辻村深月さんの「太陽の坐る場所」(文春文庫)

 

  卒業後、10年後のクラス会。

  藤見高校元3年2組のメンバーは、東京の居酒屋に集まります。幹事は島津健太。高校時代、そこそこの人気者だった彼は、28歳にして、すでに髪の毛が薄くなり始め、そろそろ中年の気配が漂います。地元F県の地銀に就職し、今は東京支店に赴任中。その他の元クラスメイトたちもそれなりの地位を築いていることを、クラスで一番の美女、半田聡美は痛感します。高校時代からワガママで賑やかだった水上由希は、大手アパレルメーカー、ホリーの新進デザイナー。自分がデザインしたというスカートをはいています。地味だった里見紗江子は映画配給会社の総合職として活躍中。それに比べて、聡美は零細印刷会社のOL。そして、小さな劇団に属して、大女優への夢を見続けています。

 そんな彼女の内心をよそに、みなの関心はあることに集中。「キョウコ」は今度も来なかった、ということ。キョウコは、かつてのクラスメイトで、芸能界に入り、今や人気女優。モデルとしても大変な人気を誇っています。彼女の同級生だったと告げるだけで、話し相手の態度が変わるほど。しかし、卒業以来、彼女は一度もクラス会に出席していません。そればかりか、島津が幹事をしていない、1年半前のおおがかりな同窓会パーティーにさえ来ませんでした。

 なんとか、キョウコをクラス会に誘いだそうと画策する面々。そして、キョウコに会って、説得する役に選ばれたのは、ほかならぬ聡美でした・・・・・・

 はたして、キョウコは次回のクラス会に来るのか。元クラスメイトの胸に、それぞれの高校時代の思い出が去来します・・・・・・・

 

 

 ミステリーとの触れ込みなのに、残り100ページになっても、まだ普通の青春小説・・・・・・と思っていたのですが、実は、れっきとしたミステリーでした。あのトリックだったのか、と気づいたときには、もう遅い。騙された!というおどろきよりも、 「そういうことだったのか」という一種の感動、そして、曇った空が晴れわたるようなさわやかさに包まれます。

 

 読みなおしてみると、序盤から伏線がバリバリ。序盤も序盤、20数ページ、50数ページに、実に大きな伏線があります。読み落としされませんように。特に、後者の伏線は倉知淳さんの「星降り山荘の殺人」の”あの”伏線”と同種類の伏線ですよ。要注意。あの伏線を使う作家さんがほかにもいたのですね。

 映画化されていますが、原作より先に映画DVDを見るのは厳禁です。なにしろ、冒頭設定でネタバレしていますから。当然、映画のレビューもネタバレ満載なので、絶対に近寄らないようにしましょう。ネタバレしてから見ると、どんでん返しの爽快感、「やってくれた! そういうことだったのね」というスッキリ感が、かけらも感じられなくなってしまうと思います。

 

 ストーリーは五つの章に分かれ、五人のクラスメイトの目から見たキョウコが語られています。

 半田聡美の章、里見紗江子の章、水上由希の章、島津健太の章は内容が深く、波乱に富んでおり、それぞれを膨らませて、それぞれの長編小説が書けるほど。最終章が蛇足か、必要な章なのかは、今でもファンの間で意見が分かれているようです。わたしは、いくぶん蛇足気味かな、と感じました。

 

 半田聡美の物語は、キツいです。しかし、ある人物が最後、彼女の背中に向かって呼びかけるひと言が大きな救いになっています。ただ、多くの人がここで、一種の違和感を抱くと思います。

 里見紗江子の物語はさらに、つらい。聡美の章で、紗江子は打ち合わせのために聡美を、隠れ家的超高級フレンチレストランに呼び出し、自分がこの店の常連であることを見せつけるのですが、その店にまつわるストーリーの裏に隠された真実が明らかにされてしまう。

 

 「女はこわい」という男性読者からの感想が実に多いです。こわくないのは、聡美と、紗江子の親友、松島貴恵くらいでしょうか。貴恵は友だちが誰かの悪口に興じていても、けっしてそれに乗らない子。友だちのいなかった紗江子に、自分から声をかけ、たった一人の友だちになります。同じ辻村さんの「かがみの孤城」のヒロイン、こころちゃんも、貴恵みたいな子がいたらもっと早く救われたのでしょうね。

 

 それぞれの章の中で回想される「高校時代パート」のテーマは、いわゆる「スクールカースト」。

 水上由希の章で、陰湿なスクールカーストの実像、そして「女王」が君臨し、全盛期を迎え、失墜するまでが鮮やかに描かれています。

 

 なぜキョウコのもとには、1年半前の同窓会パーティーの案内状が来なかったのか。

 なぜ、キョウコは聡美や紗江子とは喜んで会ったのに、由希に関しては電話をかけてこられることさえ、いやがったのか。

 

 そんな小さな謎のかけらまで、ぴったりと一枚の絵の中におさまる伏線回収のみごとさ。ぜひ、二回以上、読んでみごとに構築された物語のすばらしさを味わっていただきたいです。