誕生日の翌朝
チェヨンが出仕するのを
見送るために
表へ出て来たウンスと
ウンスに抱かれてご機嫌のタン
まだ堅い蕾のアヤメの前で
ウンスは腰を屈めた


タン
このお邸にも想い出が
たくさん増えていくわね


あう あう うう


昨夜のことをウンスは思い返した
典医寺の祝いの会
みんなからの贈り物のノリゲ
チェヨンはそれを見て
なにやら言いたそうだったが
典医寺の仲間の気持ちだと
うれしそうなウンスを前に
「侍医の差し金に違いない」
と言いたい言葉を飲み込んだ

それからヘジャが作った夕餉
お餅もほかほかで
大好きな海鮮汁も豪華版だった
鶏肉も焼かれ
果物もたくさん用意してくれた
タンも一人前に卓につき
三人でゆるりと時を過ごした

考えてみると
ソウルにいた頃は
誕生日を祝ったことなど
あっただろうか?
毎日仕事に終われ
気がつくと誕生日など過ぎていた
田舎の両親がお祝いに電話を
かけてくれてそれで初めて
思い出すこともあった

忘れているのは高麗でも
相変わらずだが
こうしてお祝いをしてもらい
チェヨンの溢れんばかりの
愛情に触れて 
ウンスは本当に幸せだと思った

いつもそばに寄り添ってくれる
チェヨンと言う存在が
ものすごく愛おしい
それに幸せな夜だったし・・・

ウンスは自然と笑みが
こみ上げた


この庭の花が
そんなに気に入ったのか?


チェヨンは微笑むウンスに
うれしそうに尋ねた


ええ とっても
それにヨンの思いつくことには
いつも驚かされてばかりだわ


ウンスはふふふと笑った


イムジャは花が好きゆえ
庭が
ちと殺風景に見えたのでな


チェヨンは照れてそう言った


うん 花もあなたも
大好きよ

 
では 都の屋敷にも
同じ花を植えようか
どちらの屋敷も大切な我が家
そうであろう?


ええ?いいの?


ああ 無論だ


うれしい
じゃあ 今度ヨンが
お休みの日に
屋敷に連れて行ってね
二人で植えましょう?
楽しみだわ


ウンスのうれしそうな顔に
チェヨンの頬がまた緩む


塞ぎの虫が収まったか?


チェヨンがウンスの
頭をなでながら聞いた


え?


このところずっと
何か考え事をしていたであろう?


ウンスはすっと立つと
タンを胸に抱いたまま
チェヨンの胸に
もたれかかった


気づいてた?


当たり前だ


そっか


イムジャは一人で抱え込む
そんなところがあるゆえな


うん
あまりに恐ろしくて
ヨンにも言えなかったの


そうなのか?
王妃様のことか?


どうしてわかるの?


今 一番の心配事といえば
王妃様のご出産であろう?
何を悩んでいるのか
まだ言えぬか?


そうね
言ってしまうと
楽になるけど
ほんとになったらどうしよう
そう思うと怖くて言えない


そうか?それは
先の世であったことか?


うん
私の知ってる歴史よ


そうか・・・
だがな イムジャ
もうイムジャが知っておる
この時代ではないと
俺は思うぞ


そうかな?


ああ 
人の定めは簡単には
変わらぬかも知れぬ
だが イムジャに出会って
俺は変わった
イムジャには運命を切り開く
力があるように思えてならん


そお?
それを言うなら
ヨンがいてくれるからよ


そうか? ならば余計に
天界で見たこと聞いたことは
あまり気にするな
今 ここにいるイムジャが
すべてであろう?


うん
そうよね
そう言えば
私の知ってるチェヨン将軍には
奥さんが二人いたのよ
ご側室にお子さんもいたはず


チェヨンはむっとした顔で
即答した


ありえぬ
我妻はイムジャだけ
俺の子を生むのも
イムジャだけだ
ほら
すでに歴史とやらが
変わっておる


うふふ 本当だ
でもこの先 側室を娶るとか
その人が子供を産むとか?


あほう
そんな訳あるか!
それ以上言うなら
その口塞ぐぞ


うふふ
ヨンのその言葉
なんだか安心する


チェヨンは有言実行と
ばかりに
ウンスの口を唇で塞いだ
二人の間に挟まれて
タンが二人の頬を小さな手で
なでている
「タンもか?」と
チェヨンはタンの頬に
ちゅっと口づけた
ウンスもちゅっと口づけた
タンは目をくしゅっと閉じて
それからうれしそうに
手を振った

微笑ましいその光景に
後ろで控えていた
ヘジャが
にこにことした顔で眺め
そして頃合いを見計らい


旦那様 お名残惜しいでしょうが
そろそろ お時間です


釘を刺すのも忘れなかった


うふふ
ヨン いってらっしゃい
帰ってきたら 話を聞いて


ああ わかった
なるべく早く帰るゆえ
行って参る


チェヨンは後ろ髪引かれながら
兵舎へと向かった


アヤメの蕾が風に揺れ
綺麗に咲く日を待っている


*******


『今日よりも明日もっと』
贈り物といっしょに届く
あなたの心がうれしくて・・・



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