※ マヤの発言部分を紫色にしています。
遠くで鐘の音が聴こえている。その音が段々と大きくなって全身に響き渡り、気がつくとマヤは、塔のてっぺんにある真っ白い部屋の中にたたずんでいた。
「幼い獅子よ、眼下に拡がる記憶を忘却の光に変えて、今この瞬間に、地球から立ち去るかどうかは、自分の選択次第だ」
眼下には、時空を超えて、一つひとつの人生が、今なお同時進行的に展開されていた。マヤは過去と未来を掌握し、ミクロとマクロ、個であり全体の、両方の視点を獲得していたが、光の粒になって、どの人生も体験することができた。
振り返ってみれば、マヤは今まで、それなりに良いこともしたかもしれないが、相当ひどいこともしてきたようだ。しかし、ゼロポイント的に解釈すれば、光も闇も、善も悪も、すべてを含んだものが今の自分であって、ろくでもない過去ですら、いとおしく思えるのだった。
「・・・もし、わたしがここで、過去の記憶を忘却の光に変えたとしたら、眼下にひろがる未来の記憶はどうなってしまうの。未来のわたしだというG、あなたは、どうなるのです?」
「それは心配には及ばない。時間のバイパス工事をすればいいだけのことだ。一瞬、空間ずらしをすればいい。君は死の淵をさまよった際に、空間ずらしをした経験が、すでにあるだろう。生れる時も、死ぬ時も、そして目醒めの時も、自らの選択に委ねられているのだ。外の世界に行きたいということは、安全で快適な生の世界に、ずっととどまっていたいということの、パラドックスでもあることを、忘れないでくれたまえ。」
※パラドックスとは、日本語では逆説。一見真理に反するようだが、よく考えると一種の真理を表していることや、逆に一見正しくないようでも、実際には真理をついている様子を意味する。(例:急がば回れ、負けるが勝ち)
「それではG・・・あなたはなぜ、死の淵をさまよっていた、幼い頃のわたしを助けてくれたの?」
「わたしが助けたわけではない。君が生きることを選択したのだ」
「では、なぜ、宇宙図書館に案内してくれたの?」
マヤは幼い頃、死の淵をさまよっている時にGに出会い、宇宙図書館の存在を知るのだが、宇宙図書館で学んだ記憶をすべて消去して、元の世界に戻ることを許されたのだった。
たった一つだけ、ヒントとして、夢の中で宇宙図書館にアクセスできるとGに教えられ、その日以来、夢を検索するようになり現在に至っている。
「それも、自分で選んだのだ。君は幼い日、一枚のモノクロ写真を見て、心が凍りつくような思いを味わった。死の淵をさまよっていたのは、その三か月後のこと。その時の君は生きることに絶望し、真底、地球から去りたがっていた。
映画に見る「量子の世界」(3)『守ってあげたい』(1/18)より
その叫びは宇宙にまで届いていたのだよ。君の声は決して大きくはない。しかし遠くまで届いていることを忘れないでくれたまえ。迷子になって泣いている子獅子の声を耳にしたら、放っておくことはできないものだ。」
以上、「6と7の架け橋」から転載しました。(次回へつづく)
Beat It (1983年 マイケル・ジャクソン)






