佐野菜見さんのマンガ「ミギとダリ」(ハルタコミックス)

 

  たぶん、パラレルワールドの日本。

  1990年2月。神戸山の手地域にあるお屋敷町、オリゴン村。アメリカの富裕層が住む郊外の住宅地をモデルに作られた町です。住民たちの生活も徹底的にアメリカナイズされています。アーリーアメリカンな邸宅。そこで行われる立食のホームパーティ。友だちの家に持参のお菓子は手作りチェリーパイ。

  この町にくらす裕福な園山夫婦。おそらくは50代前半の仲良し夫婦です。幸せなふたりのたった一つの悩みは、子どもに恵まれなかったこと。

  ところが! なんとそんな園山夫婦のもとに養子の少年が来ることになったのでした。夫婦は大喜びで、子ども部屋を用意します。

  玄関に現れたのは、なぜか天然の金髪の美少年、秘鳥くん、13歳。大歓迎する夫婦。さっそく、豪華な夕食の御馳走でもてなします。ところが、秘鳥くんの正体は、ミギとダリという一卵性双生児。外見がそっくりなことを利用して、「ふたりでひとり」のふりをしているのでした。

  じつは、ミギとダリがこの町に「還って」きたことには、ふたりの秘められた目的がありました。

  なんと、ちょっとした機会を利用して、園山夫婦を殺そうと企てるミギとダリ。殺人は失敗に終わり、夫婦はこの企てに気づきもしません。少年たちの目的は? そして、過去にこのパラダイスのような町で、いったい何が起きたのか。

 

 

 

 最近、ミステリーや通常エンタメの良作に恵まれ、そのレビューに忙しかった私ですが、実はマンガも日常的に読んでいます。SFマニアの親友のおススメマンガが多いので、たいてい、「どこか変なマンガ」です。これから少しずつご紹介していこうと思います。 

 

 知っている人は知っているかもしれない、ヴィレッジヴァンガードあたりで平積みになっていた名作マンガ「坂本ですが?」。 その作者、佐野菜見さんの新シリーズ。不定期月刊行のマンガ雑誌「ハルタ」に連載中です。

 「坂本ですが?」は、クール度最上級の無表情万能美形眼鏡高校生、坂本の高校生活を綴ったマンガ。完璧にナンセンスな場面に至るまで爆笑ものの作品で、コミックス4巻で完結しました。

 

 そしてこの「ミギとダリ」。裏表紙の見返しに、いきなり

「しめしめ

まんまとぼくらの

思うたこつぼさ」

という剣呑きわまりないセリフが載っています。ご覧のとおり日本語の慣用句が変です。

 そう、ふたりは施設で育ったためか、はたまた別の理由があるのか、頭がいいのに生活の基本知識や、世の中の常識という点では、幼児以下なのです。

 ロールパンをナイフとフォークで食べようとし、デッキブラシをボディブラシと勘違いして痛い目に合うふたり。どんな計画があるにせよ、行く末の案じられるスタートです。

 

 坂本ほど無表情ではありません。ふたりは「作り笑い」ができるからです。

 園山家のペットの室内犬のゴールデンレトリーバーをいきなり「敵」認定するふたり。ところが犬のほうは、少年たちの登場を歓び、新しい仲間として、じゃれつきたいだけ。この攻防もみものです。だいたい「犬」というものもしらず「ケモノ」と定義するミギとダリ。

 

 実は園山夫婦の方も、人の良いお金持ちの夫婦、かと思わせておいて、ときどき、怪しげなシーンが爆裂。とくに、夫と妻が時折見せる表情が怖い。

 ふたりは善意の第三者にすぎないのか。それとも? それはまだ、判断不可能。

 わかっているのは、今は小太りのおばさまになってしまった園山夫人が、若いころ、超絶美人だったという事実だけ。

 

 既刊2巻。まだ連載中です。2巻になって、ミギとダリがボーイスカウトに入隊。世界が一気に広くなると同時に、また怪しげな人物が増えていきます。

 ふたりの目的は、早くも1巻のラストで明かされるのですが、それによって存在が明らかになった「過去の事件」は謎のまま。

 次第にミギとダリの性格に違いが出てきて、ふたりはなんと解離性人格障害者、つまり多重人格者と認定されてしまう。このあたりの笑いのツボは「坂本ですが?」によく似ています。

 

 コメディではあるのですが、土台にサスペンスフルな世界があり、ちょっとしたヒトコマも見逃せないマンガです。これも伏線では?と疑いはじめるとキリがありません。

 この世界は、小説では描けないなと思わせます。

 

 それと、そうたびたび出てくるわけではありませんが、食べものの描写がおいしそう。「秘鳥くん」歓迎の夕食メニューはローストチキン、マッシュポテトのグレービーソース添え、テリーヌ、ピクルス、そしてジャンバラヤ。またミギとダリが、園山夫人とともにチェリーパイを作るエピソードがあるのですが、読んでいてとても楽しい。

 

 楽しくて、コミカルで、クールで、どこかダークなこのマンガ、これからどう展開するのか、次巻が楽しみです。