すっかり寝ちゃった


ふぁーっと口を開け
ウンスはあくびをした
昨日の夕方から記憶がない
急な手術だったから
いつも以上に気が張って
倒れこむように眠ったようだ

暖かなチェヨンの腕の中で
チェヨンに髪をなでられて
チェヨンの匂いを感じた

はっとして
チェヨンに尋ねる


典医寺から呼び出し
なかった?


ぎゅっと抱きしめながら
チェヨンが答える


ああ
案ずるな
呼び出しは何もない


ポ〜〜


しっかり寝て目覚めた
タンが二人に言った


タン    おいで


チェヨンはタンを抱き上げ
ウンスの隣にちょんと置いた
早速お乳を探し出すタンに
チェヨンはぼやいた


赤ん坊はいいなあ
俺がやったら
跳ね除けられるぞ


うふふ
ヨンは夜まで待ってて
ね?


待てるであろうか?
一晩耐えた


寝込みは
襲わなかったんだ


当たり前だ
そのようなこと出来るか?
そんな野獣みたいなこと


そお?いつも
たいして変わらないくせに


チェヨンのとんがった口を
ウンスは唇で吸いながら
囁いた


早めに典医寺に行ってみる
患者さんが気になるし


ああ
送って行こう


うん


きゅーっと
ウンスのお腹が鳴った


そう言えば何も食べてない
お腹空いたあ


まったくイムジャときたら
タンと変わらぬ
兵舎から何か運ばせようか?


うん
あ
でも待って!
ほらヘジャの声がする
うふふ
よく出来た女中頭だこと


まことに


二人は顔を見合わせ
笑った


ネ〜〜


お乳を飲み終えたタンが
元気に答えた


━─━─━─━─━─


チェ侍医は休みの翌朝
早めに出仕して驚いた

妊婦の手術があった上に
オ・アムがそれを手伝い
当直室から出てきた


チェ侍医
おはようございます
昨日の手術凄かったんです
なんだか目が覚めました
これから僕
もっと精進しますから
よろしくお願いします


ぺこりと頭を下げた


じゃ  サラ先生
朝餉がまだだから
交代して来ますんで
これにて


手のひら返した猫のように
アムはサラのもとへと
駆け出た


医仙様と来たら
オ・アムに
どんな術をおかけに
なったんだ?


チェ侍医は苦笑した
それからイサの病室に向かい
ここでも驚いた
イサはパリッとした衣に
着替えていた


高麗の着物
初めて着た


イサは恥ずかしそうに
言った
その表情はまだ十五の少年
そのものだった


よく似合っていますよ
では高麗で生きることに
決めたのですか?


はい
どうぞよろしくお願いします


医仙様もお喜びになります
ご報告しなければ


それから二人が
こまごました話をしていると
ひょいっとウンスが顔を出した
タンとチェヨンも一緒だ


調子はどお?
チェヨンも来てるんだけど
あら!チェ先生
ずいぶん早いのね
ゆっくり出来た?


ウンスは病室にいる
チェ侍医に驚いた


おはようございます
上護軍    医仙様
はい   お陰様でのんびり
いたしました


良かった


それにしても一日留守した
だけで
なんだか典医寺の雰囲気が
変わったような
それに手術があるのなら
呼び出してくだされば
いいものを


チェ侍医の言い方に
ウンスは笑った


うふふ
チェ先生も拗ねるのね
せっかくの休みだから
チェ先生には
ゆっくり休んで欲しかったの
いよいよとなれば
頼るつもりだったのよ
でもサラにも一踏ん張り
させたかったし
うまい具合にオ先生が
いたから
オ先生   
此処でやり直したいって
言ってくれたわ


ウンスは
うれしそうだった


で?どうかしたの?
二人して?


あう〜〜あう〜〜


チェヨンに抱っこされた
タンが床に降ろしてと
ジタバタ
その様子を
目を細めて見ていた
チェ侍医は話を切り出した


イサは上護軍と医仙様に
お話があるそうです


何かしら?


これから先のこと
ずっと考えてたんだけど


イサが言って
チェヨンは頷いた


出来れば
此処で働きたい
それで医術を学んで
いつの日か
倭国に帰ることが出来たら
オレの医術で倭国の人の
命を救いたいんです
散々
人の命を奪ってきたオレが
許されるかどうか
わかんないけど
天女   いや医仙様のもとで
修行させて欲しいんです
チェヨン将軍
お許しいただけますか?


そうか
許すもなにも
イサの人生だ
それがイサの生きる意味か?
イムジャはよいのか?


もちろんよ
うんと鍛えてあげる
うふふ
そっか
イサはこの国と倭国の
医術の架け橋になるのね


架け橋?


そう
医術で両方の国の
役に立てたらいいわね


ウンスは微笑んだ


じゃあ
住む場所が要るわ
此処に住んでもいいけど
うちに来ない?


いえ
それならば私の屋敷に
来ると


ええええええ
チェ先生の家に?


独り身ですし
気を使う相手もおりません
過分な屋敷を賜っており
住み込みの老夫婦の使用人しか
おりませんから
部屋も空いております
なのでイサを
下宿させようかと・・・
皆には
縁者ということになって
おりますし


いいのかしら?


オレ
侍医様のとこで
お世話になります
好きなものとか
気が合うみたいだし
仲良くやれそうだ


ふっと挑むように
イサはチェヨンを見た
チェヨンの眉間に
皺が寄る


好きなもの?
食べ物の好みも合うの?
それはいいわね〜


鈍いウンスは
イサに笑いかけ
タンはイサをちろりと見ると
急いで手を伸ばしてウンスの
腕の中に収まり
首にしがみついて甘えている

そしてチェヨンは
美少年イサの言葉に
心がざわつき
また一つ
心配の種が増えたのかと
密かに
小さくため息をついた


昨日とは違う彩りの朝
爽やかな秋の風が
典医寺を吹き抜けている


*******


『今日よりも明日もっと』
誰かの役に立つことで
癒やされる心



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


タンは
未来と高麗の架け橋に
そしてイサは
高麗と倭国の架け橋に
なりますように


そして
「トラジの花の如く」は
インギュの婚礼へと
お話が進みます


また
おつきあいくださいませ