レイモンド・チャンドラーの「さらば愛しき女(ひと)よ」(ハヤカワ文庫)

 

   刑務所を出所したその足で、黒人街にむかった”大鹿”マロイ。彼は、昔の恋人、ヴェルマを探しにきたのでした。しかし、かつてヴェルマが働いていた店に彼女はいませんでした。マロイは昂奮して、いあわせた黒人を殺し、逃亡してしまいます。たまたまその場にいた私立探偵フィリップ・マーロウは警察の取り調べをうけ、担当の刑事にマロイを捕えるために、ヴェルマを探すようアドバイスしますが、取り合ってもらえません。マーロウは自分でヴェルマを探そうと考えます。

  一方、マーロウはリンゼイ・マリオという男から別件の依頼を受けていました。盗まれた首飾りを取り戻してほしいというもの。首飾りの持ち主は、美貌の上流夫人グレイル夫人。ところが、取引の席上、マリオが殺され、マーロウは窮地におちいります。

 

 

  まだ黒人差別が当たり前だった時代の話です。

 

  マリオを殺され、自らの身も危うくなったマーロウを助けたのが、アン・リアードンという赤毛の娘。父親が警官だったという彼女は肝がすわっています。実に魅力的で、生き生きとしており、暗く重くなりがちな物語を救っています。

 

  グレイル夫人の美しさも印象的。彼女は年老いた夫に飽き足らず、男友だちと遊び歩いています。しかも、夫の目の前で、マーロウを誘惑します。夫は”目が寂しそう”と描かれていますが、この表現が多くのことを物語っています。ハードボイルドらしい簡潔な表現です。

 

  そして、”大鹿”マロイ。殺人を犯して逃げた彼は、逃げまわりながらヴェルマを探していたのですが、そんな彼を待っていたものは・・・・・・

 

  哀切きわまりないハードボイルドの名作です。