月原渉さんの「太陽が死んだ夜」(創元推理文庫)

 

  第2次世界大戦末期のニュージーランド。フェザーストーンの日本兵捕虜収容所と、クライストチャーチ郊外のメソジスト系女子校ラザフォードで、立て続けに起こった惨殺事件。

 真相解明されないまま、40年あまりがたち、今、ふたりの少女、ジュリアン・グレイとバーニィ・ロイドが、ラザフォードに転入。全寮制なので、それぞれ、ふたり部屋に入寮します。実はジュリアンがこの学校を選んだのには理由がありました。彼女の祖母ケイトもこの学校出身者で、戦時中の殺人事件の関係者だったのです。彼女は事件に関する手記を遺し、ジュリアンはその手記を密かに持ち込んでいました。

 ジュリアンとバーニィが知り合った同級の少女たち。フランス人の血を引く美少女ジェニファ、内気でまじめなキャサリン、温和なお嬢さまロティ、神秘的なマオリ人との混血美少女イライザ、日本からの秀才留学生ベル。恒例行事として行われる教会堂での一週間の共同生活に、彼女たちはこぞって参加することになりました。少女たちを監督するのは、シスター・ナッシュ。40年前には若くて美しかったという彼女も、今ではすっかり年老いています。

 食事当番を決め、ひと息ついた、と思われたというころ、異変が。美しいイライザが惨殺されたのです。そして、それは凄惨な連続殺人の始まりだったのでした・・・・・・・

 

 

  鮎川哲也賞受賞作です。早くも受賞後7年ほどになります。

  図書館で借り、目次を開いたところ、市川憂人さんの「ジェリーフィッシュは凍らない」と似た雰囲気。期待が高まります。冒頭で語られるのは、フェザーストーン捕虜収容所で望郷の思いにとらわれる日本兵コゴロウが、年下の戦友、矢神を何者かに殺され、ラザフォードへの逃走を決意するエピソード。そのあと、1984年のジュリアンとバーニィの物語と、40年前にコゴロウを匿い、奇怪な殺人事件に巻き込まれたケイトの手記が交互に述懐されます。

 

 プロローグの月虹のシーンは美しく、また二人の少女の転校の旅も楽しくて、先が楽しみになりました。しかし・・・・・・

 

 楽しく読めたのは、そのあたりまで。より具体的にいえば、教会堂での合宿が始まるまで。さらに言えば、この時点で、つまり最初の殺人事件が起こる前に、真犯人も、探偵役も、さらには最初の被害者も見当がついてしまいました。ミステリー初心者の方が読んでも、、「犯人はコイツ」、という点に関しては、たぶんバレバレだと思います。語り手であるジュリアンの、露骨なほどに、そしてあまりにも主観的な表現から。

 

  結論としては「物語」としてはもちろん、「ミステリー」という点でも、あまり面白く読めませんでした。

  「優れた本格ミステリーには物語が絶対に必要」というのは、二階堂黎人さんの持論であり、クリスティの「ナイルに死す」「五匹の子豚」「無実はさいなむ」など、クイーンの「災厄の町」などを読めば、その正しさは一目瞭然だと思います。

  この「太陽が死んだ夜」はその逆を突っ走った感じです。「まとめて」おこる連続殺人、その後に続くのは、探偵役機能キャラと聞き役(ワトソン役ではありません)キャラの延々と続く会話、会話、ひたすら会話。聞き役がひとりではないので、誰のセリフかも曖昧なのですが、正直、「誰のセリフ」かなどもはや問題ではありません。たとえば、黒崎緑さんの「しゃべくり探偵」、笹沢佐保さんの「どんでんがえし」、井上夢人さんの「風が吹けば桶屋が儲かる」など、全編会話のみの良作ミステリーすら存在するのですが、それはまた、別の話題です

  本作に近い印象を受けたのが、コージーブックスから刊行された「お嬢様学校にはふさわしくない死体」。まさに、謎解きのレベルとしても同レベル。

 

 登場時に「記号的キャラ設定」をされた少女たちが、まんま「記号」でしかないのも、きつい。

 

 また、わざわざ出したいくつかの「密室」。このトリックなら、ズバッと密室へのこだわりは切り捨てるべき。また、たいへん細かいことなのですが、1984年当時の、しかもニュージーランドで「クローズドサークル」という用語は既に存在していたかどうか。

 

  辛口になりましたが、最近の鮎川哲也賞の高レベルぶりを見てしまうと、やはり過去作とはいえ、見る目はきびしくなります。ただ月原さんの作品何冊かは読むつもり。2作目は列車内本格ものということもあるので。

 

  なお、別件ですが、前回の記事。

 「バカSF」や「これ以上ない無駄な暇潰し」という表現は、すべて田中啓文さんに対する最高の賛辞です。褒め言葉です。

 筒井康隆さん→横田順彌さん→岬兄梧さんの偉大な系譜を継ぐ現代エンタメ作家さんは、田中啓文さんしかいない、と信じています。