誰しも、ふとした思いがけないことで「穴」に落ちることがある。

それは苦しく、怖くて、逃れたいものであるかもしれないが、そこからしか見えないものがある、ということを私に教えてくれたのが、渡辺和子さんだ。

渡辺さんが9歳の時に、父親が渡辺さんの目の前で暗殺された。
父親は2・26事件の犠牲者だった。

その後、渡辺さんは信仰を持ち、人生の時々に落ちてしまった「穴」から見えた世界、真実を、私たちに伝えてくださった。

春馬さんが「大切なことはすべて君が教えてくれた」の撮影中に、東日本大地震が起きた。

未曾有の災害なのに、自分は、このようなしごとを続けていていいのだろうかと悩む、春馬さん。
そのなかで、春馬さんは、被災地ボランティアに入ったという。

当時、映画「わさお」が封切られたばかりだった。
わさおは、青森県鰺ヶ沢町の実在の保護犬だ。わさおと飼い主さんも、被災地に入り、皆さんを励まし続けた。

春馬さんは動物が好きだから、被災して、いのちを奪われた動物たちにも、こころを痛めたに違いない(こちらは人災で、被災地の、考えられぬほど多くのペットや家畜たちが餓死させられた)。

この時、日本列島に住む人たちが今まで経験したことのなかったことは、東京電力の原発が放射能汚染、人災を出したこと。
いまも、非常事態宣言レベル7(最悪のレベル)が解除されていない。

「大切なことはすべて君が教えてくれた」は、このような人間社会の「穴」のさなかで、懸命に仕上げられた作品だ。

春馬さん演じる教師の修二は、生徒や恋人に愛される自分が、実は仮面の自分であったことを知る。

思いがけないことではまった「穴」から見えた真実は、修二を、恋人を、修二を「穴」に引きずりこんだ生徒を変えてゆく。

ひとりひとりが苦しみながらも、他者に支えられながら、変わってゆく。その描き方がていねいだ。

作品の主人公以外の登場人物も、それぞれの人生で主人公なのだということが、等しく描かれている。

春馬さんの出演作品が、ひとつひとつ、このように、大切に作られていたら、どんなによかったかと思う。

この作品で、信頼を支えに、ひとりひとりが変わってゆく姿と、後年のミュージカル「キンキーブーツ」で、ローラが、自他を変えてゆく姿が、私には重なってみえる。

春馬さんが、初めて演じたいと強く願ったローラは、修二という一歩から始まった気がする。

いままで自分が必要としてきたもの、すべてを失った時に修二が見えたものは、彼に対する恋人の愛だった。

この作品が、恋人役の戸田恵梨香さんの代表作に選ばれたことも、嬉しい。

春馬さんは、作品が長く生き続けていくことを、願っていた。

私は、もっと、春馬さんの実力に見合った作品を共に創る人がいたならという残念な気持ちを、ここ2年持ってきた。

「大切なことはすべて君が教えてくれた」は、春馬さんが、これからも生き続けていける作品だ。こころある方々に、御覧いただきたい。

映画「わさお」もね。