トクマンは兵舎に戻った
自分の浅はかさが
木枯らしのように身にしみていた
戦の間
王宮の警護に当たるチュンソクと
出陣前の最後の打ち合わせに
兵舎を訪れていたチェヨンは
トクマンのその姿を見て
小さなため息をついた
しょうがない奴だ
何をうなだれている?
ウンスはトクマンと町娘の行く末を
気にかけているようで
トクマンと話ができたらいいのにと
昨夜から
チェヨンにねだるように言っていた
そこでタンの護衛の名目で
屋敷に向かわせたのだが
なんの話をしたのか?
トクマンは
すっきりした顔つきどころではなく
どんよりとした目つきで
ふらふら帰ってきた
どうしたのだ?トクマン
まさか我が屋敷に何か?
ウンスやタンに何かあった訳では
ないだろうな
チェヨンはトクマンに声をかけた
チュンソクは
まだ打ち合わせておきたいことが
山ほどあったのだが
チェヨンとトクマンを見比べて
押し黙って二人を見ている
なんでもないです
無事に若様をお屋敷にお送りしました
医仙様にもご挨拶ができたし・・・
ならば
なぜ
そのような暗い顔をしている?
チュンソクが畳み掛けるように
尋ねた
上護軍 隊長
お二人はお幸せそうで
いいですね
それに医仙様もポム様も
ああ ヨンファ様も・・・
みんな幸せそうだ
お前
何かひがんでいるか?
チェヨンはトクマンに尋ねた
ひがんでなんかいませんよ
ただ どうして俺は
こうも間が悪いのかなって・・・
何があったのだ?
明日は出陣
憂いている場合ではなかろう?
チュンソクが半ば呆れるように
トクマンにふたたび尋ねた
そうなんですけど・・・
トクマンは
餅屋のナナの言葉を
思い返して
がっくりとうなだれた
━─━─━─━─━─
ウンスからナナの結婚話を聞いて
居てもたってもいられず
気がついたら
トクマンは市場の餅屋の前
ちょうどナナが店先にいて
トクマンを見つけると
ちょこんと会釈をして
奥へ引っ込もうとした
ナナ!
待ってくれ
俺 戦に行く前に
お前に言っておきたいことが
あるんだ
トクマンは後先考えずに
ナナの腕を掴んで大きな声で言った
トクマン様
どうしたんです?
人が見てますよ
ナナは少し困ったように答えた
そんなこと構うか
お前の結婚話を偶然聞いたんだ
それでそれで
俺 やっと自分の気持ちに
気がついて・・・
ナナ 結婚なんてするな
俺
俺
お前が・・・好きだ
俺の嫁さんになって・・・
ナナはトクマンの言葉が
終わらないうちに
ふうとため息をつくと
「とりあえず中へどうぞ」
そう言って
トクマンを店の奥へと招き入れた
トクちゃん・・・
ナナの声が聞こえた
遠い昔 ナナが自分を
そんなふうに呼んでいたのを
思い出す
トクちゃんは変わらないね
なんていうか?
考えなしのとことか・・・
間の悪いとことか
ナナは苦笑するように呟いた
あん?
俺が考えなしだって?
トクマンは
勇んでここまでやってきた思いを
踏みにじられたような気がして
むぅとして言い返す
そうだよ
軽々しく嫁さんとか
そんなこと
口に出すもんじゃないわよ
トクちゃんは今じゃあ
ウダルチプジャン
れっきとした高麗武士なんだから
そんなこと関係ないだろ
考えてみれば子供の頃から
お前のことがずっと気になってた
どうして屋敷に来なくなったんだよ
それにどうしてトクマン様って
そうだ そうだよ
昔はトクちゃん トクちゃんって
後ろを追いかけて来てたじゃないか
あんたねぇ
それは子供の頃の話でしょう?
十を過ぎた頃から
あたし
トクちゃんって呼んだことないよ
だって
お屋敷の奥様に言われたもん
餅屋が馴れ馴れしく
トクちゃんなんて呼ばないように
身分をわきまえるようにって
母上?が
旦那様もあたしがお屋敷に
顔を出すのを嫌がってた
だってトクちゃん
あたしのこと将来お嫁さんにするって
屋敷の人に言ったんでしょう?
例え冗談でも
ご両親の気に障ったのよ
配達してた父さんまで悪く言われて
餅屋の贔屓もやめられちゃって
身分違いを嫌ってほど知らされた
だからお屋敷に行かなくなったの
ううん行けなくなったのよ
そんなことがあったのか?
トクマンはたじろいだ
トクちゃんを責めてるんじゃないの
奥様や旦那様の言う通りよ
トクちゃんが悪いわけじゃなくて
巡り合わせが悪かったの
あたしは餅屋の娘で両班じゃないし
住む世界が違うのよ
だけど
住む世界が違っても
幸せに暮らしている上官を
俺は知ってる
トクマンはチェヨンとウンスを
思い浮かべた
さあ 上官様のことは
わかんないけど
もしもあたしが
もしもよ
トクちゃんのお嫁さんになったとして
武家の出でもない町娘が
あのお屋敷で務まると思う?
それにあたしが嫁に行ったら
この店はどうなるの?
まさかトクちゃん
餅屋を継いでくれるの?
そ それは・・・無理だ
ウダルチはやめられない
そうでしょう?
あたしもトクちゃんに
ウダルチをやめて欲しくないわ
高麗の民を守って欲しいもの
ねぇ
明日は出陣でしょう?
こんなとこに来て
こんな話をしている場合じゃないわよ
いいや
俺はナナを守りたいんだ
好きな女も守れなくて
何が戦だ 何が武士だ
だからナナ
他の男のところに嫁には行くな
俺がお前を守るから!
今は無理でも
俺のこと絶対好きにさせるからな
覚悟しとけよ
トクマンはナナの返事を
聞かずに店を飛び出した
もしも今の告白すら
ナナに拒否されて
完全に打ちのめされたら
明日の出陣どころではなくなる
疾風のように走り去る
トクマンの後ろ姿を見送って
ナナはベェっと舌を出した
ば〜か
もう とっくに好きに
決まってるじゃない
子供の頃からずっと好き・・・
だから諦めなきゃいけないの
それがトクちゃんのためなんだもの
━─━─━─━─━─
それで走って逃げたのか?
チェヨンは処置無しという
顔をしてトクマンを見た
に 逃げてなんかいませんよ
俺の覚悟を伝えて来たんです
戦で手柄を上げて
もう一度 当たって砕けろです
すでに砕けているではないか?
チュンソクは苦笑しながら
トクマンに言った
上官二人して俺をからかって!
俺だって真剣なんです
好きな女を手に入れるのが
そんなにおかしいですか?
上官二人だって手に入れたじゃ
ないですか
身分違いやすれ違いを乗り越えて
トクマンは口を尖らせて
言い返す
だがなぁ
トクマン
お前には覚悟が足りぬ
本気で人を好きになったら
自分のことより相手のことが
ずっと大事に思えるものだ
俺は全部捨ててもウンスを
守りたいとあの時思った
だから一緒に逃げたのだ
お前には命がけの覚悟はあるのか?
上護軍・・・俺
頭を冷やせ
頭を・・・
戦の高揚と懸想を取り違えるな
そんなんじゃない
・・・俺
あいつのこと・・・
やっぱり諦めたくないです
そうか?
ならば
お前の本気 貫いてみろ
止めはせぬ
そう言ったチェヨンの目は
優しかった
はっ!上護軍
ありがとうございます
俺 頑張ります!
好きにしろ
チュンソク
あとは任せたぞ
俺は妻の待つ屋敷に帰るゆえ
きっとトクマンたちのことを
気にかけているであろう
妻の顔を思い浮かべながら
出陣前夜
チェヨンは屋敷へと急いだのだった
*******
『今日よりも明日もっと』
相手のことを思うあまりに
余計に慎重になったり
言い出せなかったり
空回りする恋模様
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
牛歩の如く・・・
明日出立と言い続けて
お話はなかなか一日が終わりませぬ
みあねよ〜┐(´∀`)┌ヤレヤレ
連休ですね〜
安寧にお過ごしくださいませ
