださいませ

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