メッセージやメールでご相談くださる国際ロマンス詐欺被害者の方にも、私のブログ記事でも、いつも『詐欺師をブロックしてください』とアドバイスしています。本当にその通りになさる方もおられますが、そうできない方々もおられます。一度ブロックしても、再度ブロックを解いてしまう方もおられる。『ブロックしました』と仰るので信じていたら、しばらくしてから『詐欺師に脅されています、どうすればいいですか?』とご相談いただいたこともあります。話をよく聞くと、やはり言われた通りにブロックなさっていなかった。被害者の方々のお気持ちは分かりますが、結局は犯罪グループと繋がり続けることになんの益も得られないのです。
『XXXを見てはいけません』と言われると『見たくなるのが人の傾向』です。1980年に公開された米伊合作のローマ皇帝カリギュラの話を映画化した作品があまりにも過激な場面が多いため、上映地域が制限されたそうです。それがかえって人々の関心を引いたということから、「見るな」と言われるとかえって見たくなることを『カリギュラ効果』といいます。
『見てはいけない』と言われて『見てしまった』というお話は神話や伝説、昔話、宗教書などでいろいろ語られています。ここで宗教談義や比較文化論などを論じるつもりはなく、『なぜこの人は見てしまったのか』ということを『国際ロマンス詐欺の被害者』が『ブロックしてください』といわれても相手の詐欺師をなかなかブロックできなかったり、メールやメッセージを既読にしてしまうことに結び付けて考察しました。宗教的・文化的解釈や細かい意味合いではなく、「動機」に焦点を当てていますので、各ストーリーに伴う『教訓』とかについては詳しく触れません。今回は古事記のイザナギの話です。
4)イザナギ…姿を見たい、様子を見たい
Izanami and Izunagi by Kobayashi Eitaku 1885
物語:-------------------
イザナギとイザナミは、天の橋に立って矛で混とんをかき混ぜて日本の国土を作った、つまり国を産み出したというのが古事記の国産みの神話です。そして国産みに続いて神々を産み出す「神産み」が続きます。
しかし神産みの段階で、火の神を生んだイザナミは火傷をして死んでしまいます。そこでイザナギは妻を追って黄泉の国まで行きます。黄泉の国を訪れたイザナギはイザナミと再会。イザナミは喜びますが、既に黄泉の国の食べ物を口にしてしまったので冥界を出ることが出来ないと言います。そして冥界の神々と話をしてくるので、それまでの間自分の姿を決して見ないでほしいとイザナミはイザナギに言います。
しかしイザナギは妻の姿を見てみたくなり、そして櫛に火をつけてイザナミがいる部屋の中をのぞいてしまう。するとそこには腐敗して体中にウジがたかり、雷をまとった妻の姿がありました。見られたくない姿を見られたイザナミは怒ります。イザナギは怖くなって逃げだすと、イザナミは黄泉の国の女の怪物、黄泉醜女(よもつしこめ)をけしかけて追いかけさせます。何とか逃げ出せたイザナギが大岩で道を塞いで黄泉の国との境を作り、イザナミと離縁します。イザナミは、岩の向こうで「こんなひどいことするなら、私は1日に1000人を殺す」というと、イザナギは「ならば私は1日に1500人の子供を産ませよう」と言います。
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イザナギとオルペウスの話はよく似ています。イザナギが見るなと言われたのに妻の姿を見ようとしてしまった動機…それは「イザナミの姿を見てみたい」でした。オルペウスの「エウリディケがいるのかどうかという不安」とは少し違います。
国際ロマンス詐欺において、『詐欺師との接触を断って、ブロックして関わらないようにしてください』とアドバイスしてもなかなか聞けない被害者の方々がおられる背景にあるものの一つが、『相手の姿を見てみたい』です。
『写真の人が本物なのだろうか。それとも、アドバイスしてくれた人が言うようにアフリカやパキスタンかインドの若い男の子なのだろうか』
『写真の人が本当に日本に来てくれれば、そうしたら彼が本物だとわかる』
『問い詰めてゆけば自分の姿を見せてくれないだろうか』
『自分がガーナの大学中退の若者だということを告白してくれるだろうか』
国際ロマンス詐欺の被害に遭った方は、相手の本当の姿を見てみたいと思うでしょう。そして接触を続ければその機会があると信じるかもしれません。
しかし、詐欺師はなかなか自分の真の姿は見せません。見せてくれても、それが本物だという保証はありません。例えば『僕はガーナの貧しい青年で、お金に困ってこんなことをしている、許してほしい。あなたは私のお母さんみたいな人だ』なんて言って告白されたら、それを信じてしまうでしょうか? ガーナ人だというのは嘘じゃないかもしれない。しかし貧しい青年がスマホ使って毎日チャットなどできるはずもなく、組織化した詐欺団の一青年が哀れな男の子を演じているだけでしょう。
イザナギは洞窟を大岩で閉めて、そしてその後で禊(みそぎ)をして身を清めました。もし、あなたが詐欺師の本当の姿を見てみたいという好奇心から接触を断てないでいるとしたら、詐欺師との繋がりを作っていた穴(LINEやメッセンジャーやメールなど)を心の大岩で閉じて、そして詐欺師のことを考えないで済むような気分転換のできることをしてみることです。それがあなたにとっての「みそぎ」になります。
以上、4回シリーズでお送りしました『見るなもタブー』を破ってしまう心理、パンドラ、オルフェウス、ロトの妻、そしてイザナギのお話から考察してゆきました。1年の終わりも近づきました。良いお年を!
