顔写真による誤った想起
米国のある街でのレイプ被害者が、何人かの容疑者の写真を警察に見せられた。被害者は名前は知らないが見慣れた顔の男性の写真を指して『この人が犯人です』と言った。男性は近所に住む人で、懲役45年の判決を言い渡された。のちに男性の家族が再審を求めてDNA検査を実施させ、男性の無実を証明した。しかしその近所の男性は冤罪が証明されるまでの7年間、刑務所に入れられた状態だった。
この事例は犯罪被害者が見慣れた他人を実際には関係のない犯罪と結びつけてしまった結果です。
なぜこのようなことが起きるのかについて犯罪心理学などの分野で様々な研究がなされています。この事例が載せられていた論文では、次のような実験が行われています。
被験者:80人の大学生(平均年齢19.33歳、標準偏差1.09)、40人の高齢者(平均年齢71.76歳、標準偏差8.01)
被験者はビデオを見せられ、そのビデオに登場した人物がそれぞれ何をしていたかを覚えておいてもらう。
40人の高齢者と40人の学生はビデオを見てからすぐにテストを受け、残り40人の学生は3週間後に同じテストを受ける。
テストは、何人かの俳優の写真を見せられ、どの俳優が何をしたかという質問に答えるというもの。
テストで受けた質問に対して、学生(ヤングアダルト)のグループは写真の人と質問された行動を結びつけて、その人(ターゲットとしている俳優)がその行動を行なったという判断をしました。一方高齢者のグループは見慣れた写真の人から無関係な行動を結びつけていました。
- 高齢者のほうに多い傾向が、文脈自由の親密性(Context Free Familiarity)といって、全く関連性がない(文脈がない)のに親しみを感じて見慣れた顔を質問された行動と結びつけてしまうというもの。実際に会ったことがないのに、その顔の人と会ったことがあるようにかんじてしまう。冒頭のレイプ被害者のケースで言うと、『近所の人で話をしたことがないが家の前をよく通っていたため、見慣れており、結果として犯人にしてしまった』
- ヤングアダルトに多い傾向が、誤った想起(False Recollection)といい、犯罪行為に関する質問と顔写真を結びつけて、その写真の人が行為者であると結論づけるというもの。つまりアクションのことを聞かされて写真を見せられると、実際には起きていないことも起きたこととして想起されてしまう。
誤った想起については別の実験(Lindsay, Hagen et. al (2004))でも報告されています。この実験では、大学生の被験者に子供のころに起きたこと2つと実際には起きていないこと1つを伝える。被験者の半数は記憶を呼び起こすために先生とクラスメートが写った学級写真を与えられる。写真を見ると、実際に起きていないことも起きたこととして思い起こされる。学友と先生が写った写真と、聞かされたストーリーが結び付けられ、被験者は実際に起きたことのように本当は起きていないことを思い起こす。
『見慣れた写真』と『現実になっていない気いた事柄』を人は容易に結び付けて『誤った想起』にしてしまうことがあります。
国際ロマンス詐欺の被害者は、詐欺師と交際のあった間は写真の人が詐欺師であると信じてその写真を毎日見ていました。詐欺被害者が被害を受けた後でも写真を見続けるなら、詐欺師から伝えられていたこと(愛の言葉など)を「写真の人」と容易に結び付けられてしまいます。そのため、実際には交流を持っていない『写真の本物の人』との関係性を感じるようになる。
国際ロマンス詐欺被害者が詐欺師が使っていた写真にこだわり、見続けることは、『未練性コーピング』の一つでトラウマからの回復を遅らせます。さらに、写真の人との間には実際に起きていない事柄を写真と結びつけてしまい、文脈自由の親密性や誤った想起を引き起こす可能性があります。
参考資料:
Alan W. Kersten, Julie L. Earles (2016). Feelings of Familiarity and false memory for specific associations resulting frim mugshot exposure.Psuchonomi Society Inc. 2016
