いつもお読みくださりありがとうございます。ブログで何度か取り上げた瀕死の未亡人(または富豪)詐欺。これは余命幾ばくもない大金持ちの男性か女性が、身寄りもないため莫大な遺産を孤児院や教会、あるいは被災地などの困っている人々のために役立てたい、そのための手助けをしてほしいと頼んでくるというものです。そして、その大金の銀行からの受け取りを委ねると、登場人物は病床の人物から銀行員や弁護士などに入れ替わる。本番の詐欺行為は、この登場人物が入れ替わった後のストーリーです。大金を送金するために、手数料や税金などの費用が発生。その都度、被害者はお金を請求されます。しかし本当にその大金が被害者の銀行口座に入ることはありません。

 

  今までのBaiting記事とは趣向を変えて、もう少し読み物的に脚色してみました。従いまして内容的には「本当にBaitingで相手からゲットした内容」を残しながらも創作・脚色も加えています。その点ご注意ください。しかしながら手口の紹介としての役割を壊さないようにはしています。尚、この詐欺師の情報はScamwarnersに掲載されています。
 

登場人物

雅美 :本人女性。

ベルナデット:瀕死の未亡人

アブドゥル:マレーシアのメイバンクの役員

マリアム:銀行のスタッフ

アマンダ:雅美のマレーシア人の友人。

アマンダの叔父と従兄

 

略語説明

KL クアラルンプール (マレーシアの首都)

JB ジョホールバル (シンガポール国境近くにある都市。)

KLIA クアラルンプール国際空港

 

これまでのお話

 

 雅美はフェースブックで受け取ったメッセージのベルナデットという女性にメールをすると、その女性は余幾ばくも無い富豪の未亡人で、身寄りがないので自分が死ぬ前に信頼できる誰かに巨額の財産を託して、それを困っている人々を助けるのに寄付をする手助けをしてほしいと頼まれる。そして銀行の連絡先を伝えられ、銀行役員のアブドゥルから指示されて、お金の受け取りのためにクアラルンプールに行くことになる。

 

第四話 飛んでクアラルンプール

6月16日

 早朝、雅美は羽田発エアアジアの深夜の便で早朝にクアラルンプールに到着した。

 

 朝早い便だが、それでも友人のアマンダは雅美を迎えにやってきた。

 「マサミ、マレーシアにようこそ。旦那も一緒に来る予定だったのだけれど急なお客さん入っちゃって。よろしくって言ってた。あと父と母もね。」

 「アマンダ、本当に久しぶり、そしてありがとう」

 雅美はアマンダと一緒に仕事をしていた時代、そして人も気温も熱い南国の雰囲気を懐かしく思った。

 「ご両親はどこにいるの?」と雅美。

 「今はKLに。兄が両親のためにコンドミニアムを買ったの」

 二人は懐かしい話をしながら、駐車場に向かった。アマンダの白いトヨタ・プリウスに乗り込むと、雅美はアブドゥルにメールを送った。

 

アブドゥル宛の雅美のメール:

今朝早く、KLIAに到着しました。今、友人のアマンダの車に乗って、彼女の叔父さんの店にレンタカーを借りに行くところです。

 

 「ねえ、雅美、今回は何の仕事なの?」

 「あ、ちょっとね…」

 アブドゥルやベルナデットに「秘密にして」と言われたことを守って、アマンダには詳細を伝えない雅美であった。

 

 KLIAからポートディクソンに向かう高速道路上で、アマンダの携帯電話が鳴った。

「ちょっと待ってて」と言って、アマンダは途中サービスエリアに車を停めた。そしてかかってきた電話に自分からかけなおす。マレーシア人なら運転中に平気で電話をとる人もいるが、日本に留学したり駐在して車を運転した経験のあるアマンダは車をきちんと止めて電話をするのだった。

 

 アマンダは困った表情をして、福建語で何やら話をしている。

 

「雅美、ごめんなさい、叔父さんからの電話なの。レンタカーに問題があったみたいで、それで従兄の店に行ってくれって。いいかしら。10時には間に合わないわね」

 

 クアラルンプールに飛行機が着陸してから約2時間。マレーシア時間で午前9時前くらいである。

 

 

アブドゥル宛の雅美のメール

レンタカーに問題があるそうです。午前10時には間に合いません。友人のアマンダが従兄の店に連れて行ってくれるそうです。あなたのスタッフにはSMSを送りました。

 

 なかなかアブドゥルかその部下の男女とは連絡がとれなかったが、やっとアブドゥルからメールが届いた。(おそらく専業で詐欺をしているので、彼らは朝はゆっくり過ごしているのだろう。)

 

アブドゥルのメール:

You have to send us your Malaysia Number so that we will be in contact with you Okay am waiting for the number now,

 

 雅美は何度かアブドゥルの部下たちの電話番号に何度も電話をしたが、なかなか通じなかった。

 

雅美のメール:

何度も電話しましたが、全然通じません。なぜですか?

今アマンダの従兄の店に向かっています。

 

 アブドゥルは執拗に雅美の電話番号を要求してくる。

 

アブドゥルのメール:

Send Your Phone Number we need to call you and pick you up

 

 雅美はマレーシアの電話番号を持っていない。国際SIMカードで香港番号なのだった。

 

雅美のメール:

私は国際SIMカードを使っています。この電話番号に電話してください。

+852 (Hong Kong Phone)

 

 

 正午前、昼食をとるのに、途中ムアルというところで高速を降りた。なんでも、アマンダのお勧めのシーフード店があるというのだ。しかし、そこに行くときはいつも夫の運転だった。道がよくわからず、迷いながら海側に車を向けた。雅美が話しかけても、顔をこわばらせてなかなか応えてくれない。アマンダは自信家だ。自分がわからないことは認めたくない。しかしこのシーフード店に限っては、自分の運転で行ったことがなかったため、道がよくわからなかった。運転中にスマホのカーナビアプリを立ち上げることもできず、運転を続けていた。

 アマンダは途中で車を停めると、再び福建語でどこかに電話をしていた。どうやらお手上げの状態で夫に電話をしているらしい。しかしアマンダは何としても自分の日本から来た親友に美味しいシーフードを食べてもらいたいのだった。

 

 

 

 

 すると、銀行のスタッフだというマリアムという女から雅美の携帯電話に電話がかかってきた。

「いったいどこにいるの!!」とマリアム。

「わからないわ。アマンダに聞きたいのだけれど今は運転に集中してるから。」

 すると、別の電話から音楽が流れた。

「雅美、その着メロ、旦那の電話なの。とってくれる?」とアマンダ。

「…えっつ?」 と雅美。

「はやく!! 雅美が出るって言ってあるから」とアマンダ。

「えっと…」と言いながら雅美はマリアムの電話を切ってアマンダの電話をとった。

「はい、雅美です。アマンダは今ドライブ中なの」と雅美が言うと、アマンダの夫は道順を詳しく説明してくれた。

 すると、もう一度、マリアムから電話がかかってきた。この時はまだアマンダの夫との電話に出ているので、雅美はマリアムの電話を無視した。

 アマンダの夫との話を終えると、もう一度マリアムから電話がかかってきた。この時は雅美はアマンダの夫から説明された道順を忘れないようにするため、話をすることを断った。

「今、食べるところ探してるところです。後で電話ください」

 

 そしてしばらくすると、今度はモハマッド博士という男から電話がかかってきた。

「もしもし、… もしもし… 聞こえないのですけれど…」

 雅美は電話に出たが、電話の声が聞こえなかったのだった。モハメッド博士は何度も「ハロー、Yes I can hear you」と言ってきたが、雅美には聞こえていなかったのだった。

 男から2,3回電話がかかってきたが、同じ状況で終わった。

 

 ここまでくると、アブドゥルとその部下たちは苛立ってきているはずだった。

 

(続く)