和装カップルが庭園で手をつなぐ

 

もう独立しましたが、
以前、うちの事務所に25歳の女性カメラマンがいました。

 

そのカメラマンは自分の機材を持っていなかったので、
会社の機材を使って撮影に行っていました。

 

ただ、そのカメラマン。

結婚式などの撮影に行くたびに、
レンズを落としたり、カメラを壊したり。

ある時は、カメラバッグの中に
コーヒー牛乳をこぼして帰ってきました。

 

もちろん、頻繁に仕事をしていれば、
機材を落としたり壊したりすることはあります。

僕だってあります。

ただ、

 

月に5回撮影に行って、4回何かを壊して帰ってくる。

 

そんな状態でした。

レンズは1本30万円くらい。
カメラは60万円くらい。

修理代も、1回3万円から20万円くらいかかります。

 

それが月に4回。
しかも3か月ほど続きました。

 

さすがに一度言っておかないとなと思い、
それとなく注意しました。

 

でも本人には、
「自分が機材を壊している」という意識があまりないようでした。

あくまで事故。

そんな感覚だったのだと思います。

 

そこで強く責めることはせず、
注意だけにしました。

 

そして次の撮影。

今度は、

 

レンズ4本のうち2本を、どこかに忘れてきました。

 

さすがにこれはと思い注意すると、

「頑張った証です」

くらいの勢いで返されました。

 

なので僕は、請求書を渡しました。

 

レンズ2本。
紛失代金75万円。

 

そのカメラマンは、
請求書を見たまま固まっていました。

 

しばらくして、

「この最後に書かれていることって……」

と。

 

請求書の最後には、

 

「※上記の請求はしません」

 

と書きました。

それ以外は、普通の請求書です。

 

機材を壊した場合、
本人に弁償させる撮影会社もあります。

でも僕は、そうする気にはなれませんでした。

 

75万円を請求すること自体は簡単です。

でも、本当に請求したら、
次から撮影のたびに機材が怖くなるかもしれない。

レンズを落とさないように。
カメラを壊さないように。

そんなことばかり考えていたら、
手が縮こまるかもしれません。

動きも悪くなるかもしれない。

 

カメラマンには、それぞれリズムがあります。

撮影のスタンス。
動き方。
シャッターを切るタイミング。
シャッター数。

全部、人それぞれです。

 

そのリズムを崩してしまうと、
写真まで崩れていきます。

まだ若いカメラマンでした。

だから僕は、
そのリズムまで壊したくありませんでした。

ただし、

 

自分が壊しているものが、いくらするのか。

 

それだけは知ってほしかった。

その請求書を渡してから、
彼女が機材を壊す回数は一気に減りました。

最初は5回に1回くらい。

そして半年後には、
ほとんど壊さなくなりました。

 

ある日、その女性カメラマンのバッグの中に、
パウチされた紙が入っていました。

結婚式の進行表かなと思って見たら、

 

僕が渡した、あの75万円の請求書でした。

 

あとで聞くと、

「これを見て律しています」

と言っていました。

 

僕がカメラマンの修行中だった頃は、
師匠に叩かれたり、暴言を吐かれたりする毎日でした。

まあ、それはそれで学ぶこともありました。

モモの裏とか、痛いんですよね。

 

ただ、

「なんで怒られたんだろう?」

と思うこともたくさんありました。

 

師匠から見えている景色と背景、
未熟だった僕から見えている景色と背景は違います。

だから当然です。

でも、分からないまま怒られると、
モヤモヤだけが残ることもあります。

 

怒る側と、怒られる側。

見えている景色は違います。

そして、それぞれに背景があります。

 

だから本当は、
話をして、お互いの目線を近づけていくのが一番いい。

それが難しいのであれば、

 

「こちらからは、こう見えているよ」

 

と見せてあげればいい。

そうすると初めて、
お互いが分かり合えるチャンスが生まれることがあります。

 

あの女性カメラマンも、
今では独立して、カメラマンを雇って仕事をしているそうです。

そろそろ、

 

「レンズを落とされると高いんだよなあ」

 

という、当時の僕の目線が見えてきた頃かもしれません。

 

 

 

 

 

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