夕刻のお迎えを心待ちに
うれしそうにするウンスが
そわそわというより
なんだか落ち着かなぬ態度で
窓の外を見ていた
診療時間も終わり
典医寺がやっと落ち着く頃
縫合をお手製の模型で
別室で
練習していた勉強熱心な
サラが診療室に戻り
ポムやヨンファも
ウンスのそばにいた
チェ侍医がいぶかしげに
ウンスに聞く
いかがなされましたか?
気もそぞろなようですが
そおかしら?
いつもと変わらないけど
そうですか?
納得いかないように
チェ侍医が呟いた
いつもと変わらずお綺麗です
医仙様は
ポムが的を外れた反論をすると
ポムの言い分は
さらりとかわして
それはそうと
明日より
いよいよ双城に向けて
先陣が出立ですね
こたび 大護軍は赴かぬとか
と チェ侍医が言った
ええ そうなの
不謹慎だとわかっているけど
あの人が行かなくて
正直ほっとしてるの
私 大護軍の妻失格よね
ウンスがしんみりと言った
そのようなことはありませぬ
医仙様は正直なお方なだけ
皆同じに思うておりましょう
好きこのんで戦場にいくなど
それに
医仙様は身重でもあります
大護軍がそばにいてくれるに
越したことはない
チェ侍医が強く頷く
ありがとう
そう言ってくれて
少しは気が治るわ
それにしても
王宮もなんだか
殺気だってる気がするわ
ねえ ポム
ポムのお兄様も明日
行かれるのよね
そばにいたポムに
優しい目を向けた
はい 医仙様
ポムは屋敷に居りませぬゆえ
よくわかりませぬが
お母様は毎日泣いて暮らして
おるとか
文臣としてお仕えしたはず
なのに 無体なことだと
そうよね
ポムの家も大変だわ
いくら
槍や刀を持たない参謀でも
大切な息子さんだもの
戦地に赴くのは
心配に決まってる
ポムも今日は屋敷に戻るの
でしょう?
はい
早く帰るといいわ
でも医仙様がまだ
いらっしゃるのに
お残しして帰るなど
いいのよ
せっかくの家族水入らず
ゆっくりしてらっしゃい
はあ なれど
いいからこれは
命令よ
パクボム 家に帰りない
はい 医仙様が
そうおっしゃるなら
そうだ これを
ウンスは机の上の包みから
王妃に差し上げたのと
同じ白磁気の入れ物を
取り出すとポムに渡した
お母様にこれを
ご心配だろうけど
お元気になるようにと
お伝えしてね
桜桃のジャムよ
そのまま食べても美味しいし
お饅頭の皮につけても
美味しかったでしょう?
ポムは昨日ウンスの屋敷で
いただいた味を思い出し
ゴクリと唾を飲み込んだ
よ よろしいのですか?
ええ ウネさんのところにと
思って多めに持ってきたから
大丈夫よ
い 医仙様~~!
ポムが感激したように
声を出した
そうでした
アンジェ将軍も
急な呼び出しとか
チェ侍医が口を挟む
ええ そうなの だから
今からお屋敷に伺おうかと
大護軍と言ってたのよ
ウネさんの様子も気になるし
さようでしたか
だからポムも
もうおかえりなさい
はい わかりました
ヨンファさん
あとは頼んでいいですか?
もちろんよ
ありがとうございます
ポムは何度もお辞儀をすると
大事そうに白磁気を
握りしめ 急ぎ帰路についた
ややしばらくすると
チェヨンの姿が中庭に見えた
ウンスは慌てて診療室から
出て行こうとしたが
チェヨンがこちらに来るのが
ひと足早かった
これは大護軍
お迎えですか?
そう言ったチェ侍医の
視線が喉元でとまった
ウンスの落ち着かない理由が
これかと合点し
わざと気づかぬふりをした
ああ
イムジャを迎えに参った
いいのに ここまで来なくても
今から中庭に
行こうと思っていたのに
ウンスが困ったような顔をした
俺が来て困るわけでも
あったかな?
わざと印がわかるように
胸元に手をやるチェヨン
もう ヨンたら
意地悪ね
ウンスが赤くなり俯いた
だがその顔は幸せに満ちていた
そのやり取りを見て
微笑ましい思いと
羨ましい思いが交錯した
チェ侍医は
同じように一瞬だけ
彼女が顔色を変えたことに
気がついた
そなた まさか?
チェ侍医は複雑な思いで
彼女を見ていた
診療室をあとにしたウンスは
ふくれたり 赤くなったり
忙しそうに表情を変えながら
チェヨンになにやら
話かけている
やだ!トクマンさんたら
そんなことヨンに言ったの?
仲がよいのは本当のこと
それにこれはイムジャが
わざとつけたのであろう?
申し開きは出来ぬ
この際
妻とはありがたいものだと
奴らにも教えてやらねばならん
みな 独り身ゆえ
チェヨンがからかうように
ウンスに言った
もう恥ずかしくて
しばらくみんなに会えないわ
チェヨンが笑いウンスの
手を握った
よいではないか
見せつけてやれば
俺がイムジャに見境ないのは
今に始まったことではない
チェヨンの
穏やかな声がウンスに届く
ふたり
自然とからだが寄り添って
物陰で互いの唇に触れた
柔らかな口づけのあと
ウンスの唇が動く
ヨン 大好き
たまらなく 好きよ
ウンスの優しい声が
爽やかな風の音のように響いて
チェヨンの心をくすぐっていた
*******
『今日よりも明日もっと』
何事もなく無事に
1日が終わるようにと
大切な人の幸せを願う