土曜の朝は、家族の各自が好きな時間に起き、
あるものを食べる。
テレビを観ていた夫が私に声をかけた。
「おい、タロウ帰ってきてる?」
「え? 友達と遊びに行ってたよ」
「靴があるか、見てみろよ」
「あれ、ないかも」
大学4年生の息子は、オールナイトでカラオケやボーリングをする時は
必ず、LINEをくれるし、明け方には帰ってくる。
まだ彼女の気配はなく、いつも同じ男友達と遊んでいる。
「LINEしてみろよ」
いつもならメッセージを送るところだが、通話のボタンをおしてコールした。出ない。
(今、どこ?)
メッセージも入れた。
まだ朝8時だから、どこかで朝ご飯でも食べているのかもしれない。
私は洗い物をして気を沈めてみた。
もう一度スマホをみる。
既読がついていない。
もう一度コールしてみる。やはり出ない。
おかしいな。
いつもなら電話もすぐ出るし、画面にも通知が出るはずだ。
なにより、何の連絡もなく遅くなるような子じゃない。
私は洗濯機から洗い終わった洗濯物を出した。
空は快晴の洗濯日和。
タロウのTシャツを、パンっと音をたてて広げる。
自分が21歳の時は、ポケベルも携帯もなく、
母には「友達の家に泊まる」といって彼氏の家に通っていたものだ。
一度だけ、どこでつきとめたのか、
彼氏の家まで電話をかけてきたことがあった。
「あんた、本当に勉強してるの?」
怒っているような悲しんでいるような震えた母の声に
「なんでこんなとこまで電話するのよ」
と怒りをぶつけた記憶がある。
今はスマホでいつでも本人と連絡がとれる。
男の子だし、そんな安心感から今まで深く干渉することはなかった。
「おい、友達に連絡してみろよ」
夫の声がして、私は持っていた干しかけの靴下をカゴに戻す。
「だって、連絡先しらないし。 あ!」
もう一人いつも一緒にいる子を思い出した。
部活が一緒だったから、
お母さんの連絡先はスマホにあったはずだ。
電話をかけるのが嫌いな私が、
迷わず受話器のマークを押した。
「朝早くすみません。いつもお世話になります。
タロウの母ですけど、そちら、もう帰っていますか?」
「え? 6時くらいに帰ってきて、今寝てますけど。
タロウ君、帰っていないんですか?」
「そうなんです。 ドブにでも落ちてないかと思って。
レオ君の電話わかります?」
「ちょっと待ってくださいね。 折り返します」
レオ君は中学からの同級生で、
毎週のように家まで車で迎えにきてくれて遊んでいる。
そういえば昨日うちの子が自転車で出かけたのかどうかも分からない。
レオ君の自宅の電話番号を聞き、すぐにかけた。
「いつも本当にお世話になっております。
鈴木と申します。昨晩そちらの息子さんと一緒だったのですが」
「え?」
早朝の電話にお母さんは戸惑っているようだ。
「えっと、うちの子と一緒だったんですか?」
「はい! あ、レオ君といっしょでした」
レオ君の家は4人兄弟で誰のことかすぐに分からなかったらしい。
「あ、レオに変わればいいですか」
「はい。 お願いします」
「もしもし」
無理やり起こされたのだろう。
声が枯れていて、レオ君の声なのか、うちの息子の声なのか分からない。
「あのね、タロウが帰っていないんだけど」
「え、オレ、朝6時ごろ、家の前まで送っていきましたよ」
「え、でも靴がないんだけど」
「え? そうなんですか?」
「あれ? ちょっと待って、もしかして」
受話器を持ったまま2階に上がって、
タロウの部屋のドアを開けた。
タロウはいつもの布団に横向きで寝ていた。
いるじゃん。
「ごめん、レオ君、いたよ部屋に。ごめん、ほんと、ごめん」
電話を切って、タロウを起こした。
「ちょっと、あんた。
帰ってないと思って、レオ君の家、電話しちゃったよ」
「はあ? おかしいだろ」
寝起きだからか、いつもより口調がキツイ。
「だって、靴がなかったんだもん」
「あるでしょ。っていうか、なんで部屋見なかったんだよ」
「そうだよね。 ごめん。
レオ君にも謝っておいて。やだ。わたし」
あわてんぼうのタロウの母さんは、
あちこちで今笑われているだろう。
息子もLINEで
「おまえんち、過保護なの?」と言われたそうだ。
母親として子供がいないことが、こんなにも後先考えす、心配で行動を起こしてしまうんだという感情に驚いた。
テレビを観ていた夫が動き出した。
「おーい、靴、あるじゃねえか」
「だって、あんたが、靴がないとか、帰ってないとか言いだしたんじゃん」
「よく見ろよ」
「もう、なんで部屋を見なかったんだろう」
ベランダに戻る。タロウのパンツをパンと音をたてて広げる。
大きな穴がお尻に開いていて、早く彼女が出来て欲しいような、もっとまだ私が心配をしていたいようなそんな気持ちになった。




