ヤ〜〜
ヤア〜〜


タンのぐずる声
いつもは機嫌良く乗り込む
王宮行きの輿に
チェヨンと二人で乗ることが
わかると
タンは途端に
ウンスにしがみついて離れない


タン ごめんね
あとで迎えに行くからね
公主様と仲良く遊ぶのよ
大叔母様がお待ちかねだわ


ウンスはタンのふっくらした頬に
ちゅっと口づけた


ヤ〜〜ヤア〜〜〜


ほら 行くぞ タン
イムジャ ではあとでな


チェヨンはウンスから
タンを引きはがした
じろりと睨むような顔で
チェヨンを見てから
泣き顔に変わる


ままままま〜
ヤ〜〜〜


その姿が愛おしくて
ウンスはこのまま
タンを連れて婚礼会場に
向かおうかとさえ考え
それから思い直す


うん よろしく
チェ先生も回診に来てくれる
って言ってたし


そうか わかった
では 俺は王様とともに
イ家に向かうゆえ


うん 気をつけてね


ああ


イムジャもな


は〜い
いってらっしゃい
タン あとで
お迎えに行くから
いい子で待っているのよ


ぷうとふくれたほっぺたに
ウンスがもう一度口づけると
チェヨンはじたばたするタンを
抱えるように輿に乗り込んだ


見えなくなるまで見送ってから
ヘジャにぼそっと告げた


ヨンの出仕を見送るのも
寂しくて仕方ないけど
タンがいなくなるのは
胸が張り裂けそうになるわ
心配で 悲しくて


それが母上様の心境なので
ございましょうね


ヘジャは微笑んで言う


ゆっくり動き出した輿の中から
相変わらず
タンの泣き声が聞こえた

チェヨンは
膝の上であやしながら
ふうとため息をついた


しょうがない奴だなぁ
そんなに母上が恋しいか?


ままままま〜
あうあうあ〜


そうか そうだよな
俺も母上が恋しい


よ・・・ん


あ?


よん


泣きながら
それでもチェヨンを
慰めるような言い方に
チェヨンは吹き出した


呼び方がイムジャに
そっくりだ
ヨンではないぞ
父上だ


よん


だから 父上


よん


タンにはかなわぬ
叔母上が聞いたら
卒倒するぞ
父親を呼び捨てかと


チェヨンは腕の中の
小さな宝物が愛おしさで
いっぱいになった


なあ タン
母上の策はうまくいくで
あろうか?


よん


インギュがあの程度のことで
動じるとは思えぬが


ネ〜〜


少し機嫌の直ったタンは
チェヨンの首に手を伸ばし
小さな指で赤い斑点をなでた


ネ〜〜


ウンスの残した昨夜のあと
結局 ウンスは閨で
策を聞き出そうとする
チェヨンのあらゆる技巧に
翻弄されて耐え切れず
吐露させられた
その時の反撃で残したあと


虫さされだ


あうあ〜うまうま〜


かわいい虫が刺したのだ
案ずるな


チェヨンは笑った


━─━─━─━─━─


坤成殿ではチェ尚宮が
そわそわしながら
タンの到着を待っていた

いつもタンに会うときは
母親のウンスと一緒で
多少の遠慮がある
だが今日はタンを
一日
預かることになっており
数日前から
楽しみで仕方なかった

馴染みの小間物屋
コヤンの店から届いた
おもちゃも
公主様の芙蓉の間に広げてある
おやつやお粥の準備も
抜かりない


愛しい人を待つようじゃ


王妃様はチェ尚宮に微笑んだ


お戯れを
そのようなことは
ありませぬ
公主様に粗相がないかと
案じておりまする


子供同士のこと
粗相も何も構わぬこと
公主もなんとのう
いつもと違って落ち着きが
ないような気がするのじゃ
タンを待っておるのかのぅ


ミレ公主が誕生して
はや半年近く
産み月よりも早く生まれ
随分と小さかったミレ公主も
乳母達の乳をよく飲み
すくすくと成長していた
寝返りはもちろん
なんとか座る形もできてきて
王様と王妃様は
公主の様子を見守 一緒に
お遊びになるのを
毎日の日課とされていた

タンはごくたまに
ウンスのお供で坤成殿に顔を
出す程度で
一日丸まる過ごすのは
もちろん初めてのこと
婚礼に行かない王妃様も
この日をたいそう
楽しみにされていた

ふとそこで
入り口でチェヨンの声がした
チェ尚宮は急ぎ出迎える

泣いたあとの顔をしたタンが
チェヨンの腕の中に
ちんまり収まったいた
チェヨンのお供で荷物持ちに
ついて来たテマンが
チェ尚宮に荷物を差し出し
チェヨンが言った


ウンスより預かった品だ
こちらの包みは
タンのおしめと着替え
それから こちらはお菓子
お茶の時間にと
それから・・・


ああ もうよいよい
お前は早う役目に戻れ
目出たい日じゃ
王様をしっかりお守りせよ
ここは心配いらぬ


チェ尚宮は女官に荷物を
預けると
手を広げた


タンや
公主様がお待ちかねじゃ
さ さ
参ろう


タンはあっさりチェヨンの
腕から大叔母チェ尚宮に
抱っこされると
チェヨンの方を振り返り
顔の横でにこにこ
小さく手を振って
部屋の中へ消えて行った


まったく
あんな仕草まで
イムジャそっくりだな


チェヨンはなんだか
甘酸っぱい心持ちになって
タンに手を振り返すと
坤成殿をあとにした


高麗の都は秋だと言うのに
蒸し暑い朝を迎えた
雨になるのだろうか?


*******


『今日よりも明日もっと』
愛しい君が 少しずつ 
大人になるのを見守って
それがうれしくもあり
ちょっぴり寂しくもあり



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