国際ロマンス詐欺被害者のトラウマ(2)
金銭被害のあるなしに関わらず、国際ロマンス詐欺被害を受けた人は身体的・感情的・認知的・対人行動的に混乱を経験します。この心的トラウマを詐欺被害トラウマ症候群といいます。前回はその詐欺被害トラウマ症候群の第一段階である急性期段階について書きました。
リンクしましたSCARS (Society of Citizens Agains Relationship Scams)に公開されているTim McGuiness博士の白書から、引き続き国際ロマンス詐欺被害者が経験するトラウマの3つの段階について書いてゆきます。前回は最初の段階、急性期について説明しました。今回は第二・第三の段階についてです。
2.外部調整段階
時期: ロマンス詐欺の後数カ月から
期間: 個人差あり。数カ月から数年続く
この段階に入ると、国際ロマンス詐欺被害者は普通の生活を取り戻したかのように見えますが、実際にはまだ混乱した状態が続き、非常に苦しい状況にあります。
外部調整段階で詐欺被害者は被害を原因とするストレス的な状況に対処する『コーピング』という行動をとります。
- 継続的な拒絶状態(自分が詐欺に遭ったことを認めない、前段階と同様の行動)
- 「すべてうまくいっている」というふりをする(最小化)
- 詐欺について話すのをやめられない(ドラマ化)
- 詐欺について、詐欺による影響について他人に話したがらない(恥を感じて話をすることを抑制する)
- 何が起こったかを自己分析する(説明)
- 経済的影響が壊滅的で、自立することができない(自己破産)
他にもこの段階では以下のような状態も見られるそうです。
- 健康状態が良くない。(注意力の欠如や経済的損失が原因)
- 不安が続く
- 無力感
- 過覚醒とオンライン接続恐怖症状
- 周囲の人との以前のような密接な関係が維持できない
- オンラインのコンタクトに対して神経質になり、「驚愕反応」をする。
- 健常者に比べて高い割合で恐怖や抑うつ症状
- 気分のムラがあり、幸せな状態からうつ病や怒りに揺れ動く。
- 極端な持続性の怒りと敵意(男性の被害者によくみられる)
- 鮮やかな夢や繰り返される悪夢などによる睡眠障害
- 不眠症、覚醒、夜驚症
- 関係のフラッシュバック
- 解離(人の身体や人生に結びついていないような感覚)
- パニック発作
- 偽りの関係とその余波について話すときに極度の悲しみを感じる(泣き崩れるなど)
- 対処メカニズムへの依存。有益なものもある(哲学と家族のサポート)が、一方で逆高価なものもある。(自傷行為、薬物、またはアルコール乱用など)
ロマンス詐欺被害者のライフスタイル
- 個人の安全やセキュリティに関する感覚が損傷または破壊されている
- 新しい交友関係を築くことをためらい、信頼できる友達同士でしか交友しない
- 自己のアイデンティティ、安定性や知性を疑う
- 金銭的損失による経済的不安
金銭被害を受けたロマンス詐欺の被害者は、金銭的損失のために深刻な財政難にも直面します。
- 金銭的な余裕がないため、所有財産を失う
- 家の喪失
- 家族や友人の経済的負担になる
- より多くの仕事をしなければならない–より多くの仕事、より多くの時間、または退職前に何年もない場合でももっと長く働く必要がある
- 退職後の生活ための貯蓄の喪失が将来の生活に大きな影響を与える
人間関係も難しくなります。多くの詐欺被害者は、家族や友人との以前持っていた親密な関係を取り戻すことが出来ず、将来の関係をあきらめたと報告しています。
生理学的反応
SCARSの観察によると、金銭被害の有無にかかわらず、詐欺被害者は、ロマンス詐欺から数か月および数年後に健康状態が悪化するそうです。これはレイプ被害者の急性体型障害(原因不明の身体症状)とよく似ています。緊張性頭痛、疲労、全身の痛み、胸や喉、腕や脚の局所的な痛みなどの生理学的反応があるそうです。
この外部調整段階の中も2つの段階、地下段階と再異変段階に分かれます。
地下段階
- 被害者は何も起こらなかったかのように自分の生活に戻ろうとする
- 頭の中から詐欺に関する考えをブロックしようとして、事件やそれに関連することについて語りたがらない(そのことについて考えたくない)
- 被害者は集中力の低下と抑うつ感を感じる
- 解離、そして詐欺に遭う前の生活に戻ろうとする
- このアンダーグラウンドステージは何年も続く可能性もあり、感情的な問題が解決されていないにもかかわらず、被害者は「もう解決した」ように見えます
再編段階
- 感情的な混乱に戻ることもある
- 感情的な痛みのが戻り、非常な恐怖感を体験する
- 恐怖と恐怖症が発症することがあります。特に詐欺の状況に関連していることもありますが、非常に一般化されたものの場合もあります。
- 食欲障害。詐欺被害者は摂食障害、特に摂食過多を発症する傾向があります
- 悪夢、夜の恐怖に苦しめられます
- 復讐の暴力的な空想も起こります(特に男性の場合)
(男女とも国際ロマンス詐欺被害者の40%が既婚者。『詐欺被害者(金銭被害を受けたかどうかに関わらず)』だけではなくその配偶者も『バーチャル浮気』を知った場合大きなショックを受けます。精神的サポートが必要なのは『詐欺被害者』だけではありません。その家族も精神的サポートが必要です。被害者の奥様が警察に相談に行ったら、国際ロマンス詐欺について知っておられると思われる警察官からご主人によるDVを心配されたそうです。怒り・敵意・復讐心から暴力的になるという症状は男性被害者の心的外傷の『外部調整段階』に現れる特徴としてMcGuiness博士の白書で言及されています。)
3.通常の生活との結合段階
トラウマの3つ目の段階がくりこみ段階です。この段階で、詐欺被害者は自分の調整段階を認識し始めます。
詐欺被害者は自分の詐欺被害の影響を認識し、逆効果な対処方法によって受けた二次損傷も認識するようになります。例を挙げると、例えばアルコールに頼ることが逆効果なコーピング方法であることに気づくなど。この被害の影響を認識することは重要なことだとMcGuiness博士は白書の中で述べています。
McGuiness博士の記事によると、男性の被害者は多くの場合、ロマンス詐欺の後に長期間治療やサポートを受けようとしません。被害から6か月以内に治療やサポートを受ける男性被害者は5%未満だそうです。一方、女性被害者は約25〜30%が6か月以内にサポートを受け、約50%が1年以内にサポートを受けようとします。
通常の生活との結合段階では、詐欺被害者はロマンス詐欺被害とその余波を生活に統合し、詐欺被害のことはもはや生活の中心的な焦点ではなくなります。罪悪感や恥などの否定的な感情も解決されて、何でも詐欺のせいにはしません。但し、経済的な問題は長期的で、場合によっては永続的なものになる可能性もあります。
最後に
国際ロマンス詐欺の被害者トラウマ症候群とレイプトラウマ症候群はよく似ていますが異なる部分もあります。また、他の心理学(恋愛関係破綻に関する心理学など)も適用できるところがあります。現段階で国際ロマンス詐欺の被害者が経験する心理的な段階を解決する効果的な方法などはありませんし、これからいろいろな研究がなされてゆくことでしょう。このトラウマに関する3つの段階仮説を理解することで、被害者も周囲の人も状況をどう理解すればよいかの参考になるかと思います。
免責事項
この記事の要約は国際ロマンス詐欺被害のトラウマに関して理解を向けることを意図したもので、特定の療法や心理学的診断を推奨するものではありません。医学的・心理学的治療については精神科医やセラピストにご相談ください。同様の免責宣言を原文のMcGuiness博士もされています。
参考資料:
https://romancescamsnow.com/dating-scams/scam-trauma-syndrome-sts/
SCARSからVictim Education Partnerのバッジいただきました。これからも記事を日本語で紹介してゆきます。

