佐藤青南さんの「たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に」(祥伝社文庫)

 

  伊東公洋、28歳。法務事務所で所長のパワハラに苦しみながらも、はたらきながら司法書士試験のための勉強続けています。元カノの瑞穂と別れて2年。その間、恋人なし。居酒屋で友人の森尾とその話になった時、マスターのムロさんが、客として同席していた田代奈々という女の子を紹介。ひと目で彼女を気に入った公洋に、奈々は「デートしてみよっか」と笑いかけます。しかし、様々な事情が重なって、ふたりきりのデートだったはずが、男女数人の合コンに。メンバーには、公洋の同僚の若い女性、峰岸佑子もいました。

  どうやら佑子は公洋に恋愛感情を持っているようす。仕事上の小さなミスをフォローしただけで「私のミスをかぶって、助けてくれた」と思い込む始末。

  佑子の感情はどんどんエスカレート。映画に行こうと公洋を誘い、同僚とはプライベートな付き合いはしたくないと公洋が答えると、クビにつながるミスを公洋に押し付けてきます。なぜなら「クビになれば、もう同僚じゃなくなって、映画を見に行けるから」。

  そんな佑子にてこずりつつ、公洋は奈々に対する自分の気持ちを自覚するのでした、これは愛だと。

  もつれた人間関係のなか、殺人事件が起こります。

 

 

 

  本屋のポップが「イニシエーション・ラブを超える恋愛ミステリー」「驚愕のどんでん返し」「イヤミスではない愛の物語」と推し推しでしたので、手に取ってみました。「イニシエーション・ラブ」のことはあまり高く評価していないのですが、もしあれを超えているなら、それはそれですごい。

 

  たしかに、驚愕のどんでん返しではあります。本のちょうど半分の位置で○○〇が殺されてしまうのですから。

  しかし、物語の進むスピードから、この展開はある程度想像できてしまいます。あるいは○○のほうが殺されるか。しかしその展開だと、残りのページ数、話の進めようがありません。とすると、殺されるのはやっぱり・・・

  なんて、読み方をしていると、自分がイヤになります。もっと純粋にストーリーを楽しめないのか、と。

  はい、楽しめなかったです。

  ただひたすら佑子という女が異常なので、その点で読み出はありました。その異常さは「怖い」というよりもっと「気持ち悪い」感じ。すでにして、りっぱなイヤミスだと思いました。

 

  ひとつの物語の大枠の中に、ふたつの物語が語られています。

  ただ、第二の物語のはじまりが、あまりにも唐突な感じ。そして、公洋がなぜ、この第二の物語を知っていたのか、そのあたりも説明不足だと思います。そして、第二の物語の佑子に違和感が。あの佑子に、こんなに”器用な恋愛”ができるのか。

 

  そして、公洋は出会ったばかりで、ほとんど二人きりで話したこともない奈々を、どうしてそこまで深く愛したのか。愛とはそういうものだ、という説明もあるかもしれませんが、自分の未来と引き換えにできるほどの愛とは、そうとうのものだと思うのです。

 

  どんでん返しを読みなれた方(読み過ぎた方、とくに新津きよみさんを読み過ぎた方)、叙述ミステリーのパターンの多くを見抜いてしまう方にとっては、およそ物足りない作品だと思います。しかし、アマゾンでのレビュー評価はきわめて高いです。今の10代、20代の読者さんたちは貫井徳郎さんの「慟哭」や東野圭吾さんの「容疑者Xの献身」のような小説を読んだ経験がほとんどないのでは、と疑ってしまいます。ゆえの高評価ではないかと考えられるからです。

 

  この小説は、スーパーカリスマ書店員、栗俣力也さんとのコラボ企画とのこと。「今、一番読者に読ませたい小説を作る」という企画です。もっとふさわしい作家さんがいたのでは、と疑います。

 

  佐藤青南さんも「このミス大賞」関係でデビューした作家さん。この賞への信頼度がまた揺らいでしまいそうです。ただ、もう一作だけ、デビュー作の「ある少女にまつわる殺人の告白」だけは読んでみようと思います。

 

  余談ですが、この作品(「たぶん,会わなければよかった~」)はAKB48の岡田奈々さんがイチオシした作品で、オビにも岡田奈々さんの応援コメントがあるとのこと(わたしは見逃しました)。作者の知名度のわりに売れているのはそのせいでしょうか。