深水黎一郎さんの「最後のトリック」(河出文庫)

 

   スランプ中のミステリー作家”私”。そんな私のもとに、香坂誠一という男から手紙が届きます。内容は、ミステリー最後の究極のトリックを思いついたので、買ってほしいというもの。同時に”覚え書き”という小説ともエッセイともつかないものが同封されていました。

   私は手紙をいったん放置して、近ごろ気になっている古瀬博士の研究室に向かいます。古瀬博士は超心理学の一人者。

研究対象は双子の美少女と、施設で育った二人の少年。かれらを対象にして、テレパシーの実験をしています。

   その後、届いた香坂からの手紙。そこには、自分のトリックが「読者が犯人」という前代未聞のものだと書かれていました。トリックの代価は2億円。はたして、私はこの誘惑を無視できるのか。

 

 

   「読者が犯人」というトリックは実際に試みられたこともあるそうです。しかし、それは”特定”の書き手と”特定”の読者の間でしか成り立たないミステリーとのこと。

   対して、香坂は、古今東西、老若男女、どこの誰が読んでも結末で「私が犯人だ」と納得するトリックを考えだしたというのです。

 

   香坂の手紙に、トリック論のようなものが書かれているのですが、この部分がなかなか面白いです。作家さんによるミステリー論を読むのはたのしいですね。

 

   しかし、どうしてもわからないのが、超心理学のパートが、「読者が犯人」というテーマとどう関係しているのかということ。私が何か重要な手がかりを読み落としたのかもしれませんが。

 

   「読者が犯人」というトリック、結末であきらかになります。さて、いったい、何割のひとが「私が犯人だ!」と納得するでしょうか。

 

   解説を島田荘司さんが書いていらっしゃいます。この解説が、とても良い。作品をほめ倒すだけではなく、弱点を鋭く指摘しています。同時に、島田荘司さんによる本格推理小説史も読むことができます。島田荘司さんの本格推理への愛情が感じられます。