写真の人に対する国際ロマンス詐欺被害者からのコンタクトが歓迎されないのは

 

 前回、は日本の心理学の論文から関係破綻後のストーカー的行為を引き起こす要因について説明しました。『ストップ国際ロマンス詐欺』のフェースブックページでシェアしてもらったら「いいね」の他に『怒りマーク』もいただきまして反響は様々です。私の意図は写真の人にこだわる被害者の方を『責める』のではありません。理解してほしいのは以下の点です。

  • 『未練型ストレスコーピング』の一つとしてある意味『普通の行動』ではある『写真の人に対するこだわり』が『失恋としてのアフター・国際ロマンス詐欺(送金被害あるなしに関わらず)』からの回復を遅らせるものです。つまり写真の人のこだわりは回復につながらない。
  • 詐欺被害者が『ストーキング的行為』を行ない、写真の人に『ストーキング』と認識された場合、その程度によっては『犯罪』とみなされる場合もあり、十分な注意が必要です。
  • 何よりも、『写真の人』は詐欺に無関係であり、『写真を使われた被害者』であり、『プライバシーを尊重されるべき』ことも知ってほしい。そして、多くの場合何度も詐欺被害者から様々な理由でコンタクトを受け、うんざりしており、自分の写真盗用に対して彼ら・彼女らは最小限のことしかできないのです。(毎週火曜日配信中の『写真の人は何と言っているか』シリーズもお読みください。

 

今回は写真の人にコンタクトを取ろうとする場合に認識しておくべき倫理的な側面についてSociety of Citizens Against Relationship Scams (SCARS)の記事をもとに書いてゆきます。再びサイバーストーキングについて言及しますがどうか上記の意図をご理解ください。

 

■ ストーカー的行動

 

ネットストーカーまたはサイバーストーカーとは、メールやSNS、メッセージシステム、ブログなどを利用して特定の人物をフォローして、生活を観察し足り追跡したり執着し、しつこく付きまとうストーカーのことで、サイバー犯罪の1つ とみる考え方もあります。(Norton 「ネットストーカー被害の対処法と、被害を未然に防ぐ7カ条」)

 

国際ロマンス詐欺被害者は相手が詐欺だとわかっている・いないに関わらず、詐欺師との関係が破綻すると『失恋』の状態になります。被害者は『写真の人物を想い続ける』(未練型コーピング)や、『写真の人物を責める』(拒絶型コーピング)によって『失恋』によるストレスに対応しようとします。その結果、ストーキング的な行動に入る人々も中にはおられます。

 

写真の人のリアルな様子を見たいという、ちょっとした好奇心もあると思います。また、写真の人が詐欺師とは異なる人物であることを確認する必然性も感じているでしょう。そして国際ロマンス詐欺被害者は写真の人が本当は誰なのかを探し始めます。
 
写真の本物の人が存在し、その人は詐欺師とは別の人物で詐欺に無関係なのだということを確認できることは重要です。それが『自分の相手は「なりすまし」であった』という強力な証拠になるからです。ここで納得して終わりにしていれば問題ありませんし、私が接したことのある日本の国際ロマンス詐欺被害者の方々は写真の人が別人であることを知ることで相手がなりすましであったことを納得されています。
 
しかし、詐欺被害者の一部には、写真の人に連絡を取ったり、その人の生活の中に入ってゆこうとする人もいます。多くの方は『お気の毒なので写真が詐欺に使われていることを知らせたい』とおっしゃいます。本当に純粋に優しい気持ちからでしょう。そしてソーシャルネットワークで友達申請するだけかもしれません。しかし一歩道を誤ると、写真の人や被害に遭いそうな人を守る自警団になろうとしたり、自分自身を相手に強制的に受けれさせようとしたり。海外のケースでは、写真の人に会える可能性のある場所へ出かけたり、職場に電話をかけてきたり、写真の人の配偶者のSNSアカウントにコンタクトを取って『まだ別れていないのか』など言ったりといったこともあります。これくらいのレベルに入ると確実に『ストーキング』の部類に入ります。
 
 

■ 覚えておくべきこと:写真が使われてしまったことは写真の人の責任ではない
 国際ロマンス詐欺というのは、詐欺師がどこかから盗んできた写真を使ってデートサイトやソーシャルネットワークで金持ちそうな人物や美女・イケメンなどのプロフィールを作成し、ターゲットとする国や地域や年齢層の男女を狙うものです。写真を詐欺師がゲットする経路は様々です。以前の被害者から送られてきた写真、SNSで勝手に盗んできた写真、有名人であれば新聞記事や公式サイトに掲載されている写真など。
 
 なりすましの被害を受けた『写真の人』には、詐欺事件に関してどれほどの責任があるでしょうか。 ある被害者の方は、『写真をしっかり管理してくれていれば写真を使われることはなかったでしょうに』とおっしゃいました。
 
 しかし、すべての写真がずさんなプライバシー管理の結果で盗まれたわけではありません。写真の主にはコントロールできない状況で盗まれた写真は多いのです。例えばSNSで自分のタイムラインやアルバムを友だち以外非公開にしていても、プロフィール写真とカバー写真は誰にでも見えるようになっています。そのたった2枚の写真を盗んだだけでも、偽アカウントは作れるのです。私の友人の東南アジア人はプロフィール写真とカバー写真の2つだけをなりすまし詐欺師に盗まれて詐欺に使われました。お子さんもいるその友人のプライバシー設定は投稿が全て友達限定でした。
 
 ですから、なりすましの被害を受けた『写真の持ち主』を『写真盗用の原因を作った』として責めるべきではありません。誰でも写真を盗まれる可能性があります。
 
 特に仕事でインターネットを駆使する人ならば、写真をネットに公開しないと顧客に信用されなかったり、商品が売れなかったりします。写真が使われてしまったことは、写真の人の責任ではないのです。
 
 
■写真の人と詐欺被害者の間に関係性はあるか?
 
 詐欺被害者は詐欺師がその写真の顔を使っていたため、実在の人物とはまだ何か『つながり』『関係性』があるはずだと信じる方々もおられます。 
 
 『〇〇(写真の人の名前)は詐欺に関与していたように思える』とか、『私が好きだったのはやり取りしていた詐欺師じゃなくて写真の人だった』『私は写真の人と相性が良い、彼と実際に会えば愛されるに違いない』といったことをおっしゃっていた被害者の方に遭遇したことが何度かあります。
 
 しかし、これらは『写真』と『詐欺師とのやりとり』から想起されたものであり、現実ではありません。国際ロマンス詐欺被害者がその顔(写真の人)について想起する関係性は現実には存在しません。多くの場合使われている魅力的な写真は既婚者だったり同性愛者だったりするかもしれません。詐欺被害者が『写真の人』に感じる関係性は、国際ロマンス詐欺被害者が写真の人に詐欺師が作っていたイメージを投影させたものです。
 
詐欺師が使っている魅力的で好感度の写真の男性がゲイであることはよくあります。
 
 
■ サイバーストーキングは歓迎されません!
 
 純粋な目的で写真の人に関心を持ったと、どの被害者の方もおっしゃいます。しかしどんなに純粋でピュアな美しい心でも(おそらく皆さん純粋な気持ちだと信じています)、写真の人が望んでいないメッセージを送るのであれば、そこでサイバーストーキングになるかならないかの一線を越えてしまったことになります。
 
 ここで考えたいのは、写真の人は本当にあなたから受ける『写真が詐欺に使われています』という報告が『世界で最初でかつ唯一のもの』なのか? ということです。
 
被害者の目線で考えれば、いつでも自分と相手は一対一なので、『彼に知らせてあげなければ』『気の毒なので一言言って差し上げたい』といった優しい気持ちでコンタクト取りたいと思うことでしょう。
 
 しかし、実際には、ほとんどの場合詐欺師がその写真を使うのは唯一で最初のことではありません。国際ロマンス詐欺の詐欺団は組織化された犯罪者集団です。利益を得るためにたった一人のターゲットを陥れるだけにとどまっているはずはありません。効率よく詐欺を行なうには、複数のターゲットとコンタクトを取ります。更に、ある詐欺団の1グループが使う写真は複数の別の詐欺団が使っている可能性が大きいです。
 
 ですから、当然のことながら、一人の『写真の人』は詐欺団が写真を使ってコンタクト取って詐欺行為につながった数だけ大勢の被害者から何度も何度も同じような連絡を受けているはずなのです。例えば20の詐欺グループが一定期間の間に同じAさんという方の写真を盗用してそれぞれ10000人にコンタクトをとり、それぞれのグループが最終的に5人の被害者に送金させたとしたら、少なくとも100人の「怒れる被害者」や「被害をまだ認識していない恋する被害者」と、「純粋に写真が盗用されていますとお伝えしたい被害者」のコンタクトを受けることになり、更に送金まで至っていない人からの善意の写真盗用の報告もあるとしたらもっと大勢から同じような内容のメッセージを写真の人が受けることになります。
 
 詐欺被害者が写真の本物の人にコンタクトを試みると、しばしば無視されます。そうすると、被害者の方は何とか写真の人からの反応をもらいたくて、メッセージを繰り返し送ったり、SNSの友達リクエストをしたり、別のSNSアカウントを作って何とかしてコンタクトをとろおうとします。結果として、『写真の人』の立場からすると、繰り返し恐ろしいストーキング行為を受けたと感じさせられるのです。
 
 詐欺被害者としては『優しい気持ちから何とか写真の人とコンタクト取りたい』と考えていたはずです。しかし、写真の人が詐欺被害者から何度もしつこくコンタクトを受けたことで詐欺被害者を『サイバーストーカー』として訴えることもあり得るのです。詐欺被害と詐欺師との関係終焉と金銭的喪失で苦しんだ上にストーカー呼ばわりされてしまったら、さらに被害後の苦しみは大きくなるでしょう。そうあってほしくないです。
 

■ 直接的ではないサイバーストーキング的な行動なら良いか

 

 サイバーストーキングは直接的なものであるとは限りません。サイバーストーキングの被害を受けた人はオンラインでストーキングをされていることすら気が付かない場合があります。

 

 詐欺被害者の方々はSNSで写真の人を無言でコミュニケーションなしにフォローするかもしれません。『〇〇さんのインスタにフォローしている。相手とはコンタクト取ってません。5000人以上もフォロワーがいて相手にされないことはわかってます』みたいなことを被害者の方がおっしゃっていたのを実際に聞いたことは何度かあります。何も行動に起こさなければ、サイバーストーキングは問題ないでしょうか? 詐欺被害者の心の安定が得られるのであればよいことだと思いますか?

 

 もちろん何も起きていなくて人気SNSユーザーをフォローしているのなら、その時点では何の問題もないように思えるでしょう。しかしながら、会ったことのない、関係性のない『写真の人』について思い続ける行動は、詐欺被害や詐欺師との交際関係破綻からの回復を助けるものにはなりません。これは恋愛関係破綻の際にストレスに対応するための『未練型コーピング』の一つです。相手のことを想い続ける(反芻・拘泥思考)が精神的に落ち込んだ状態から復帰することを妨げます。

 

 

 

■ サイバーストーキングの法的側面

 

日本でもストーキング防止法がありますし、世界中の多くの国で同様の法律があります。これらの法律により、罰金または懲役となります。

 

SCARSの元記事に実際にあった事例が書かれています。詐欺被害者が米国の元陸軍将校のプライベートな生活に対して嫌がらせや妨害行為を行ない、既に退役しているその軍人の生活を滅茶苦茶にしたそうです。この詐欺被害者は写真の人の家族や友人にも友達リクエストをし、地元の警察にも訴えたりして大きな騒ぎを起こしたようです。現在ドイツの裁判所で争われているものです。

 

ほとんどの詐欺被害者の方々は自分が犯罪行為に関わっているとは思わず、懸命になって写真の人にアクセスしようとしたことをサイバーストーキングなどと言われるとショックを受けるでしょう。しかし、写真の人に固執しすぎると、ただフォローしていただけなのがエスカレートしてゆく可能性は否定できません。

 

■ では写真の人に対して詐欺被害者はどうするべきか? ⇒そっとしておいてあげてください!

 

 詐欺被害のトラウマから行なってしまう行為であるとはいえ、どの詐欺被害者も見知らぬ人(写真の主とその家族や仕事の関係者など)の生活を脅かす権利はありません。写真が盗まれてなりすましをされた人たちも「なりすまし」「写真盗用」の「被害者」であり、プライバシーと尊厳が守られるべきではないでしょうか。

 

 一部の例外はあります。例えばインスタで活躍中のイケメンのお医者さんはフォロワーを沢山ほしいのでフォローされても怒ることはありません。但し彼らはフォローを増やして自分のクリニックに美容整形の施術を受けに来る人を増やしたいのであり、被害者とお友達になりたいのではありません。ある退役軍人は一人一人対応して『別れのメッセージ』を被害者たちに送っていました。一人一人に丁寧に対応する方も中にはいます。

 

 しかし一方で国際ロマンス詐欺被害者たちが会社や配偶者などに電話をかけてきたりして非常に迷惑しているといった声もあるのが現実です。写真の本物の人は詐欺事件とは無関係で写真盗用に関しても責任はないですし、被害者が遭遇した事件にも関係がありません。彼らのプライバシーを尊重することが一番の優しい気遣いです。

 

 写真の人が誰だかわかり、電話番号や勤務先の住所まで割り出せたとしても、そっとしておいてください。

 

■ 詐欺被害者はどうすればいいの?

 

 写真の人にコンタクト取りたいという衝動を抑えるのはきっと難しいことでしょう。それでも写真の人にコンタクトをらずにそっとしておいてあげてほしい。しかし、ある程度の期間お付き合いしていた詐欺した使っていた親しみのある写真。そのことを考えないでと言われるとかえって考えてしまい、被害のリバウンドが起きる可能性もあります。人間は抑制されるとかえってリバウンドしてしまうものです。トラウマを克服して回復できるようにするには、専門家によるカウンセリングやセラピーが必要です。

 

 「カウンセラーやセラピスト、お金かかるのでしょう?」という疑問が出てくると思います。被害者からお金をとるサービスには否定的な方々もおられます。しかし人がお金を払うのは『モノやサービス』に対するのではなく『それが提供する価値』に対してです。従って有料のカウンセリングやセラピーというのはそれに見合った価値を提供したいというサービスです。それでも無償が良ければ、厚生労働省の関係のNPOが提供する無償サービスもありますので、検討してみてください。詐欺被害の相談ではありませんが、専門のカウンセラーが対応するものです。但し、無償のサービスには落とし穴もあります。以前、よりそいねっとやいきずらびっとをご紹介したら繋がらないとのご意見をいただきましたし、ネットで評判を検索したらあまり好ましくない対応もあった様です。一方で詐欺被害に遭った知人に「いきずらびっとがとても良かった」と言われたこともあり、繋がる時もあれば、良い無料のカウンセラーに当たることもある様です。

 

それから、SCARSの被害者支援フォーラムも活用されるとよいと思います。無償ですが英語です。但し翻訳機能がついているので、ちょっと怪しいとはいえ日本語で読むこともできます。SCARSの被害者支援フォーラムは無償ですが個人情報を求めてきますが、悪用される心配はありませんのでもしあなたが国際ロマンス詐欺の被害を受けたのであればぜひご検討ください。