姉小路祐さんの「化野学園の犯罪」(たぶん、講談社文庫)

 

  京都の大学4年生の西郷大介は、質実剛健、飾り気がなく、ちょっぴり不器用でウブな九州男児、それも鹿児島生まれというド真ン中な薩摩隼人。21世紀の絶滅危惧種そのもの。いかにも、まっすぐな人生設計を立てていて、そのための切り札として、「教師になるつもりはないけれど、教職免許は欲しい」という、けっこう面倒くさい男です。

  しかし、世間はITバブルははじけるわ、銀行や企業の統廃合は進むわ、で不景気のスパイラル。教職や公務員志望者が、少ないパイを奪い合う状態。大学の進路相談室の頭痛のもとは、「教育実習先の中学や高校が満員」という実情でした。京都は高校が少ない(真偽は未確認)上に、教育実習は出身校で行うもの的な、暗黙の了解がありました。

 西郷も気がついた時には「実習難民」の仲間入り。出身校であるムサ苦しい鹿児島の男子校に戻るための路銀はない。困っているところに、出身者以外の実習生も大歓迎という高校が、まだ応募を受け付けているという耳寄りな情報が。嵯峨野のさらに奥にある私立高校、化野学園です。まだ実習生枠が空いている、ということから既に怪しいのですが、この高校の卒業者には「教師のたまご」など皆無に等しいのでした。生徒たちは、平均偏差値が30あるかどうかも怪しい状況。数年前まで女子校だったのを男女共学にしたのですが、集まったのは低偏差値の男子のみ。進学先のリストには、名まえを聞いたこともない大学がずらっとならんでいます。化野学園は、京都っ子には知らぬものもいない底辺校。

  先輩教師で、ハブられている社会科担当の細井が、西郷の指導員になりますが、細井の授業を見学した西郷は「信じられない授業風景」を目の当たりにして、なんと「やる気が湧き」「熱血がたぎりまくり」ます。西郷が「教科書を閉じて熱弁をふるう」体当たりの授業に「耳を傾け始める」プチ不良や、ギャルJKたち。

  しかし、もとから「何か問題があった」のでしょうか。生徒が体育館の屋上から墜死、怪しげな遺書をスマホにメモっていたり、バツイチ中年男の教科主任が放課後ギャルにお説教してるなと思ったら、「湖」と呼ばれる「底なし沼」で死体となって発見されたり、もう何がどうなっていうのか、見当もつかない状態へ、なし崩しになだれ込む学園生活。かなり電波なキャラにも関わらず、ギャルとカリスマ女王の座を争う貞子的な女生徒の電波な情報によると、化野学園は無縁墓地を強引に整地した敷地に建てられて呪われており、10年ごとに美少女生徒が不審死していると言うではありませんか。ギャル美少女以外に、冴えない中年男まで死んでいるという時点ですでに呪いの予言はブレまくっているのですが、西郷は「怪しげな呪い」を向こうに回して、連続怪死事件に挑むのですが・・・・・・決意を固めた早々、今度は男子生徒が体育館屋上からミステリアスな墜死を遂げ・・・・・すでに、西郷が「教員免許」を欲しがった理由である崇高な志は忘却の彼方だったのでした・・・・・

 

 

  今回の「あらすじ」は世に言う「超訳」バージョンで書かせていただきました。原本は、もっと「おおまじめ」で、それゆえ、いっそう「トンデモ」ミステリーに仕上がっています。

  いつ推理展開するの?と、不審に思っているうちに、ブータンの物質的貧困VS日本の精神的貧困にかんする西郷の「目からウロコ」な大発見が繰り広げられ、あっという間にラストページが終わってしまいます。削ることのできるキャラにも光をあて「セリフを言わせる」平等主義と、「本格ミステリーとは複雑なミステリーである」=「複雑にすればハイレベルと評価されるべき本格ミステリーができあがる」というミステリー観によって、いやが上にも絡まりあったストーリー展開により、「一読、何が真相だったのか」理解できない怪作です。

 

  そもそも姉小路祐さんの作品を取り上げたのは、「キムラ弁護士編」で姉小路さんの作品をバッサリと「駄作として切り捨て御免」にしたキムラ弁護士に、無条件に賛同したことへの反省から。姉小路さんに関しては、初期~中期の作品を5冊ほど読んだのみ。今世紀の作品を読んでいないのに、先入観でディスるのも短慮に思われた、というか。

  メジャーデビュー作となった「動く不動産」をふくむ初期の作品は、「文章が”た”留めの洪水」「存在することが想像できないキャラの競演」「シンプルというより、アリゾナの砂漠をひた走るハイウェイ並みに波乱がない一本道展開」という点が共通しており、小説として”?”な上に、「謎がない!」「推理がない!」「探偵の存在意義がない!」という、ミステリーとして”!?”な”本格ミステリー作品”の自己コピー大生産な状況。よく5冊も読んだなと思うのですが、私も若かったので勢いで読んでしまえたのだろうと思います。

 

  で、姉小路さん、驚くべきことに、ミステリー界に未だご健在、なばかりか毎年、新刊も発表なさっておられるごようす。

  むむむむむ・・・・・そんな余裕があるなら、斎藤肇さん、司凍李さん、小森健太郎さん、獅子宮敏彦さん、梓崎優さん、氷川透さん、門前典之さん、谺健二さん、関田涙さん、野崎六助さん(評論家さん、とくに京極夏彦研究家さんですが、「幻灯島、西へ」「アノニマス」など「奇論ミステリー」も書いている。村上春樹さん、西尾維新さんファンの方にとっては「禁書」の宝庫)、山口芳宏さん、そして霧舎巧さんなどなどの作家さんに、新刊を書かせてほしい、と痛感します。原書房さん、がんばって、文庫レーベルを創設してください。

 

  「動く不動産」から10年以上たった「化野学園」ですが・・・・・・まず「本格ミステリー」ではないです。

  「動く不動産」では、「これって本当に司法書士の話?」な展開ですが、今回も「本当に教員の話なの?」的展開です。まあ、姉小路さんは現在、高校教師と作家を兼業していらっしゃるので、信憑性は高い、と思いたいですが。適度な、というかハンパにお説教臭さが感じられる作家さんなので、教師は適職かも、とも思っています。

  ミステリーの中にワザワザ、その時代のトレンドを取り込むことで、流行の先端を行く作者であると誇示することの「恐ろしさ」をつくづく感じさせてくれる作品でもあります(まあ「動く不動産」その他の初期作品は「昭和初期みたいな時代遅れの作品」と酷評された、というか酷笑されたので、挽回したくなる気持ちも本当に多少は納得できますが)。しかし「ルーズソックス」や「チェリーボーイ」を連呼されると、「死語辞典か!」とつっこみたくなります。そして、女性たちが「チェリーボーイ崇拝者」つまり「DTの男性が好み」であるという記述は・・・・・まあ、女というものを訳知り顔で書いているけど、的外れ感であふれてるなーと。姉小路さんは初期の短編ミステリーの中で、控え目地味OLを表現するときに「1週間、同じスカートをはいてくる」ほどファッションに興味がないと記述なさったことで有名ですが、「1週間同じスカートで平気」だというのは、ファッション以前に「清潔感」の問題です。

  たとえば、東野圭吾さんの「名作」と名高い「白夜行」などなどには、雪穂が何を着ていたとか、トレンドに関わる記述は”ゼロ”。「時代の古さを感じさせる」唯一の要素は「携帯電話がない!」という時代背景のみ。音楽市場がCD購入・レンタルから、ダウンロードによる曲買いに変遷したことさえ記述されていない。触れなくても、ほとんどの場合、ミステリーというものは書けてしまうので、時代遅れになりそうな要素は極力、排除されています。電話に関しては、「クローズドサークル」の問題と密接に関わってくるので、スルーできないケースが多いと思いますが。しかし、それなりの良作を書いておられる作家さんの多くは「電話を使ったトリック」や「パソコン、特にネット、その中でもLineを使ったトリック」は避けていると思います。たとえば、現在では「パソコン通信」「ダイアルアップ」「ニフティ」さらに「ミクシィ」あたりでさえ、「古いなあ」と感じさせてしまうので。

 

  「化野学園の犯罪」の主人公、西郷は、志も高く「良い先生になりそうな錯覚」を抱かせますが、錯覚です。10代前半「VS教師」な毎日に明け暮れてきた目から見た限り、「理解ありそうな教師」ほどムカつく存在はないのが実情。「先生は理解者だからね」なんて上から目線のお言葉をきくくらいなら、生活指導っぽい石頭先公と、プラ定規で討ち合いしていたほうが、はるかにマシというのが本音です。思えば生徒10人くらいと、石頭及び応援要員3人くらいのバトルだったので、けっこうアンフェアだったと反省しきりですが。

  その西郷先生が、いかにも底辺校っぽい、しかしファンタジックなキャラ設定の高校生たちを「わかりやすく、教え導く」のですが・・・・・・お前たちはやればできる子だなんて耳タコでしょうし、これからは「覚える」ことより「考えること」が大切なんて、別に西郷が初めてひらめいた正論でもないし、集まっているせいとたちは単に「偏差値」が低いだけ、もっと頭の悪いヤツなんて進学校にも、掃いて捨てるほどいるのも、多くの子がとっくにお見通しでしょう。お見通しでも、それで前途が明るくなんて、全く信じていない賢い子たちに向かって、なんて中身のないオバカな訓示を垂れ流すのか、この教育実習生のオヤジは。と呆れて、静かに着席している生徒たち。

  例えば、校長のように「どうか火の粉がかかりませんように」と願う怯懦で臆病な「小者」となら、どうにか会話が成立する。生徒たちも、その種類の「生身の弱さ」を持つ人間だと自覚してるでしょうから。高校生にもなれば、西郷が「責任を取らなくてもよい立場」だからこそ、熱く「理想」を生徒と語り合えるなんて、先刻承知です。

 

  それにしても「裕福な日本」と比較して、極貧で不幸な国として西郷があげているのが、よりにもよって、あの「ブータン王国」です。「幸福度指数」で群を抜いてトップであるブータン、国王夫妻の美男美女カップルぶりを日本人の脳裏に焼き付け、「若くて美男美女だから目立つけど、着てるものって市民や農民とどこが違うんだ? あ、しいていえば、埃をかぶってない」「絢爛でもないし金かからなさそう、みたいな」「王妃様、ジュエリーのひとつもつけてないんじゃ?」な感じでした。まあ、ヨーロッパ各王室、公室も軒並み、地味です。日本の皇室もですが。しかし、姉小路さんからみると「王」がいる、という次点で×なんだろうな、という感じを受けます。

  日本の5円玉1枚で、ブータン人が何日も暮らせる・・・・・不思議はないですね。完全にグローバリゼーションしていない現状では、為替相場の基本がちがってあたりまえ。たとえば「レ・ミゼラブル時代のフランスでは1フラン、あれば贅沢できた。それがユーロになる前のフランスでは、バゲッドとパテを買えるかどうか」なんていう比較が意味ないのとおなじように無意味な比較です。

 

 今回は、細部への突っ込みは封印しよう、と思っていましたが、主人公の西郷の性格設定や、西郷を通して語られる作者の主義しゅちょうにも関わることなので、言及しました。

  だいたい、極貧国で人道的なNPO活動をしたいなら、大学在学中に渡航して、無料奉仕することもできるはず。そういう学生は大勢います。就活の「ハクづけ」のために、最貧国に行き、腰を押し付けて救貧活動にのめりこんじゃう学生も少なくないです。国内にいても、ユニセフは確か一カ月につき2千円単位から継続的な寄付を受け付けていますし、「国境のない医師団」も継続的な寄付(たしか1カ月5千円が一口。口座引き落とし。残額が足りないときは、寄付しなくてよい)と、国内で週一くらい活動できるボランティアを随時、受け付けています。しかし、西郷はそのような足場固めもしている気配がない。そもそも、ネパールやブータンの言葉さえ勉強していない。4年もの長さの学生生活があったのに。4年あると、目的がなくても第二外国語以外、2か国語くらいマスターできます。法、経、理、工、医などの学部でなければ、ですが。わたしは、イタリア語とアラビア語を習得しました。まさか自分がエンジニアやプログラマーの仕事に就くとは思えなかったので、「総合商社や国際的に取引があるメーカーに就職するなら、アラビア語はカタコトでも話せたほうがいいかもしれない」国際経済状況でしたので。当時からすでに、「アフリカで医療につく」と決めた子は、当然、最低ラインとしてスワヒリ語の勉強のために外語大やICUの講座の受講許可をとり、そして、他の大学の医学部に入りなおすために(医学部のない私大だったので)駿台の予備校に通うブラック学生生活。それくらい覚悟がないと、貧困国にいっても「何もできない」「お荷物以下の無駄飯食らい」に終わるのは・・・・・・まあ、目に見えているので、西郷の「のほほん」感は、それこそ「ミステリー」そのもの。

 

  そうそう、ミステリーとしての、「化野学園の犯罪」ですが・・・・・・読み終えても、「実際のところどんな悪事が何件おきたのか」その土台部分が錯綜したまま、わからずに終わります。

  これが、本格ミステリーなら、「嵐が丘」も本格ミステリーだし、「カラマゾフの兄弟」や三島由紀夫さんの「金閣寺」なんて「完成度の高い本格ミステリー」に分類せざるを得ないです。

 

  ただねえ、大の男を殺して、湖沼に隠そうとおもったけど、浮かんできてしまうので、人体模型を錘として死体にむすびつけたら、どうにか沈んだので安心していた、まさか死体にガスが発生してその浮力で湖面に浮かんでくるとは思わなかった・・・・・ってねえ。子どもむけにリライトされた国内外のミステリーの名作もお読みになっていないのでしょうか。

 

  あと、多くの女性が、あと50代以上で白髪のみえはじめた女性のほぼ全員と、少なからぬ男性なら不自然さに気づくでしょうが、朝「黒く染め直した髪」を、夜遊びに行く前にその日の夕方「金髪に染める」いや、ないな、と思います。ヘアカラーを買ってきたから、すぐに髪を染められるなんて、考えられない。まず、最悪頭皮がただれて脱毛、なんて被害が起きないかどうか、24時間くらい前に上腕部内側の皮膚でパッチテスト、これは絶対に必要。染毛前には、美容院でしてくれるくらい完全にシャンプーし、シャンプー剤は徹底的に洗い流す、その上で完全に髪を乾かす。「湿っている」くらいでも水分が残っていると染めムラがおきたり、染まらなかったりする。染める前に、汚れても良いバスタオルを用意、床にはビニールシート。ビニールの「羽織るタイプ」のケープも用意しておくべき。ビニールの手袋は必ず必要。今は、ヘアカラーといっしょにパッケージされているのが、当たり前ですが。そして、染めるのですが、ヘアカラーが髪に浸透するまで、すごく短く見積もっても20分間は必要。待つこと20~40分間、染まったかな、と思ったら・・・・以下、省略。

  とにかく時間と手間がかかりまくり。

  今は、まれに3日もシャンプーしない、なんて子もいるらしいですが、その場合は、最初の「完璧シャンプー」がすでに、ひとしごと。

  あと、短期間にカラーリングを繰り返すことの悪影響は、確実に後悔するはず。

 

  それくらいなら、なぜウィッグ、つまり「かつら」を使わなかったんでしょう。

 

  もうひとつだけ。「お勉強がにがてな子」=「家事をしない子」じゃないということを理解していないのは、男性作家さんだから、でしょうか。職場の男の子たちや男性のブロ友さんたちまで、白い目で見てしまいそうになりました。「良いおうちの良い子」=「お行儀が良くて、家事、とくに料理が上手な子」的「女子高生感」が、あふれた作品なので。実際は「お勉強できる良い子」=「勉強ばかりして家事すべて母親が担当、自分の身のまわりのことさえ母親まかせの子」。多いパターンですよね。女の子だった人なら、思いあたるかと。

  「おばはん」「ばばあ」以外は美少女と美女、最低でもポチャ可愛い女の子しかでてこない、って、いまどきラノベでもやらない「テンプレ・ハーレム」。

 

  さすがに、二度とこの作家さんの作品は、今後、手にもとらないと思います。

 

  口直しに二階堂黎人さんの「鬼蟻村マジック」と、倉坂鬼一郎さんの「五色沼なんとかなんとか館殺人事件」を借りてきましたが。ある程度、積読を消化してからよむつもりです。

 

読み返してみたら、たぶん、過去最長の批判レビューになってしまい、申し訳ありません。

 

あしたは「オドロゴシック」っぽい「悪魔の家系図」をアップできればなあと。

チューダー朝の昔から怨霊に祟られている荘園邸宅。

閉鎖された部屋に眠る鉄の処女。

古来領主は呪われて没落。

買い取った新興貴族。

しかし新領主の家系には魔女の呪いが。

連続する惨劇。

で・・・・・ちょうど、なぜか偶然、タイミングよく居合わせた探偵役、ワトソン役は、21世紀的、悩みもなんにもないアメリカン。いまいち、不安だ・・・・・・