ヤマイダレに寺と書く病は生活に支障をきたし非常につらい病気だという。![]()
しかし場所が場所だけに病院へ行くには少々思い切りと勇気を要し、安易に口にすることは憚られるような雰囲気がある。
生死にかかわることはめったになさそうだが罹った人は皆、本当に辛いと言う。
「ぢ」と朱色で書かれた薬局の看板を目にするたびに苦笑していたが、ある時期を境に、ご愁傷様です・・・と心で合掌してしまうようになった。
そんな悩ましく辛く、人を恐れさせる病、痔。
その痔の恐ろしさを教えてくれたのは友人の父であった。![]()
人生の先輩は時として身を持って教えてくださることもあるのである。
父上は仕事中に高血圧で倒れ、病院へ運ばれた。母上も弟君も昼間働いておられ面倒を見る者がいないため、嫁いでいた友人が実家に帰りしばらく世話をすることとなった。
入院中の世話といっても、着替えや身の回りの物を届けるくらいである。しかし父上は頑固でワンマンであるが、初めての入院で不安、あまり体を動かせないもどかしさがあり我儘になっていた。
数日は神妙にしていたが食欲も普通にあり、気分も悪くないため退屈もしてきたのであろう。
あれこれとうるさく、自分で身の回りの事もできるのだがオーバ-アクションで不快を訴え、なんやかやと些細なことまでさせた。
具合が悪ければ寝ているだけしかできないだろうが、なまじっか調子が良いのでいらんことをしたり考えたりするのである。
母上が気を利かせて携帯電話を父上に持たせたので、家族は見えない鎖につながれてしまった。
見舞いに行けば長々と不安や不満を訴え、それでも足らずに家に電話をかけてくる。
それにやれご飯がまずいだの、看護師が愛想悪いだのという愚痴から今後の病状はどうなるのか、退院後にどうするかということから老後の人生設計までと幅広く、憂いを含んだ人生相談を電話に出たもの誰彼かまわず話すのでたまったものではない。![]()
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友人は聞いているだけで気が滅入るというので、聞き流すと良いと提案した。だが真剣には聞いていないつもりでも、聞けば聞くほど鬱陶しくなりきがめいるのだ、とのこと。そう返されて、辛いだろうけど頑張ってねと何の解決策にもならぬありきたりな事しか言えなかった。
一日中ベットで寝ているので運動不足となり、ストレスも溜まり、父上は極度の便秘となった。![]()
毎日長時間トイレにお籠りになっておられたというから、生みの苦しみを嫌というほど味わったのだろうと推測する。![]()
そして持病の痔が悪化するまで時間はかからなかった。
数日後の朝、便器を血で赤く染め、貧血を起こしてしまった。![]()
それを聞いて私は忠臣蔵の討ち入りを思い出してしまった。雪の上に斬られた者の血がボタボタと落ちるシーンである。
そのことを友人に伝えると、「なんでやねん!」とツッコまれたが、少し考えてから「ん、でも修羅場であったことは確かやなあ」と言った。
ナースコールを余力で押した後、父上はぐったりとしてしまったそうだ。
血染めの現場。青ざめて倒れそうなハンケツのおっさん。
サスペンス劇場さながらの現場であった。
つづく![]()
